第5話🌸別つ枝。

『最近は段々と暑くなってきましたね。

数ヶ月会っていませんが、お元気にしていますか?

わたしは変わらず、ずっと元気です!

夫の秋葉様のお傍で幸せに暮らしていますよ。

秋葉様はわたしを、とても大事にしてくださっています。

あ、でも小食なお方です。

今日もお気に入りのめおと箸を使って

一緒にお食事をとりました。』


「…『親愛なるお母様お父様へ、実春より』……っと!」

せっせと手紙を書く、妻の声が聞こえる。


「さ!秋葉様も支度して!

町へ買い出しに行きましょう!」

「あー…俺は今日はいい」


「あら?体調が優れないのですか?」「いや。そういうわけでは…」

歯切れの悪い返事を続ける俺。


「…では、行ってきまーす!」「ああ。気を付けて…」

玄関口まで行き、しっかりと実春を見送ったあと。



「………よし」

(作るぞ…!実春へ贈る、誕生日のお祝いを…!!)


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「布製の御守り袋が欲しい?」

時は十日前へ遡り、俺は実春に着付けをしてもらっている。


「売っていないものなんですかね…」「いや…」

帯をしっかり締めて、気も引き締まる。

「なんというか、手作りじゃないと…だめな気がする!」



「そういうことなら任せてください!」

こうして、実春の裁縫講座が始まった。


「まずは練習です!」

手に触れる針と布を頼りに、縫いはじめ――

「いッッ…!!!!」

早速指に針を刺した。


「もー。気を付けてくださいと言ったじゃないですか~」

「気を付けてようが無くないか!?見えないとこから針動かしてるのに…!」

「このやりとり何度目ですか…?」「うぅ……!」

涙目になりながらも、血のにじむ指に包帯を巻いてもらう。

救急箱の在庫管理もやって貰っている。


――実春に支えられすぎて、少し…いや大いに罪悪感を感じて…

「ふふっ!秋葉様と居ると、ほんっとに楽しいです!」

実春は本当に楽しそうに笑う。そんな姿を見て、


「お…俺も同じと言ったら嫌か?」

と訊いてしまった。だが、

「…!いえ!とっても嬉しいです!」


暗闇の向こうで実春は目を輝かせてくれた。


「では、わたしとに頑張りましょう!」「⁉」

俺の手の甲に、柔らかい感触が伝わる。


「っ……み、実春」

「秋葉様がお怪我をしないよう、わたしがついてますからね!」


(手、あたたかい……というか!とはそういう…!

これも無意識なのか!!?実春~~~っ‼)


俺が狼狽えているうちに、御守り袋は完成した。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


(次は…押し花を作る。

確か、十日程放置する必要があったよな)

杖をついて庭を歩き、桜の木の前へ。


包帯ごしに触れる感触は、確かに花びらだった。

(すまない、咲いたままの形が欲しいのだ)


持ち帰った花びらの枚数は確認せず、これを運んだ。

「これに水をかけ、和紙を重ね…て、と。」


「あれ?ちゃんと水かかってるのか?これ」

「秋葉様!作業場にいらっしゃったんですね!!!!」

いつものように、勢いよく開けられた扉の音に吃驚した。


「実春っ…どうした?」

「先日出かけたばかりなので、お出かけ用の着物洗ってもいいですか?」

「あ、ああ…」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


(あの押し花、そろそろ乾燥した頃だろうか)

今日で十日経っている。桜の花はちゃんと乾いていた。

「これを袋に詰め…開けた穴に、紐を通す!」


作業場の机に向かい、鋏を握る。

「あれっ…⁉ 糸を切ったはずだが…⁉

痛っ!また…」

目が見えないことを理由に、更に手の包帯を増やす…。


「でっ……できた!!桜のお守り…!

果たして気に入ってもらえるか…」

裁縫など経験が無いので、不慣れな針作業に、初めて握った鋏。

しかし妻が喜ぶのなら何だっていい。


「帰ってくるのが楽しみだ…!」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「今日のお夕飯は炒め物が良いかしら…

さっぱり冷たいお蕎麦も素敵です!」

わたしは夢中でお買い物をしていました。


昔から、お買い物には熱中してしまうのです。

がめついと思われるかもですが、お金を使える機会など無いもので…


「…その点、秋葉様との結婚は良いものだったのかも」

ばっっっ。

!?突然、後ろから目隠しをされ、腕を縛られてしまいました!


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


とっぷりと日も沈んだ頃。

「一向に――帰ってこない」

心配になった俺は腕を組んで青ざめる。

「もう夕刻…実春の身に何かあったのか?」


「……決めた。」



「行こう。晴雲町はるもちょうに…!」

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