第4話 10月7日
自分がいじめられていたせいもあってか、いじめ体験を語る人によく同調し、その人も同じような苦しい経験をしたのだなと思うと、とても他人事には感じられなかった。
しかし、悲しいかな、成功を収めると、いじめられていた記憶も薄れてしまうのか、まさか当の本人がいじめる側になってしまうとは。私の共感は消えてしまった
きっと、いじめた奴らを見返してやると必死に努力したのかもしれないが、私から言わせれば見ず知らずの様々な人に知られるようになり、すごいという褒め言葉をかけられるような立場になっただけで、充分にすごいことだと思うのだ。
しかしながら、かの人はそうは思わず、ひたすら自己承認欲求を追い求め、行き着いた先は犯罪であった。
なんとも嫌な気持ちになる朝であった。人間の何を信じればいいのか。そんな気持ちになってしまう。
さて、今日はアメリカ文学の端緒を開いた作家エドガー・アラン・ポーが亡くなった日である。
ポーは、大変な文筆家で、推理小説の先駆け、宇宙論を混ぜた壮大な小説への挑戦、冒険譚、大鴉のようなまざまざと読めばイメージが湧き上がる詩を作り、かと思えば鋭い批評論を書くなど、彼の文学は幅広い。
特徴的なのは、理系的な素養が多く作品に生かされており、200年以上経った今の世で読んでも、非常に面白いと思える作品が多い。アメリカにおいては、詩人ホイットマンと並ぶ、新興国アメリカの文化的下地を整えた偉大な作家と評されることが多い。
ポーは生前から既に著名な文筆家であった。しかし、作品数の割に、その生活は裕福なものとは言い難かった。ドストエフスキー のように、生活の費用を賭博や酒に注ぎ込む自堕落な暮らしぶりで、大学時代は家を買うほどに裕福であったのが、いつの間にか借金に追われる日々になり、糊口をしのぐように、文章を書きまくったのだ。
そして、死の前の日も酩酊した状態で倒れたところを発見され、そのまま天に召されてしまう。ただ、このさらに前の日に、メリーランド州の議会選挙があり、当時立候補者が
coopingと呼ばれるならず者を雇い、誰彼構わず酒を無理矢理に飲ませ、訳もわからないまま投票所に連れて行き、その立候補者に票を入れるということが罷り通っていた時代でもあったため、ポーの死は、自堕落ゆえのものだったとは言い難いとされている。それでも、ポーが周りに酒ばかり飲んでたからと思われるほどに自堕落な生活をしていたのも事実であったのだろう。
だが、先のドストエフスキー もそうだが、そのような生活を原動力として、かえって想像豊かに文章を書けたのだから、自堕落な生活ゆえに悪とは言えない。むしろ、誰よりも人間性に富み、そして人生を十二分に謳歌したのではなかろうかと思う。だからこそ、彼は様々な分野の文学に臆すことなく挑戦したのだろう。
ポーが生まれたボストンの街は、アメリカの自由が生まれた街である。1775年の4月19日、北西のレキシントンとコンコードの間でアメリカ独立戦争の火蓋が切って落とされる。
時のイギリス国王ジョージ3世は、七年戦争やフレンチ=インディアン戦争におけるイギリスの経済的な疲弊を解消しようとし、印紙法や茶法が創設する。またイギリス重商主義という自国経済の保護のために植民地に課税することを是とする考えが本国に蔓延し、アメリカに移住した住民たちは不平等感に襲われていた。
そして、ボストン茶会事件が1773年に起こり、また「代表なくして課税なし」という、アメリカは本国議会に植民地代表の議席がないことから、印紙法など課税する権限は本国にないとするスローガンが掲げられ、アメリカはイギリスからの独立を一層志向するようになる。
フレンチ=インディアナ戦争に参加した経験のあったワシントンは、戦争の悲惨さを知っていたため、初めは戦争に反対の立場であった。しかし、同じイギリス人であるはずのアメリカの人々を明らかに差別する政策を推し進めるジョージ3世のやり方に怒り、やがて大陸会議の植民地代表に選任され、アメリカ独立戦争の指揮官として、戦争を指揮する。
しかし、戦争に参加するもののほんとんどは、なぜ戦っているのか分からないものも多かった。その指標となったのが、トマス=ペインが著した「コモン=センス」であった。簡易な文体で書かれたこの書物が、アメリカの人々の愛国心を刺激した。
そして、1776年7月4日、トマス=ジェファソンと科学者で外交官のフランクリン、アメリカ海軍の創設者ジョン=アダムスが起草した「独立宣言」が第二回大陸会議で採択される。
アメリカはイギリスから独立した。やがてこの流れは世界に波及し、フランス革命などに続く民主主義の拡大のきっかけとなった。
その始まりの街がボストンであった。今でもボストンには独立戦争の時の名所や史跡、巨大なモニュメントなどが立ち並ぶ。そのような街でポーは生まれ、大学時代まで過ごした。まさに、ポーは自由な国の産んだ自由な文学者であった。
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