第7話🌸隣で。
俺は実春に手を引かれ、夜の
「それはそうと実春、ああいう奴に絡まれないよう気を付けてくれ。
とっても、……心配した。」
「……!///
秋葉様…ご心配をおかけしました。」
「ですが秋葉様!
屋根から落下するのは危険ですから!」「屋根?」
俺が不思議に思っていると、実春は驚いた。
「気づかずに落ちてきてたんですか‼
じゃ、じゃあどうやって上ったんです…⁉」
「さあ……?」
立ち止まったのか、実春の足音が聞こえなくなった。
そして、俺の袖を掴むと、
「秋葉様は
目が見えないことを辛いと思いますか?」
そう訊いた。
「——辛かった…」
実家に居たころの、色々な思いが蘇る。
「けど、罪悪感で苦しかったことも含めて、
俺の人生だ。」
「それに見えなくたって
香りや音は分かるだろ。」
そう言い切ると、実春は嬉しそうに
「ふふっ。その考え方、凄く素敵です!」
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「泊まりたい⁉
こんな時間に!!?」
大きな家の玄関に、おばあさんの怒声が響きます。
「うちは宿泊処じゃ無いんだけどねぇ…」
「まあまあ。この方達も
かなり家を訪ねて回ってきたと言うし。」
その老夫婦を前に、困った顔をするわたしたち夫婦。
「…ふん。裏口から入ってすぐに、空き部屋がある。
二人で一部屋だよ!」
「!ありがとうございます…!」
さて。お布団を敷いていきましょう!
「部屋も綺麗ですし、優しいおばあさんでしたね!」「ああ。」
もう遅い時間なので、空腹ですがこのまま二人で寝——
(あら⁉よく考えたら秋葉様と
同部屋で眠るの初めてでは⁉)
そんな風に考えながらも、眠気が襲ってきました。
今日は色々あって疲れたのです…
髪飾りを外し、髪をほどき、
「では秋葉様…おやすみなさい……」
消灯しようとしたその時。
「…っ実春!」
何かを決心したような秋葉様の表情。
「その……これっ…」
彼がぎゅっと目をつむり、差し出したのは――
桜柄のお守り袋でした。
「わぁ…!いいんですか……⁉本当にわたしに⁉」
わたしの為の
「ああ。遅れたが誕生日に、と作った。」
「なるほどなるほど。この袋は
この為でしたか。わ…!桜の押し花が!」
わたしは
「とっても嬉しいです…!」
秋葉様は贈ることに不慣れなのか、耳まで赤くして渡してくれた。
(ありがとう、秋葉様。)
「ところで秋葉様、手のお怪我増えてませんか?」
わたしは秋葉様にずいっと近づき、その手をとる。
「ッ!!?///」
「無理しちゃだめです!」
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
秋葉様にはきっと打ち明けることのない、わたしの話。
わたしは物心ついたときから、ずっとずーっと家事をしています。
我が家は両親が働きに出ないとお金が足りません。
わたしが作った晩御飯も、すべて稼いでくれたお金が元。
両親は毎日疲弊して帰ってきますから、お風呂を沸かさなければ。
お洗濯を干し終わったら、次は床掃除。
お母様もお父様も、いつも余裕がありませんでした。
いつしかお誕生日を忘れられてしまったこともありました。
しかしいいのです。わたしには……
わたしに残ったものは、桜の髪飾りだけでした。
ずっとおねだりし続けて、ようやく買ってもらった物。
自分のための買い物は、それ一つです。
今日も両親のために、買い出しに来ました。
夕飯の献立を考えていると――
「いつもありがとう」
そんな言葉が耳に入って、気付けば振り返っていました。
そこにはわたしと同じ16歳くらいの少年と、背の高い男性。
「これは、いつも面倒を見てくれるお礼。」
「いいのですか…?
ですが私は、当たり前のことをしたまでなのです。」
「その当たり前に…感謝がしたいから。」
(当たり前に、感謝……)
わたしは目を見開いて驚きます。
「ありがとう」
そのねぎらいの言葉ひとつで、どんなに元気になれたでしょうか。
その感謝だけでどんな苦労も耐えれたでしょう。
(わたしはどんな贈り物より、お母様とお父様からの
その言葉が欲しかったのですね。)
それから四年、感謝を求めて家事をこなしながら、
何度も「おねだり」をしてきました。
それは、白紅家への嫁入りです。
二十歳になってようやく両親からの許しが出て、
晴れて家を発つことになりました。
その二十年間でわたしが家事をすることが「当たり前」になってしまい
感謝は最後までもらえませんでしたが、
あの日から想いを馳せてきた彼のもとへ。
お見合いには体調不良で来てくれませんでしたが、
彼のお父様とお母様はとても温かく、
わたしのこれまでを憐れんで、労ってくれたのです。
『秋葉様と結婚したい』というわたしの想いを汲んで、
生活費の支援をしてくださりました。
「お金に困る若者は放っておけない。…自分の懐に余裕があるうちは」
と。
『わたしはお金があるから
秋葉様が好きな訳じゃありません!!!』
もちろん、お金目当てじゃないのは事実。
でもわたしは白紅家に本当に助けられているのです。
いつもありがとう。
そして秋葉様、
わたしのことを気にかけてくださって、
ありがとうございます。
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