第37話 手のひら返しするその手を複雑骨折させる男


 翌日━━。



「ゆずきーっ! 学校気をつけてねーっ!」



 玄関を開けた俺に向かって朝っぱらからデカい声で腕をブンブンと振りながらオカンは叫ぶ......。



「朝からうるさいって! てかそのだらしないパジャマ着るんじゃねぇ! おっ広げた胸元さっさとしまえよ! そんな格好してるといつか宅配便のイケメンに口説かれるぞ!」


「ふーん、なになに? まさかオカンを心配してくれてるの? それとも......血が繋がってないと分かった途端私のココが気になって仕方ないの?」


「そんなわけあるか! アンタ思春期の息子によくそんなこと言えたな!? ったくうちの家族はどうなってんだ......!」



 血が繋がってないとはいえオカンはオカンだ、今更そんな色眼鏡で見ようとは思わないが......やはり少し引っ掛かるところはある。


 実際昨日オカンが映った写真立てが放送されてからオカンの事がネットで話題になってたからな......今後変な奴が付き纏わないか心配だ━━。



「おい悠月よ、昨日の放送で人気になったからって女を引っ掛けて帰ってくるんじゃないぞ? お前の帰りを待っている年上の綺麗なお姉さんが2人もいるんだからな! はっはっは!」


「ミラさん、オカンを女の1人にカウントするのやめてくれません? こっちは一応親子なんで!」


「え? なんで? 親子とはいえ血が繋がっていないではないか。今まで苦労させた分その身体を使って恩返しさせてやろうと思わんのか?」


「アンタ思考回路やべぇな! そんな企画モノみたいな事できるかぁっ! コンプラのコの字も無いんか! やっぱアレな! 吸血鬼ってやっぱそこら辺の倫理観ゼロなのなっ!」


「仕方ないじゃろ? 我は長く生きすぎた上、そもそもニンゲンではないのだからな。とにかく他の女なら悠月の隣は許さぬが玲奈なら我は認める......なんせ我ですら良いと思う程熟れた身体をしておるからなぁ。ほれほれ......」


「キャッ......////」


「すいません、人のオカン捕まえて”熟れた身体”とか言うのやめてくれます......?」


「ち、ちょっとミラさん......息子の前でそんな......っ」


「おお? なにを顔真っ赤にしているのだ玲奈よ。まさか色々溜まってるのか.....? どれどれ......我が吸血鬼の力で発散させてやろうではないか━━」



 ミラさんはニヤニヤとしながらオカンの尻あたりに白く透き通った手を伸ばす。

 だがそれを察したオカンは一瞬で冷めた目をしてミラさんを見下すような目で睨みつけた。



「あのねぇ......いくら長生きしてるとはいえ貴女は可愛い女の子でしょ? 30代の女を揶揄うんじゃないの。それに私は今でも亡くなった夫と息子しか恋愛対象に入りませーん」


「くっ......やはり玲奈は一筋縄ではいかぬか......!」


「うんうん、さすがはオカン。オトンひとすj......息子......だとっ!?」


「おっと、いっけね。つい口が滑っちゃった......」


「滑りすぎだろ! 失言ってレベルじゃねぇぞ! 寒気したからもう行くわ! じゃあなっ!」



 俺は逃げるように玄関を飛び出す。

 ふと隣の家をみると汚馴染が玄関に出てくる様子は無く、駐車場にも車が無い事から両親も家に居ないようだった。

 

 ただ昨日の事は向こうの両親の耳にも遅かれ早かれ入るであろう......野上家とはもう一波乱あるかもしれない━━。




 *       *      *



 教室に入ると昨日の騒動を見ていたであろうクラスメイトが一斉に俺を注目する。

 その中にはこの前まで散々俺を馬鹿にしていた連中もいたが俺は気にせず自分の席に座り一息ついた。


 汚馴染と汚ティンティンはまだ来てないか......まぁ昨日の今日で学校にはなかなか来れないわな。


 来たら来たでどう弄り抜いてやろうかと考えていた時、俺を馬鹿にしてた女共が以前とは顔色を変えてまるでハイエナのように俺の机に続々とやってきた━━。



「ねぇねぇ昨日のテレビ見たよ! 結愛達が本当の悪者だったんだね!」


「佐田君がまさかあんな真実を隠し持ってたなんて知らなかったよ。この前はごめんねぇ」


「そうそう、私達も騙されたよねぇアイツらに」


「でも正直怪しいと思ってたよ私は。前から2人は変に仲良しだったじゃん」


「てか昨日の件で佐田君は一躍有名人だね! 私達同クラで良かったわー」


「アイツら私たちに嘘ついてたとか最悪。これからは佐田くんの味方だからね!」



 バカどもが尻尾振って擦り寄りやがって......コイツらもしや頭が馬鹿すぎて俺に言ったことが頭からスッポリ抜けてるのか?

 


「はっ......全く冗談はそのお歳暮のハムみたいな見た目だけにしてくれよ。俺の机に並ぶより食肉処理場に並んだ方がよっぽど有意義だぞ」


「は......? ゆ、悠月くん......何言ってんの......?」


「まさか......言語が理解できないのか? 豚が背伸びしてニンゲンに紛れると大変だな。捻り出したクソよりも汚い尻尾を振る相手間違えてるって言ってんだよ。お前らの大好きな男女漫才コンビはまだ教室に来てないぜ? 理解出来たらさっさと小屋に戻って草でも食ってろ」


「それどう言う意味よ!」


「そのまんまの意味だよポルコ・ロ◯ソ。お前らが俺に言ったセリフをもう忘れちまったのか? なら思い出させてやるよ」



 俺はスマホをポッケから取り出してボイスメモを再生する━━。



『ほんと最っ低! 陰キャってだから嫌なんだよ。結愛を不幸にさせた事をまず詫びるのが筋なんじゃない?』


『結愛みたいなハイスペック女子と付き合ってるだけの地味なブ男のくせに調子乗りすぎだから!』



 以前俺に言った言葉がスマホのスピーカーから教室中に響くと奴らは真っ青な顔をして叫び声を上げる。



「や、やめてよ! アンタそんなものも録音してたの!? 早く停止しなさいよ!」


「この後に及んで命令口調とは......立場が分かってないやうだな。本編では描かれてないお前らが放った悪口のオンパレードをリフレインしてやるから耳かっぽじってよーく聞けよ?」


「分かったから......分かったからもうやめて! でもこんなの狡いよ!」


「狡い? 狡いのは彼女に振られてブロークンハートしてた俺に集団リンチかましてきたお前らの方だろ。この時代にリスクヘッジせずに弱者を虐めていい気になってたんだ、なぁ......弱者と決めつけ馬鹿にしてた奴にまんまと嵌められた気分は最高だろ? 調子に乗りすぎたのはブ男の俺じゃなくお前らの方だったな」


「な、なんなのよ.......アンタ.......!」


「こんなの聞いてない......」


「私たちを脅すつもり......?」


「脅す? そんな生やさしいもんじゃないさ。昨日のライブ中継でも言ったが、俺を馬鹿にしたヤツは全員漏れなく叩き落とす。お前らの場合だとそうだなぁ......この高校を中退することになるかもな。でも俺を馬鹿にできるくらいのポテンシャルをお持ちの皆さんですから高校中退くらいじゃ大した障害じゃないですよね?」


「っ......!」


「さて話は終わりだ、まぁ精々頑張ってくれ。人を簡単に虐めることができるくらいに回る舌なんだから、その舌を使って互いの傷を舐め合う事なんて造作もないだろ?」


「......アンタ覚えてなさいよ!」



 奴らは顔を真っ赤にして次々に俺の席から離れていく。

 しかしブチギレた顔も次の瞬間真っ白に変わる━━。



『1年C組の矢口麻里亜さん、小保方夏子さん、木上優樹江さん、真木......全員生徒指導室に集まって下さい』


「そんな......」


「あらら、もう迷子のお呼び出しが来たようだな。ちなみに弁護士からの内容証明も後日お前らの藁のおウチ・・・・・に届くと思うから楽しみにしててくれ」


「待ってよ......アンタからも先生に言ってよ! お願い! 私学校辞めたくない!」


「許してよ佐田......私達が悪かったから! もう二度とアンタを馬鹿にしないから今回だけは許して!」


「ごめんなさい佐田くん! 一生お願いです! 許してください......!」


「おっと、そいつは無理な注文だ。テレビでああ言った以上嘘つくわけには行かないじゃん? 寝取られタレントとして俺はお天道様に顔合わせできるように正直に生きていたいんだ。それじゃ楽しい楽しい贖罪の旅にいってらっしゃーい」


「ううっ......」


「こんなことになるなんて......」



 俺のセリフに涙を流して項垂れたまま、奴らは教室を出て行った━━。



 *      *      *



 放課後の校長室にて━━。



「では皆さんお揃いのようですな。この度は佐田悠月君の件で皆さんにお話がございます......」



 そう口火を切った校長先生の向かいには俺をバカにして楽しんでいた生徒が真っ白い顔をして俯きながら椅子に座り、その隣には保護者が神妙な面持ちで俺の顔色を伺っていた━━。



*      *      *



 作者より。

 更新が遅くなってしまった事そして、せっかく頂いた応援コメントに返信出来ず申し訳ございません。

 体調不良から現状あまり回復しておらず、まさに名前通り絶賛"くじけ"ていますので次話の更新についてもう少しお時間を頂けるとありがたいです_:(´ཀ`」 ∠):

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