第38話 脅し
「どうして佐田君が......? 校長先生、お話って一体なんなんですか?」
「うちの娘が佐田君に何かしたんですか!?」
神妙な顔をした保護者達は、校長と俺の担任の風花先生に尋ねる。
どうやら娘達からは何故呼び出されたのかまだ聞いていない様だ━━。
「もしかして......彼とウチの娘が付き合っているとか? それなら超ヤバくね!? 玉の輿じゃん!」
「母さん違うから......」
木上の親に関しては何を勘違いしてるのか突拍子もない事を口にする。
場末のスナックにいそうな濃いメイクをした出立ちの彼女は、ハエトリ草みたいな付けまつ毛をバサバサとさせながら俺に妙な視線を送ってくる。
「ったく......こんな時に大袈裟な集まりをして一体なんなんだ!? もし下らない要件であれば許さねーぞ? 俺はこう見えて忙しいんだよ! さっさと要件を言えや!」
真木の父親はイライラしながら校長先生と風花先生に対して睨みを聞かせて脅す。
その言動と明らかにカタギではない目つきと所々抜けた歯が特徴的な風貌に風花先生は焦った顔を見せるが、校長先生は俺に目配せして呆れたように口を開く。
「そうですか......」
まぁ今のうちにイキがっておけばいい、その強面顔がすぐに歪むことになるんだ━━。
「では早速本題に入ります。今回集まっていただいたのは佐田悠月君に対する誹謗中傷......というよりイジメの話が事実だと確認が取れました。その加害者が今お集まりいただいている生徒全員です━━」
「は.....? なんですって?」
「そんなバカな......!」
保護者たちは信じられないような顔で俺を見るが、校長は間髪入れずに話を進める。
「我が校としましては例えどんな事情であれ、イジメを看過する理由は一つもございません。よって矢口麻里子さん、小保方夏子さん、木上優樹江さん、真木佳子さん、吉澤裕美さんの五人を......
退学処分と致します━━」
校長先生が語気を強めて放った退学という二文字は保護者達に衝撃を与えるが、停学や謹慎の予備動作も無くいきなり退学を言い渡した校長先生に保護者達は顔色を変えて反論を始める━━。
「ち、ちょっと待ってください校長先生! いきなり退学とはどういう事ですか!?」
「うちの子がイジメとか、何かの勘違いなんじゃないんですか!?」
「昨日彼をテレビで見ましたけど、校長先生は些細なことでもメディアに広げるぞと彼に脅されてそう言っているだけでは!?」
「そもそも女子が男子をいじめるなんて......彼の行動にも問題があったのではないですか!?」
「そうそう、ただ少しだけウチの娘に揶揄われただけでは? その程度で退学だなんて......」
保護者たちは好き勝手な事を次々口にする。
他人が虐められた事件を聞くと加害者に制裁をとのたうち回る奴らも、いざ自分の子供が加害者に回ると自己正当化のためにこのような立ち回りをするんだろう。
しかしなんとも情けない親共だ......ウチのオカンなら間違いなく俺を殺すのに━━。
「はぁ......これだから"子を見れば親が分かる"って昔の人は言う訳だ、さすが先人たちは世の中ってやつをよく見てる」
「あ? それはどういう意味だ小僧っ!」
「そのまんまの意味だよ、アンタは初対面の人に対する言葉遣いどころか日本語すら通じないのか?」
「なんだと.....テメェなめてんのか? ああ!?」
「おいおい冗談だろチンピラ親父。アンタを舐めるくらいならナメクジと一緒に地面のコンクリ舐めてるほうがマシだよ」
「ふざけてんのかクソガキ! 大人が子供に手出しをしないと勘違いしてるのか知らねーが、大人を馬鹿にすると痛い目に遭うって事を思い知らせてやろうか?」
真木の親父は腕を捲って綺麗に彫られた和彫の刺青を俺に見せつける。
他の母親たちはそのガタイの良さと声のデカさや珍妙な刺青を見せる真木の親父にビビり、真木自身は俺を脅して話を終わらせようとする父親に心酔している様子だった。
「俺はこの辺じゃ名の知れた組のモンなんだ。あんまりふざけた口聞くと舎弟を使ってお前の家族ごとこの地域一帯に住めなくするぞ......?」
「......」
「パパいいねそれ! コイツさぁ、最近調子に乗ってるからやっちゃってよ!」
「ああ、ていうかコイツの母親って確かテレビで写真見たけど美人だったな......それならついでにオヤジにあてがってやるか。なぁ小僧......こんな子供同士の戯れあい程度で娘を退学にすると突き通すなら、末代まで俺たちが追い回すぞ......?」
真木の親父はそう言うと目の前にある低いテーブルに足を叩きつけて俺に渾身の脅しをかます。
その様子に風花先生は少しビビっているが、校長先生は何度もこう言う経験をしてきているのか眉ひとつ動かさず毅然とした態度で真木の親父をじっと見つめ口を開いた━━。
「言いたいことはそれだけですか、真木さんのお父さん。被害者の高校生相手に大の大人が脅しですか?」
「......なんだと?」
「オタクのお子さんは彼に対して誹謗中傷をしていたんですよ。親であればそれに対して謝罪をするのが常識ではないでしょうか?」
「はっ......そもそも証拠があんのかよ? あるならさっさと出せやぁっ!」
「いいでしょう、ではこちらをお聞きください━━」
校長先生は俺が収録したボイレコを机に出して再生する。
するとさっきまであれだけ批判していた保護者連中は一部を除き黙って下を向いた。
「付き合っていた彼女に振られただけでなく、それを見せ物にされてここまでバカにされ続けた事を耐えてきた彼の心境を思うと私は心が苦しいです。もしこれを聞いても”その程度で退学”と皆さんがいうのであれば佐田くん、君には彼らを自殺に追い込むまで校内で誹謗中傷しても構いませんよ? 君にはそれだけの権利があります」
「なっ......! それとこれとは話が違━━」
「話しが違う? 私は何かおかしいことを言ってますか? 私は彼がされたことをそのまま返して良いと言ったまでです。それの何が間違ってるんですか? 間違っているのであれば納得できる理由を今すぐご説明いただけますか!?」
「っ......!」
「彼が勇気を出して我々に告発してくれたにも関わらず、たった今加害者の親にはその程度と非難された挙句脅されてるんですよ? あなたたちは普通の神経じゃない......己の可愛さにたった一人の未成年をリンチしてるただの人でなしだ!」
校長の語気を強めた言葉に保護者たちは押し黙る。
正直校長先生がここまで俺のことを考えていてくれたなんて想像してなかったよ......ここからは俺がこいつらに反撃する番だな━━。
「大丈夫ですよ校長先生、こんな裏庭で葉っぱ吸ってキマッてる歯抜けのチンピラにビビるほど俺の精神はナヨついてないんで。なぁ、俺に脅し入れる前に差し歯入れてこいよオッサン」
「......あ?」
「アンタさぁ......さっきから何回も聞き直してるけど耳に大麻でも詰まってんのか? ていうかその腕一体どうした? まさか......金欠で自由帳が買えないからって腕にお絵描きしたのかい!?」
「んだとぉ! 刺青に決まってんだろ! テメェだけは一発ぶん殴って大人の怖さを思い知らせてやる!!」
「ぷっ......お笑いコンビ空◯階段のコントに出てきそうな見た目のオッサンが俺に怖さを教えるって? お前みたいな奇抜なキ◯ガイはiTubeの盗撮ショート動画だけでお腹いっぱいなんだよ」
「テメェェェェェッ!!!!!」
真木の親父は俺の胸ぐらを思いっきり掴んで無理から身体を持ち上げる。
その瞬間風花先生は真っ青な顔をしながら全力で真木の親父を止めに入った。
「真木さんのお父さんやめてください!!! 子供相手に何してるんですか!!」
「ウルセェ!! そこどけやこのクソアマぁぁっ!!」
「風花先生危ないっ!」
「キャッ!」
風花先生が親父の拳から俺を庇おうとするのを察知した俺は風花先生の前に立ち、拳を構えた真木の親父の顔面に狙いを定める......。
「なんだそれは......デコピンの構えか? テメェ最後まで俺を馬鹿にしてんのか!?」
「はっ......威勢の良さを取ったら置き物以下のお前にはわざわざ防御も拳も必要ないってことさ。ニホンゴわかりまちたか......?」
「テメェェェッ! ぶっ殺してやる!! うらぁぁぁぁっ!」
「佐田君っ!!!!!!」
ピンッ......!
* * *
作者より。
更新遅れて申し訳ございません!
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