第10話🌸不利。

「秋葉様!こちらへ!」

「どうした急に。2階に何かあるのか?」


俺と実春は今、屋根裏に行こうという所だ。

実春に引っ張られながらもあと一段で到着らしい。

「はい!こちらに足をかけて、それでもう一方の足を…

って、わぁぁ⁉」「…!!?」


どたーん。


「あ、秋葉様大丈夫ですか…へ⁉//

やだ、わたしったら…///」

俺はどうやら、転ぶとき咄嗟に実春を庇う形で

仰向けになった様だ。実春は慌てている。


「実春…悪いが起こしてくれないか…?//」

「よい…しょっと。すいません、急に呼び出してしまって…

ですがほら!良い景色です――はッ」



俺に言ったことを気にするように、ハッとした実春。

「ああ。実春に良い景色が見えているならいい。」

「……!

ふふ。秋葉様、すっかり明るくなりましたね!」

盲目に劣等感を抱かなくなった事がそんなに嬉しいのか、

実春は大袈裟なくらい喜んでくれる。

「実春のお陰だ。有難う、実春。」


「窓を開けると涼しい風が心地よいです!」

「本当だな。俺も感じるよ。」

実春とぴったり並んで、窓から風を浴びる。



「実春、…俺は仕事を探すことに決めたよ」

風に吹かれながら、決めた覚悟を打ち明ける。


少し間を空けて実春は口を開き、

「……秋葉様!わたし、わたしすっごく嬉しいです…!

秋葉様がそんな、清々しいお顔をするなんて!」

「そ…そうなのか?」

「とってもお綺麗です…!秋葉様が少し、自信をつけたみたいで…」


と可愛らしく喜んでくれた。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「町に俺は工房や店を訪ねてみる。…それで、着いてきてくれたのはいいが、

実春はこの後どうする?」

「わたしは買い出しをしています!」

「…そうか。くれぐれも攫われたりしないように…な」

馬車で会話を交わしていると、到着したようだ。

実春の手をとって、そっと馬車を降りる。


「では実春、行ってくる」「応援しております、秋葉様」


人で賑わう時間帯だからか、何度か肩がぶつかりながらも杖をつく。

…千里松と歩いた頃が懐かしい。

確か昔の街並みは、米屋・書店・装飾品工房・衣装屋…

それらの大体の位置は分かる。…今も変わっていなければ。


職探し、頑張らねば。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「うちで働きたい…白紅家の次男が⁉へっへ、そりゃあ経理で大活躍だろうねぇ

…えっ?盲目?」

「でも品出しと点検できないんでしょ?だって目が見えないんだから!」

「バカなこと言うね兄ちゃん、うちの工房に細かい作業ができない奴は要らないよ」

「う~ん…ちょっと、うちで働くには不利な条件かな、

ごめんね」


もう次はどこへ行けばいいのか分からず、街を回る。

その言葉はもっともだ。文字が書けない、手作業ができない只の若者を、

雇うような所なんて…。


『うちで働くには不利な条件かな』


不利。俺は父の言葉を思い返す。

『盲目に劣等感を感じる必要は無い』

父は気にかけてくれたが、その裏で教育に頭を抱えた。

『秋葉はこのままじゃ、将来職に就けんだろう…可哀想な話だが。』

千里松にそう話していたんだ。


結局、その通りになった――

『秋葉様、すっかり明るくなられましたね!』

(…!)


(実春……っそうだ、暗くなってはいけない。

俺も支えてもらってばかりでは、だめだ。)

実春の言葉に救われ、再び顔を上げたその時。


ポツ、ポツ、サアアア……


晴雲町に、雨雲が落ちた。

人々は急いで屋根の下へ向かったが、俺は呆然と雨を浴びていた。


俺は後悔している。


千里松に突き放されたこと。

家族に今も昔も、支えられっぱなしということ。

実春に、世話になりすぎということ。


(俺は、大切な人に何も返せないのは嫌だ…!)



「秋葉様!」

ふいに、実春の大声が聞こえた。

「なにやってるんですか秋葉様っ!!!ほら、屋根はこちらに!!!」


濡れた袖を引っ張り、雨宿りを促す実春。俺はまだぼーっとしていた。

「すみませーん!ここの店でしばらく雨宿りを…」

「……あ」



「あーー!アンタ達、いつぞやの熱愛ラブラブ夫婦カップル!」


「ら、らぶらぶかっぷる⁉わたし達のことですか…⁉//」

「…っまて、どこかで聴いた、印象的な声だ……」


気だるげな、楽しげな声。

そうだ、実春とはぐれた時「捨てられた」と俺を脅かした…!


「串団子の彼か…!」

「そう!…なんて覚え方してくれてんだい愛され者の兄ちゃん。」

実春が「知り合いですか?」と囁いたので頷く。


「ここは君の店か?」「いや?父ちゃんの店さ。」

「わあ秋葉様、お団子が沢山です!」

「確かに、香ばしい匂いが漂っているとは思ったが…」

まだ濡れた袖を掴んではしゃぐ実春。

俺は彼に勧められてさつま団子を二つ買う。


「…!」「⁉すっごく美味しいです…!」

よく練った芋がほんのり甘い。こんな素朴な甘さが俺は好みだ。


「っくく、ご夫妻の反応は面白いねぇ…もぐもぐ」

そう言って、幼く笑う彼。…というか彼も食べてないか?


「そうでした!お団子屋さんのお名前は?」

「おお、そういや。雷黒らいぐろきりだよ。

もう17になったんだ~」

お団子を頬張る霧は、年下だった様だ。


「雷黒の!頼んだ米取りに来たよ!」

威勢の良い女性の声。



俺は今日二回目の驚きの声を上げることになる。

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