第2話 コンビーフを開ける鍵をなくした顛末について

 平成初期のコンビーフは、鍵のようなもので缶の脇の一部を巻き取り開ける方式でした。今ではスーパーに、このような缶は売っていなそうです。

 貧しかった学生時代。実家の父母から地元の米や缶詰などが時折送られてきました。宅急便で送られる箱の中には、父からの手紙が毎回入っていたのを記憶しています。郷里を離れて立身出世を目指して上京した息子への気遣いと励ましに感謝しつつも、当時の私にはその親心が分かっていなかったのだと今となって感じています。

 さて今回の話題はコンビーフ。最近は自分で缶詰を買って食べたことがありません。コンビーフを使ったサンドウィッチも作りませんし、食べたとすればSUBWAYなどのコンビーフ入りのサンドウィッチくらいだと思います。今考えると、何故郷里からの宅急便にコンビーフを父母が入れたのかの意図は不明です。何故なら、それだけではご飯食べられませんから。私はほていの焼き鳥の缶詰の方が好きだった。何故なら肉だし、すぐにパカッと開けられる缶だし、うまいし。当然郷里の父母も焼き鳥は入れてくれましたが、焼き鳥の缶詰は美味しいし、食べやすいし、送られてきたら早く食べてしまします。でも、コンビーフは?使い勝手が悪く、それ単体で食べることができないので、最後まで残ることが多い缶詰でした。

 一人暮らしの学生で、今から30年も前、日常でコンビーフを食べている友人など聞いたことがありません。何より貧乏学生でコンビーフをどう料理に使ったら良いのかなど分かるはずもありません。


 仕送りやバイト代の入金を前に、生活費が底を付いた貧乏学生の悲劇


 貧乏学生は生活費の全てを使い果たし食べ物がない状態となっていました。しかし、血眼になって探すと食器棚の奥からコンビーフの缶詰を見つけることができました。コンビーフと言えども、肉は肉。貧乏学生はこの発見に大変喜びました。飢えを凌げ、肉類を食べられるなんて。

 昨日から絶食の状態。空腹の極致。コンビーフを手に取り微笑む学生は、ある重大な事態に気づきました。

 

 コンビーフを開ける鍵のようなものがない。


 この頃のコンビーフには、缶の上に簡単な商品案内と缶を開ける鍵のようなものが、ビニールにカバーさてあったのですが。この学生が手にしたコンビーフには、これがないことに気づきました。

 あの鍵がないと開けられない。

 そこから、学生とコンビーフの缶の格闘が始まります。

 独り暮らしの部屋にはちゃんとした工具もなく、まずは鋏とカッターで缶を開けようとします。通常なら缶を開ける鍵のようなものを、缶の上下真ん中ほどにある8ミリ程度幅の切れ目のある部分にひっかけて巻き取るのですが、この鍵がないためそんなに安易には空きません。

 その部分を鋏やカッターで広げ、どうにか巻き取る、または広げて開けようとするも、缶はなかなか空きません。空腹に加えて、空きそうで空かない絶望感とイライラ感はつのります。

 その後も包丁やスプーンやフォークなど、部屋にあった様々なものを使い開けようと試みますが、コンビーフの缶は一向に空きません。

 そんな時間が30分から40分位経ったでしょうか、学生は一つの決断をします。

 

 このコンビーフは諦めよう。

 この時、絶望を超えた絶望感を学生は感じます。


 そして、お金は計画的に使おう。と心に決めたのでした。


 とはいえ、この学生この2か月後には同様にコンビーフを開けようと試みるのでした。その時もこのコンビーフは空かなかったような。


 今となっては、このコンビーフを食べることができたのかの記憶がありません。

 30年ほど前の貧乏学生の日常。

 若かりし頃のコンビーフを開ける鍵をなくした顛末について

 今では懐かしい思い出です。

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