第6話🌸どこにも行かないで。

行こう。晴雲町はるもちょうに…!

「…とは言ったものの。」


杖をついて、俺は山道をゆっくりゆっくり進む。

「馬車が呼べないとなると、この遅さじゃ日が暮れるぞ…!

方角も独りだと分からん…」

出発して早速、不安になってきたところ…


「おーい

そこの若いの!」

後ろから逞しそうな声が聞こえる。


「あんた一人かい?…杖ついて、どっか悪いの?」

「…目が見えなくて」

気にかけてくれている様子の女性は、俺に提案をした。

「それじゃ、荷車に乗ってきな!連れていってやる!」



「わざわざすみません…本当に。」

「いいんよいいんよ!力には、自信があるからね!

子供を五人は運べるよお!」

頼もしい、と荷車に座りながら思う。


「となり町から晴雲町へ、米買いに行くんよ。

あんたも同じかい?」

「…!はい!」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「ありがとうございます。このご恩はいずれ必ず…!」

「いいんよいいんよ!」

俺は荷台から降りると深々と頭をさげた。

「道中で話してたら、あんた

気に入っちまった!富雨町のこの場所に住んでるから、」


「今度遊びにきてなー!」

元気なその声と、荷車を押す音が聞こえた。


「…実春を探さねば。」

そう呟いた瞬間、胴体に何かが巻き付いた!!!


「⁉」

その勢いで、身体が引っ張られた。俺は身を守ろうと手元の杖を強く握る。

ぼふっ!

「これは…小麦粉の入った袋?」

やわらかい何かのお陰で助かったようだ。


「しろべに…あきは。」「!!!!そこに誰か居るのか!?」

低くて幼い、男の声が耳に届く。



の身を確保した。」


「――は!?千里松…!!?」

千里松ちりまつ。なぜ。その名前を。)


「俺は仲間に知らせてくる。絶対にそこを動くなよ!!!!」

「待ってくれ!お前は何者なんだ!どうして千里松ちりまつが…!」

彼は俺の胴を縛る縄をきつく締め、言い放つ。

「…大人しくしてろよ。」「待ってくれっ!!!!」


俺の叫びもむなしく、彼は去ってしまったようだ。

(千里松のことは気になるが…俺は今どうなってる?

どこに引っ張られたんだ?)


自分の置かれた状況を見ると、しっかり握っていた杖が役に立ちそうだ。

縄と胴体の間に杖を刺し、幅を広げる。

「…よし、抜けれそうだ」


身体が自由になると同時に、懐に入れた何かが落ちてきた。

「桜のお守り…!

そうだ、無事で居てくれ、実春…!!!!」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「きゃっ!」

目隠しと拘束をされたまま、暗い所へ連れられてしまいました…

そこへ、男性の声と足音が近づきます。

「実春さん……こうなったからには

従ってもらうしか…」「⁉」


頭をよじって目隠しを外し、わたしは

「なんですかあなた‼わたしに何の用!!?」

と叫びました。

見上げると、カボチャのような髪型をした方が!


「そういうとこも、かわいいなぁ……」

「はっきり喋ってください!」


その男性は、わたしの肩に手を置き…

「そんな事はいいんだ…

聞いてもらうよ、僕の頼みを…!!!!」



路地裏を、影が覆いました。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「はっ、はっ」

走りにくい下駄を鳴らし、がむしゃらに息を切らす。

小さく実春の悲鳴が聞こえた方へ。


「う、あ…!危なかった、走ると転んでしまいそうだ」

それでも、実春を探す。

(なんだか前にもこんなことが…)


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


『もう、秋葉様ったら。移動しすぎですよ

洗髪所からどれだけ探したと思ってるんですか!』

『それは実春が勝手にどこか行くからだろう。』


『も~~~~!!!!』



『…分かりました

では、約束しましょう』

俺の手を、実春の柔らかい指が包み込む。


『わたしは秋葉様の隣から離れません!』


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「もうどこにも行かないって…」



「約束!!!! しただろう!!!!」

足に力を込めて踏み出す。

「⁉」


すると、突然床がなくなり、俺は宙に浮いた。

「秋葉様!!?」「実春!!!」

ドサッ!!!


…なぜか地面が抜け――」



「実春さん!誰だよその男…!僕をさしおいてそんな…」

どうやら実春に話しかけている、誰かの声。


「実春!そこに居るのなら

今の状況を教えてくれ!」

「知らない男性に絡まれています!」「⁉」

実春は、説明しながら俺の方へ駆け寄ってくれた。


「実春さん!僕と結婚しよう!」



「―――は?」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


突拍子もない発言に、わたしも秋葉様も驚きを隠せません…!

いやその前に…


秋葉様が屋根から落ちてきたのです!!!なんで⁉

そんなわたしたちを無視し、彼は続けます。

「少なくともその男よりは金の工面ができる!

だから、僕と…」

『昔から、お買い物には熱中してしまうのです。

 お金を使える機会など無いもので

 …その点、秋葉様との結婚は良いものだったのかも』


数刻前のわたしの発言が頭をよぎり、同時に頭に来ました。

わたしは小柄カボチャ頭の前に立ちはだかり、思い切り言ってやりました。

「わたしはお金があるから

秋葉様が好きな訳じゃありません!!!」


「それにあなたは、髪型が好みじゃないんです‼

行きましょ。秋葉様。」

「わ、実春っ」


強引に秋葉様の手を引き、路地裏を後にしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る