神「転生」 俺「把握」

ヒセキレイ

『全能力一.五倍』

 不慮の事故により異世界に転生した俺が神から貰ったのは『体力を三分の一削り全ての能力値を一.五倍にする』というハズレスキルだった。ただの農民に生まれた俺は普通より少し強いだけの一般人としてスローライフを送っていたが、国王として転生していた前世のパワハラ上司と再会し、『体力を半分削り攻撃力を四倍にする』という圧倒的なチートスキルを相手に成す術も無く敗北する。村には理不尽な重税を課せられ、さらに仲の良かった幼馴染を連れ去られてしまった。


 自分のスキルが重ね掛け可能であることに気付いた俺は新たな力『全能力四倍化(六回掛け)』によって元上司を倒す。体力を二倍分削った代償として能力を失うも、次代の王となるべく貴族学校に通い始めるが、平民ながら魔法の力を持つ転入生の少女と出会ったことで、ここが前世でやり込んでいた乙女ゲームの世界であり、自分がいずれ主人公と列強国家の王子たちに倒される悪役令嬢となっていたことに気付く。しかも彼女は元上司であった先代の王が一般人の女性との間に産んだ『攻撃四倍化(体力消費無し)』の能力を持つ王族の子だったのだ。


 主人公に自分を攻略させつつ王子たちと絆を深め、原作には存在しなかったハーレムエンドへ辿り着くことで破滅の運命を回避した俺は、女王として大陸全土を巻き込んだ巨大な連邦国家を樹立する。現代知識の時代先取りによって圧倒的な国力を得て、他大陸の国家との政略結婚までこぎつけたのも束の間、出所の分からない知識や魔法も使えないのに王の座に就いている俺を不審に思う家臣たちと、敵対国家の策略によって『魔王』の汚名を着せられ婚約破棄されてしまう。世界の半分から追われる身となった俺と同じく『勇者』として体の良い迫害を受けた農民時代の幼馴染に追い詰められ、万事休すかと覚悟を決める俺の手に突如宿ったのはかつて失われたはずの『全能力一.五倍化』のスキルだった。


 幼馴染と和解した俺は、他者への付与も可能になったスキルを駆使し、敵対国家を壊滅させ表舞台から姿を消す。二人で未開の土地へと渡り一般冒険者として生計を立てていく中で、新たな仲間たちと共に第二階位である銀等級にまで登り詰める。しかしそんな俺の前に現れたのは、古き王族の血を引き『全能力四倍化』の付与スキルを持つ伝説的な冒険者だった。彼女がパーティに加入したことで俺は次第に立場を失い、役立たずのお荷物として追放されてしまう。たった一人で低層の迷宮に潜りその日暮らしの報酬を稼ぐ俺は偶然にも未探索の区画へと迷い込み、かの王族の祖先を名乗る大精霊の少年と出会う。そして時を同じくして、冒険者ギルドでは俺を追放したパーティが迷宮の最深部で全滅したという知らせが届いていた。


 少年の力を得て体力三分の一減少のデメリットを克服し、一人で迷宮を踏破した俺は英雄として返り咲く。しかし徐々に身体の異変を覚える俺へ、少年が明かしたのはスキルから欠点が失われたことにより能力上昇が解除されなくなったという事実だった。重ね掛けするほどに人としての領域を超越していく俺は人々からバケモノと畏れられながらも戦い続け、遂に復活を果たした闇の大精霊、少年から切り離された悪意の化身と対峙する。『全能力二十四倍化(六回掛け)』された敵の大軍勢を前に劣勢を強いられるも、決死の『一.五の二十乗倍加(約三千倍)』により勝利を収めた俺は、既にこの世のモノでは無くなってしまった自分と大精霊と共に、どこか遠い別の世界へと旅立つ。


 何も無い荒野だけが続く寂しい世界へ辿り着いた俺は、少年と共に無為なスローライフを送る中で、かつて自分を異世界へと転生させた神と再会する。幼馴染の生まれ変わりであった彼は、ここが違う時の流れで荒廃した俺の故郷であることを明かす。『四倍』の力に魅入られ破滅の道を辿った彼は、死後に「『一.五倍』くらいがちょうど良かった」と悟り、神となって俺を始め多くの人々へ力を与えてきた。しかし結果は同じであり、『一.五倍』と『四倍』の力を持ちながらも共に同じ道を歩む俺と少年だけが残った。「人を狂わせるのは力ではない。意志無き欲望こそが人を狂わせるのだ」と、そう語る彼を俺と少年はボコボコに殴り倒し、神が死んだことで発生したタイムパラドックスによって全てが元へと戻った世界に帰り、それぞれの道を歩み直す。






――終了――

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