第4話🌸結婚の理由。
「その女の子って、あなたにとって何なの?」
「…!」
「……っ大切な人なんです!」
俺は必死だった。この状況では、実春が心配でやまない。
「そんなに大切なら目を離さず
ちゃんと見ていないとね」
前髪の長いご婦人は、そう言って歩きさった。
『見た目』『目を離さず』
(俺には、そんなことさえ叶わないのか…!!)
くやしさで実春が着せてくれた羽織を握ったそのとき。
「捨てられてんじゃね?」
香りからして串団子を食べているのか、含んだ喋り方で若者が話す。
「お前が見失ったのを良いことに
逃げたんだよ」「!?」
(捨てられた…!?
どうして…そんな……!)
(あれ?しかし、そもそも…)
(実春は俺に好意を持っていたか…?)
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「秋葉様!秋葉様ーーっ!!!!」
夢中で街を駆けています。
(どこに居たんでしたっけ…
そんなに動いてないと良いんですけど…)
「―――――大きな桜の髪飾りの女を探しているんですって」
「そんな目立つ女、居たらすぐ気づきそう…」
「――⁉わたしのこと⁉」
(秋葉様が、わたしを探しているかもしれない…!!!!)
「お 桜の女じゃない?」「洗髪所の前で
あんたのこと探してる奴が居たよ」
「ご協力感謝します!」
裾を揺らしながら、秋葉様の姿を探し走ります。
走って走って、息を切らします。秋葉様の為ならこのくらい平気です!
すると、まっすぐ先に杖を持った
わたしは目をつむり、
「あ!き!は!さ!まーーーーっ!!!!」
草履が落ちる勢いで抱き着きました!
「実春!!?」
「ま 待て、何故……」「秋葉様っ……!!!」
わたしは涙目になり、秋葉様に覆い被さった状態で伝えます!
「勝手にどこかへ行ってしまいごめんなさぁぁぁい!!!!
もう…っ秋葉様のお傍を離れたくありません…!!!!」
秋葉様のお顔を改めてみると、驚いたような、安心したような表情でした。
「ああ。俺も離れたくない……
…が。」
「ここ、道の真ん中……」「はっ!」
感動の再会を喜ぶ声が、周囲から聞こえます…!
「うお!愛されてんなぁ…もぐもぐ」「良かったわね、”大切な人”が抱き着いてくれて」「あらあら、若い子はいいねぇ」
わたしは慌てて立ち上がり、
「すいません秋葉様!!!! わたし、後先考えずに…」
ぐうぅぅぅ~
その言葉と、お腹の音が重なった。
「わ!」「朝ごはんの後は何も食べていなかったな。…よし」
「良い茶屋を知っている。ぜんざいでも食おう」
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「ん~~!おいしいです!」「よかった。」
幸せを嚙みしめながら、ぜんざいを頬張りました。
「秋葉様は抹茶がお好きなのですか?」
「…前、来た時も抹茶を食べたから。
実春の小豆ぜんざいも気になるな…貰っていいか?」「はい!」
秋葉様の方へ器を差し出すと…
「!!?」
秋葉様、わたしの匙に乗った方を食べてる⁉
「む、こちらの方が美味い」
しかも気づきません!
「…まぁ、嬉しい間違いだから良いですよ。ふふっ!」
目が見えない秋葉様はきょとんとしている。
「過ぎてしまいましたが、わたしの誕生日は
五月二十日、桜が咲き始めた頃なんですよ。」
「秋葉様のお誕生日は?」
「毎年、贈り物をもらっていた日だから…ええと
九月五日だったか。」
「贈り物…」
貧乏家系のわたしには縁が無かったものだ。
「誕生日には、贈り物があるんですね……」
わたしは少し言葉に詰まりながらも、話題を切り替えます。
「あ…わたし、秋葉様のこともっと知りたいです!」
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「
食器屋の屋根の下、俺の声が響く。
「はい!お母様とお父様も使っていました。それに…」
「お母様に言われたのです…
本当に大切な人ができたら、そろえなさいって」
「!」
”大切な人”と、実春も思ってくれたことに顔を綻ばせた。
「では、この柄でお願いします。」
「できるまで、ちょいと時間とるから
あがって待ってな。」
「はーい!」
俺の下駄と実春の草履を並べ、店に入る。
「そういえば何の柄にしたんだ?」
俺が座ると、実春も一緒に座る。
「わたしがまず桜です!」「印象に合ってるな」
「秋葉様は…紅葉というより、お月見の雰囲気があるんですよ」
「月見…秋の行事か。月はどんな姿なんだ?」
「白っぽいけど少し銀がかっていて、
秋葉様の髪みたいにきれいなんですよ!」
「……っ…」
俺は『きれい』を純粋な褒め言葉として受け取れず、照れてしまう。
「み…実春は、」
「俺の容姿が好き…?」
「はい…!あっいや即答してしまいました!?
あの、確かに見た目は好きですが…」
はっきり『好き』と言ってくれて、心がぎゅっ、となる。
「…わたし、秋葉様のお心が好きだから、
両親に”おねだり”したんです」
「おねだり…?」
「はい。秋葉様と結婚させてください、と…
それで、あのお屋敷…
秋葉様の元へと赴いたんです。」
「そうか…実春の意思で。」
「…ありがとう。」
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