千紫万紅
平岡 かずや
第1話 回転寿司のイカ天握りのイカ天を取られる
回転寿司は食のワンダーランドである。
当然まぐろ、はまち、鯛などの魚、そして赤貝、ホタテ。オーソドックスなネタは安心感がある。また、人によっては海老アボガドやハンバーグの寿司が好きな人もいるだろう。
しかしここで話すのは回転寿司のメニューでも王道では絶対にない「イカ天握り」についての話である。
【イカ天握りについての私的考察】
回転寿司のイカ天は脆弱なシャリに、揚げたての粗悪なイカの天ぷらがのせられている。脆弱なシャリとは、あたかも機械で握られた華奢なシャリを指す。このシャリの華奢な感じと握りの甘さがまさに絶妙である。
また、イカ天にあっては、柔らかくプリプリ感がない、 しかし、回転寿司のイカ天は絶妙な味わいがある。
【悲しい事件】
ある男が友人と昼食のために、とある回転寿司チェーン「Hずし」に行った時の話である。
男は入店後ひとしきりまぐろやエビ、旬のネタさんまの握りを食べた後、大好きなイカ天握りを頼んだ。タブレットが到着を知らせると、イカ天握りが一皿到着する。
ベルトで流れてくるイカ天握りは、到着するなりシャリとイカ天が離れるという、トラブルが発生する。回転寿司のイカ天握りには良くある小トラブルである。いや、このトラブルはイカ天握りのみならず、全ての握り寿司に起こり得るトラブルである。このトラブルを避ける方法はない。ただ、流れてくる握りに願うだけである。
さて、事件はイカ天握りが到着した正にその瞬間に発生する。
男がベルトからイカ天握りを取ったその瞬間、友人がイカ天握りのイカ天をひょいっと摘み上げ、パクッと口に放り込んだのである。イカ天という主を失ったシャリは、パカッと二つに割れ、寂しげな様相を呈していた。
友人はイカ天を食べ終えた後に一言「イカ天ってうまいな」。その手は、もう一つのイカ天に手を伸ばし、2つ目のイカ天を頬張り「サクサクがいいねぇ」と男に笑いかける。
皿に並ぶシャリ二つ。男はこの二つのシャリを持ち上げ、醤油をつけて食べるのであった。結局男はイカ天を食べることができなかった。
回転寿司のイカ天握りのイカ天を取られる
回転寿司は食のワンダーランドである。しかし、そこは戦場でもあった。
悲しい事件は日常で発生する。
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