y.2014 つまり、そういうこと
ルネ = ボーランジェ(René Boulanger)視点
わたしは10歳のときに自分がヒロインであるということに気づいた。
それはいきなり訪れた。
いつものように村の男の子たちにお花やらお菓子やら貢がれていたら、女の子の反感をかってしまったところ、前世の記憶がフラッシュバックして、あまりの情報量に倒れてしまった。
目覚めたときには、もう夜になっていた。
心配で顔を覗き込んでいたお母さんが目覚めたことに安心して家族に報告しに行った。
いつも通りのお母さんにほっとしたが、脳内が大分修羅場だった。
これって異世界転生じゃない!?
学園で恋愛した人と魔王を倒す謎ゲームに異世界転生してしまったわ…
………
………
………
しかも、ヒロインに転生してる。
この、ジェンダーバイアス社会かつ魔王が復活する世界でヒロインに転生してる。
わたしはまじまじと窓に映る自分の顔を見た。
ヒロインなだけあって、凄く可愛い。
目や鼻、唇といったパーツが全体的に小さく、柔らかなラインを描いている。
そのせいか、顔全体には凹凸が少なく、平たく、控えめで、目立つわけではない。
でも、それが逆に特別な愛らしさを引き立てていた。
口元がかすかに笑うと、穏やかな中にもどこかエネルギッシュな印象がにじみ出て、顔全体に優しさと親しみやすさが加わる気がする。
わたしがいると、周囲には自然と明るく軽やかな雰囲気が漂い、気がつけばいつも人が集まってくる。
生まれ育った村の人達はとても優しく朗らかだ。
恋愛体質の私は同世代の男の子たちを逆ハーレム状態にして楽しく過ごしている。
きっとこれは本来の自分の素質だ。
同性の敵をつくりがちだが、ちっとも気にならない。
なんなら、これからは前世の知識とテクニックを使って平和的に恋愛を楽しめられる!
このまま、この村で一種の宗教のように崇め奉られながら暮らしていこうと思っていた。
でも、ここがシュミレーションゲームの中なら、自分の楽しい未来設計通りにはいかないことに気付いた。
ゲームの進行通りにいかないと、魔王の討伐がスムーズにいかなくて、被害が大きくなるからだ。
いろいろ考えていたら小さな頭には限界だったのか知恵熱が出てしまった。
動けないわたしの枕元に、お母さんがそっと座った。
冷たい布を額に置く手は優しくて、少しだけ安心できた。「大丈夫、すぐに元気になるよ」とお母さんは笑顔で言ったけど、その目には少し疲れが見えた。わたしは、心配かけてごめんねって思いながら、目を閉じた。
お母さんの匂いがそばにあって、もう少しだけ、このまま甘えていたかった。
家族の中心で、みんなを気遣ってくれるクロエお母さん。
いつも忙しく働いていて、優しい笑顔のジュールお父さん。
少しお調子者だけど、なんだかんだ言っていつも頼りになるレオンお兄ちゃん。
小さくて可愛い妹、エマ。
気が強い同い年の女の子、ミア。
いつもプレゼントをくれるわたしの信望者、ポール。
私をいつも気遣ってくれるわたしの信望者、ユーゴ。
とにかくたくさんいる村のわたしの信望者たち。
この世界での家族と友達はあたたかくて優しくて、幸せな子供時代を過ごせた。
ゲームの進行通りにいかないと、魔王の討伐がスムーズにいかなくて、被害が大きくなるのは確実。
そしてその被害が大きいのは間違いなく、平民だ。
一緒に楽しく過ごした人たちに、辛い生活を強いるのは考えられなかった。
………結局のところ。
やることが同じなら、進行に沿ってゲームを楽しもうかな。
そうと決まれば、どうしよう、誰と恋愛しよう!?
確かメンバーは筋肉、インテリ、王子…
いろいろ選び放題よね〜♡
でもこの国ってジェンダーバイアスかつ身分格差があるだけ、女ってだけでできること少ないんだよね…
学園に行くにも貴族との養子縁組必須だし。
上手く立ち回れないこともないだろうけど、わたしにとっては退屈なんだろうな〜。
前世を思い出したからにはこの世界がとても生きにくく感じた。
ちょっと前世の知識を披露すれば、「神の声が聞こえた」で納得されるくらい、オカルトな世界だ。
前世の価値観を持ちつつストレスフリーに生きたい。
本来の自分に戻りたい。
そう考えると、最終的に選ぶのは隠しキャラのあの人かな!
全キャラコンプリートをすると開放される魔王様ルート!
ゲームの進行上、ラスボスとして倒すストーリーだけど…
開放されたルートでは魔王様の嫁になって別世界で幸せに暮らすのよ!
この国の言い方だと嫁ではなく生贄だけど。
でも魔王様ルートならこのジェンダーバイアスO国から開放されて自由な魔法の国へ行けるのよ〜
もちろん、その場合は魔王様は愛妻家となり、人を襲うこともないハッピーエンド!
うん!そうしよう!
前世の知識とテクニックを使いながら、ゲームを楽しみつつ、ゲームを終えたら本来の自分に戻る!
というモチベーションで行こう!
どうせ、貴族の養子になったら村に帰れることはほとんどない。
それまでに、この村を発展させたり、養子先に充分な援助を頼もう。
この決心が揺るがないように、元気になったら、毎日ノートにポエムとか日記を書いておこう!
ノートとペンはユーゴがくれた貢ぎ物がある。
今まで興味がなかったけど記憶が戻った今は本当に助かる。
文字が読める人自体この村には少ないけど、念の為、誰にもわからないように日本語で書こう。
内容は、そうだな…
***
例えば、
魔王様以外の人を選びたくなるかもしれない
誰かのことを本気で好きになるかもしれない
村から出たくないでしょう
家族から離れたくないでしょう
いろんなことを変える選択肢もあるけれど、
今の冷静な私から見ると、
変えたところで魔王様の討伐はならないし、
災害は大きくなるだけ。
だから、決めたことは、変えない方がいいよ。
すっごくダサいから。
このメッセージを迷ったときはしっかり見てね。
***
とかは、どうかな?
またその文字を見たとき
「前世を思い出した頃の冷静な自分が言うのなら間違いない」
そう思えるように日記を続けるのも良いかもしれない。
冷静な判断ができなくなることは分かっている。
だから、これは冷静な私が、冷静でない自分に対して立てた作戦だ。
私はあくまでゲームをしに学園へ行く。
恋をしに行くわけではない。
目指すはゲームのコンプリート。
後悔はしない。
まあ、上手くいかなければ、それは私の魅力も実力もまだまだってこと。
反省して、おしまい。
そう決めた瞬間、それまでの知恵熱が嘘みたいにサッと引いて、頭がクリアに。
看病してたお母さんも、ホッとした表情で「頑張ったね」と笑ってくれた。
もう、迷うことなんてなくなっちゃった。
婚約破棄しても側にいた聖女が信仰を選びました kyōko @kiyo-ko
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