第34話 ピンチな時ほど冷静な発言を


 サプライズという名の実質的な放送事故が約三分の間に渡り結愛と桜庭の画像、そしてあの日と全く同じ会話の音声記録がテレビのスピーカーから全国のお茶の間に届けられる━━。



『しかし君から誘うなんてびっくりだよ、結愛にはあの冴えない彼氏が居るんじゃなかったか? それが彼氏とのデートをドタキャンして俺と一緒に居たいだなんてさ......。しかしまぁヤツの気持ちを考えると笑えてくるな』


『その話は今はいーの、いくら私の大切なゆずであっても推しのアナタの前じゃ霞む存在なんだから。それにゆずは犬みたいに忠実だから絶対に私を疑わない......だから大丈夫』


『ぷぷっ......アイツハチ公かよ!』


『ハチ公とかヒロ君ギャグセン高いって! でも間違ってないかも。私の言うことは絶対守るし、ゆずは浮気とかしない......っていうか私一筋だからできないし』


『ふーん......さてそろそろ行くか。世間の奴らにバレないように変装してるとはいえ、ずっとここに居ると注目されちまう。俺が目立つのは確かなんだから』


『わかってるって。私も知ってる人にバレたらまずいし......』


『隠し事はお互い様って事だな。にしてもさぁ、こんなに可愛い顔した結愛ゆあにキスしただけとは......彼氏も奥手っつーか情けない男だよな。俺たちがこうして何度も会ってることを疑いもしないしマジでダサすぎる』


『もー、ゆずの話はいいって言ってるじゃん。今日ヒロくんの話をアイツにしたら逆ギレしてきて私イライラしてるんだから━━』



 2人が俺をバカにした音声記録が鮮明に流れるとSNSでは様々な意見が飛び交う。



 》待ってコレどういう事?


 》まさか......浮気してたのは実は自分たちってオチ?


 》『ゆず』って呼んでるの明らかに悠月君のことじゃん。


 》それならまじキモくね?


 》俺は悠月のほうを信じてたけどね、初出演の番組であんなの言うなんて人間性がおかしいと思ってたし。


 》撮られた日付が数ヶ月前だぜコレ。ホントならやばくね? 悠月くんは二人に濡れ衣を着せられたのか!?


 》ディープフェイクの可能性もあるけど......これは雲行きが怪しくなってきたな。


 》これ日付的に野上結愛のデビュー前だよね? 桜庭を追ってた記者が偶々捉えたのかな? でもピントは野上結愛に合ってるし......一体誰がこんなモノを文秋に提供したんだろう?



 そしてスタジオに再び画面が切り替わり、司会の芸人は困惑した様子で他のスタジオメンバーの顔を見る━━。



「えぇっと......今のはどういう事なのでしょうか、あの写真に映っていたのは間違いなく今出演されてる野上結愛さんと桜庭比呂さんだと思われますが.......」


「これが本当ならちょっと酷いですね.......本人達に確認してもらった方が良いんじゃないですか? 正直今はリアリティショーよりこっちの話の方が気になります」


「そうですねY◯Uさん......とりあえずもう一回中継繋ぎましょうか。野上さん返事できますか?」


「は、はい......」



 芸人の呼びかけと共に画面は二分割され先ほどの笑顔から顔色がランプの妖精ジ◯ニーみたいな結愛と、ストッキングでも被ったのかと思う程引き攣った顔面の桜庭が映し出される━━。


 

「すみません。番組スタッフからのサプライズ映像という名目で画面が切り替わった今の画像と音声は......事実なのでしょうか?」


「こ、こんなの嘘に決まってます! 私が浮気なんて......しかも事務所の先輩となんか絶対にしてません!」


「そ、そうです! 僕たちは誰かにハメられたんですよ! 一体誰がこんなことを.......そうだ......! 結愛ちゃんの元彼がやったに違いない! これはディープフェイクだ! とんでもない人間ですよ!」



 桜庭と結愛は必死に否定するが、画面越しにでも分かるくらい尋常ではない汗の量と目が泳ぎまくってるのがめちゃくちゃ面白くて俺は吹き出しそうになる。



「そうですか.......あっ! スタッフさんからまたメッセージが来ました。なになに? これからサプライズゲストが中継で登場ですか......ちょっとこの状況で怖いですが繋いでみましょう!」



 俺はスーツのネクタイをキュッと締め、自分のスマホでイムスタライブを配信を開始しつつ事務所の一室に置かれたテレビカメラに目線を向けるといよいよ俺の姿がテレビ画面に映し出された━━。



「皆さんこんばんはー! 只今兵◯県の県知事選の結果よりも盛り上がってる炎上男、佐田悠月ですっ!」


「なっ......! なんでゆずが.......!」


「あいつ......!」


「なんと! 最近浮気疑惑で話題の御本人がゲストとしては素晴らしいタイミング......初めまして東海ドロップスの谷里ですー、よろしくお願いします。しかしイケメンだなぁ」


「ありがとうございます。初めまして谷里さん、ムーンダスト所属佐田悠月です。お笑い芸人なのにボケ0でやってらっしゃる朝の情報番組いつも見てますよ」


「初対面で痛いとこついてくるねぇ。それより悠月くん、世間では先週の放送で君の名前を特定されてすごいバッシング受けてるけどそれについてはどう思ってる?」


「そうですねぇ......僕の炎上よりメル◯リの方が只今爆発大炎上してるので正直言うとさっきまでメ◯カリに嫉妬してました」


「つ、強いメンタルだねぇ。でもこうしてテレビに初出演してくれたって事は何かの強い意思があるって事だよね?」


「仰る通りです。先週の放送で全国的に僕は有りもしない事を晒されたので事務所の社長さんとこの番組のプロデューサーさん、そして週刊文秋に勤める気合の入った記者さんに相談したんですよ」


「なるほど......という事は今の写真は文秋の記者さんが?」


「それはどうでしょう? 実は今の画像写真じゃなくて動画を切り取った一部だそうです。そうそう、野上さんちの前にそこの・・・ジャ◯ティンビーバーがタクシーを待たせてる映像もありますよ? まぁ一応プライバシーも兼ねて自宅がバレないようにモザイクは入ってますが」


「えっ! そんなものもあるの!? 申し訳ないけど少し見てみたいね」


「ふざけるな佐田! 今すぐ止めろ! なんで谷里さんもみた見がってるんですか!」


「ごめんね桜庭くん。うちのスタッフさんもカンペで再生開始OKって出ちゃってるからさぁ」


「ははは! スタッフさんノリ良いなぁ。では了承も得られたということなので再生しますね。どうぞ!」



 俺はパソコンにモニター出力をブッ刺して直接映像を見せる━━。



『まさか家まで招待してくれるとは......嬉しいよ結愛』


『だって、どうしても来たいって言ってたから.......』


『そりゃお互い様だろ? 結愛だってアイツに隠れて浮気してるじゃん』


「うるさい......。ゆずは良くも悪くも安定の人なの、ヒロくんと求めてる物が違うだけ」


「ふーん。にしてもアイツマジでまだ疑ってないのかよ? 今日朝なんか喧嘩してたのはもしやと思ったけど違ったのか?」


「違うよ、昨日アイツいろいろあったみたいで八つ当たりされただけっぽい。まぁ喧嘩したところで最終的には私の元に帰ってくるのは分かってるし、気にしないで」


『━━明日はもっとスリリングなことしようぜ』



 こうして結愛の家の前で逢引きしている動画がバッチリ放送されると、スタジオには沈黙が走り、中継先の出演者は結愛と桜庭を睨みつける。




「うわぁ......。コレはちょっと......重いねぇ......」



 芸人は座っていたソファにのけぞりるが━━、



「こんなの......嘘ですよ谷里さん! ねぇ、なんでそんな嘘つくの佐田くん!? こんな嘘の映像を見せて私を陥れたいわけ!?」


「そうだぞ! こんなのは全くのディープフェイクだ! 詐欺と威力業務妨害で事務所ごと訴えるぞ!」


「そうよ! 浮気したのは佐田くんの方でしょ!?」



 結愛と桜庭は顔を真っ赤にしてプルプルと体を震わせながら必死に反論した。

 しかしさっき一瞬結愛は俺のことを"ゆず"って言ってたけど言い直したな.......ボロを吐くまでもう少し強請ってやるか━━。



「浮気したのは俺の方か......良いねぇ、その反応を待ってたぜ。ではそんな無実無根のお二人に改めて聞きますが、本当にお二人の間には”ナニも”無いと私や共演者の皆さん......そしてこの全国の・・・視聴者の皆さんに宣誓・・出来ますね?」


「......」


「さっさと答えろっ!!」


「っ!! あ、ああ......誓えるさ当然だろっ!」


「わ、私もよ!」


「はい。ではお二人の選手宣誓も頂けましたので......私の解説実況付きでこちらの映像をご覧下さい━━」



 真っ暗な画面に映し出される数字のカウントダウンが終わり、とある一室のカメラ映像が映し出される。



『なぁ、昨日はああ言ったけどマジで入っていいの?』



「まって......待って......!」



『大丈夫大丈夫、さぁ上がって』



 結愛はまるで自分の家であるかのような振る舞いの桜庭にしている音声がリビングに置かれたペットカメラのマイクに入る━━。



『ああ、お邪魔します』


『ほらこっち来て━━』



「止めろ......この映像を止めろっ!」



 桜庭が声を荒げたので、リビングのカメラに結愛と桜庭の姿がドアップで映し出されたところで敢えて一旦停止をする━━。



「え? すみません、そんな怒ってカメラ止めるほど面白い発言を今仰ってたんですか? ギャグセン(笑)は高いけど沸点は低いんですね桜庭さん」


「ふざけるなよお前......これ以上先を映すなぁっ!」


「あれれぇっ......? この映像ってギャグセンさんが言うには僕が作ったディープフェイクなんですよね? なのにこれ以上"先"って......何故あたかもこの先の展開を知ってるような言葉が出てきたんですか? おっかしいなぁ?」


「っ......!」


「はい、じゃあ続き再生しまーす」



 俺はにこやかに返事をして続きを再生する━━。



『なぁ、この写真立てに写ってるこの美人て......』


『ああ、コレね......すごい美人なお母さんでしょ? 高校生の子供がいるなんて思えないよねー』


『確かに涎が出そうだよ、うちの社長が好きそうな顔してる。そうだ......良いこと思いついた』



 カシャッ━━。



『なあに?』


『この美人を社長に当てがって金を稼がせてやろうかなって思ったんだよ。今社長に写真送ったからそのウチ返事くるだろ』


『良いねーそれ(笑)』


『まぁな、多分社長は用が済めば裏に落とすだろうけど━━』


『ははは! それ悪ーい!』


『ふっ......なんとでも言えよ。それより部屋は?』


『あー、二階だからコッチきて』



 そういって今度は俺の部屋を移した画面に切り替わる━━。



『ここがアイツの部屋か......なんとも貧相で質素な部屋だな。とりあえず結愛......今回はこの衣装に着替えてセックスしようぜ』


『わかったー』


『おっ、社長から返事きた。良い女だから絶対紹介しろってさ』


『何それウケる! ついに芸能界デビューか(笑)』



 そして結愛が桜庭から渡されたのは通販で売ってそうなバニーガールのコスプレ衣装で、結愛はそれになんの躊躇をすること無く今着ている服を脱ぎ始め......



「も う や め て ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ っ !!!!!!!!」




 結愛が今まで聞いたことないくらいの悲鳴を上げたのと同時に再び俺は一時停止をする。

 

 そして号泣している結愛を見てから谷里は口を開いた━━。



「佐田くん......この衝撃的な映像の先も君は全て知ってるの?」


「ええ、もちろん。葬式で突然ご遺体にビンタする元天才子役よりも衝撃的なモノが━━」


「そっか......もう一度聞くけどこの映像に偽りは無い? 近年ではさっきも桜庭くんが言った通りディープフェイクとか流行ってるから一応確認させて欲しい」


「ふふっ......心配御無用、正真正銘本物の動画です。実はこの映像って改ざん防止機能付きSDメモリカードというものに記録されていましてね......裁判でも映像証拠に採用される編集不可能な映像記録とのことですよ」


「なんと.....! ということは実質的にフェイクは不可能なんだね......」


「もちろん。出なきゃ地上波でこんなモノ放送できませんよ」



 俺の発言にイムスタのコメント欄は結愛達を擁護していた連中まで衝撃を受け始める━━。



 》嘘だろ......てことは今の映像全部本物かよ!


 》でも一体誰の家なんだ?


 》てか当たり前のようにコスプレに着替えようとしてるコイツにビックリ。


 》コスプレえっちエロいな......。


 》映像の日付から推測するにあのキス動画から全然日が経ってないぞ? 酷すぎる。


 》俺今だから言うけどさ、野上結愛はどこか裏がある女だと思ってたよ。


 》近年の番組で今一番スリリングで面白い瞬間で草。


 》マジで下手なリアリティショーより面白い。


 》コレ今絶対視聴率ダントツ稼いでるだろwwww



 コメント欄の手のひら返しにほくそ笑んでいると、テレビで号泣している結愛が息急き切ったように声を荒げる━━。



「もうやめてよ! 私を陥れてなにがそんなに楽しいの!? そのメモリーカードも編集不可能とか嘘なんでしょう!?」


「ん? というと?」


「フェイクでここまで私を傷つけるなんて最低だよ!! ていうかその前の日に許可を得たゆずの家に私が入って何が悪いの!? そっちが私に許可したんじゃん! ねぇ! 一体何が悪いの!?」



「はい? パニクって何を勘違いしてるのかわからないけどさ......


















 俺はこの映像を ゆ ず の 家・ ・ ・ ・ なんて一言も言ってませんが━━?」

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