第2話 10月5日
総理が能登の被災地を訪問したようだ。パフォーマンスに終わることなく、一国の宰相として真摯に能登の人たちに向き合うならば、応援したいと思えもするだろう。防災服を身につけただけで、被害に遭った方々の気持ちが分かるわけではないのだから。
さて、今日はビートルズがファーストアルバム"Love Me Do"をリリースした日である。
ビートルズは、かつて奴隷貿易の拠点となったリヴァプールの出身である。ビートルズが出現するまでは、リヴァプールといえば前述のイメージも強くあったと思うが、その負のイメージを払拭してしまうほどに、ビートルズの登場は凄かった。
1950年代にエルヴィス・プレスリーがアフリカ系アメリカ人のブルースから派生したロックをコーカソイドの音楽として新たに普及させ、その流れの中に、ビートルズは燦然と現れた。
今までは演歌やフォークなどの音楽が主流の中、エレキギターを颯爽と弾く若者たちに、当時の若者は熱狂する。異国の歌だというのに分かりやすい英単語を使い、それでいて奥の深い歌詞を作るビートルズ。誰もが何度も口ずさむ。しかし、今まで聴いてきたどの洋楽よりも、そのリズムと歌詞の覚えやすさは衝撃的であっただろう。
時代が経つほど、3〜5分ほどの歌が多く作られらようになるが、"Yesterday"は、わずか2分3秒の歌である。
しかし、もし2分という時間で人に何かを伝えたいと思った時、この歌ほど分かりやすく、そして深い歌はないだろう。ポール・マッカートニーは幼い頃に母を亡くし、その辛い気持ちをこの歌に強くぶつけた。のちに"Let it be“のようなキリスト教的な価値観から亡き母への想いを綴った歌も登場するが、私はこの"Yesterday"の過去に対する素直で、そして何よりも純真で儚げに感じる歌詞により共感する。
1960年代当時は、日本は安保闘争の時期でもあり、焼け跡世代や団塊世代などと言われる方々が大学生となり、戦後焼け野原だった日本が徐々に復興していくものの、さらに良くしようと、自分自身と格闘しつつ、その葛藤の中で生まれた思想を行動に移した。
あの時代の大学生たちは、とても熱があったと思うのだ。老齢な政治家や教授たちに命懸けで自分の青い思想を叩きつけた。その熱量が、バブル時代を築き上げたと、私のようなゆとり世代の人間は感じてしまう。
しかし、そんな彼らも、ビートルズの歌詞を決して軟弱だなどとは思わなかっただろう。いや、むしろ、先んじて彼らの歌を聴いただろう。彼らの歌ほど、生きる意味を、実存を簡単に教えてくれる歌もなかなかないはずだ。
弾いたこともないギターに興味を示し、アルペジオでアコースティックのギターを慣れな手つきで弾き語る。狭い四畳半の部屋、窓の外には家々が所狭しに立ち並び、割烹着を着たお母さんやベーゴマ遊びに興じる子供たち、野良犬や野良猫がウロウロとじゃり道を歩き、そのじゃり道をゆっくりとオート三輪が積載量など気にせず走りゆく。高層ビルも少なく、少し住宅街を抜け、大通りに赴けば東京タワーも富士山も見える。あの頃はきっと貧しかった。でも、感情豊かだった。夢があった。日本がこれからどうなるのか、未来は明るいと夢見ながら。
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