第33話 盛者必衰の始まり


 放送と同時進行で俺はネットの反応を見るが、予想通り俺への批判コメントが多数だった。

 しかしその中でも俺の話も聞かないと判断出来ないという意見や、世界中に配信されているこの番組で特定されるような情報を晒して良いのかという比較的まともな意見も上がってはいた。

 だがやはり多勢に無勢で大多数の世間は完全に俺が敵だという認識になっていた。


 そしてそんな大荒れの中、収録済の番組では衝撃的な話を聞いた男たちが結愛の元へ群がる━━。



『それ事実ならヤバくね? 結愛ちゃん大丈夫?』


『結愛ちゃんみたいな可愛い子が居て浮気は流石にヤバいっしょ』


『うん......その時は辛かったけど、今はこうして素敵な番組にも参加できて本当に良かったです。悔しさをバネに出来たし、なにより事務所の先輩の桜庭君が色々サポートしてくれて━━』


『そうなの? 二人は良い関係性だね』



 結愛がそういう時桜庭はここぞとばかりにアイドル風な爽やかスマイルで口を開く。



『うん。実は結愛ちゃんとは同じクラスなんだけどその事で色々相談に乗ったりしててね......芸能界の先輩としてそんな奴と早く別れた方がいいって言ったんだよ、この番組に出演する直前・・にね。そうじゃないと変なスキャンダルが湧くと思ってさ、だから事務所と相談して配慮したんだ』


『そっかぁ......まぁ結愛ちゃん的にはショックだろうけど、結果的に良いタイミングで別れられて良かったんじゃない? 浮気する男は最低だしさ━━』


『確かに彼は最低の男だったよ、同じクラスの僕はそれを目の前で見てきたし間違いない。ていうか浮気してる奴が芸能界にノコノコ進出して人気になるなんて絶対にあってはいけない事だろう?』


『そうそう! だからそんな男早く忘れてこの番組で吹っ切れたところを視聴者のみんなに届けようよ!』


『みんな......ありがとう......。私頑張るねっ!」



 結愛が涙を拭いて決意を固めた仕草をキメたあと男性陣や一部の女性出演者が結愛を取り囲み各々が抱きしめ、みんなの連帯感が生まれた瞬間をカメラに残してこの日は放送終了となった━━。



 そして放送終了後、SNSは結愛や桜庭への多数の応援コメントと同時に俺へのヘイトコメントが殺到した。下記はその内容の一部である......。



『あんな一途な子が居ながら浮気するとか、悠月ってヤツマジで最低』


『てかソイツをスカウトした大手の事務所ヤバくね? こんな不良債権を大々的に宣伝してたとかマジで終わりっしょ』


『アイツってなーんか調子乗ってた雰囲気あったもんなぁ......』


『てか桜庭君がそいつから結愛ちゃんを守ったって事? もうそこでカップル成立したらキュンなんですけど!』


『悠月終わったな。話題になった瞬間干されるとかざまぁすぎる』


『マジで悠月消えろよ! 死んで欲しい』


『結愛ちゃんがこんなヤツに振り回されてたとか可哀想すぎる。不細工のくせに調子乗んなよ』


『ドラマ降板とか違約金地獄確定で草。これでまた俺の世界ランクが一つ上がったな』


『てかあの有名な美容院にも悠月は直ぐに謝罪すべきだろ。芸能人がよく通う美容院の人が撮ってくれたお陰でバズったんだから』


『悠月は会見開いて土下座して欲しい』



 とまぁこんな感じで世間では荒れに荒れ、昼のワイドショーでも取り上げられるほどの騒ぎになった━━。



*      *      *



 世間が俺に対して騒ぎ立てて2日が経過したが、俺はその間身の安全を確保するためにオカンや先生と相談して学校を休んでいた。

 幸い家はまだバレていないので誰も家に来る事は無く平和に過ごしていたし、藍原や他の友達が学校の事を逐一教えてくれていたので結愛や桜庭の調子に乗った様子など事細かく教えてもらっていた。

 また俺はこのタイミングで敢えてイムスタを開設して一枚写真を投稿したコメント欄を解放し、結愛や桜庭のファン以外にも番組視聴者のヤツらその他大勢からのアンチコメントが来るように誘導してそのコメントを消さずに全てスクショして裁判記録でも有効な書き込み専用のSDカードに保存した。


 そして結愛のラインをブロック解除するといろんなメッセージが届いていた━━。



『どう? 追い詰められた感想は? 私を軽んじて馬鹿にした罰よ。やっぱりゆずには私が居ないとダメでしょ? 今ならまだ許してあげる』


『返事を寄越さないなんて私を舐めてるの? このまま強がるならどうなっても知らないから! ゆずのお母さんもろともそこから引っ越すことになりそうね』


『それと何か勘違いしてるようだけど私は浮気なんてしてないし、どうせ証拠も無いんでしょ? もしかしてヒロ君と私がデキてると思って嫉妬してるの? そうなら男として見苦しすぎるよホントに。ダサすぎ』


『陰キャのくせに私をおちょくって別れた事を後悔して反省しなさい!』



 やれやれ、ここまで来るとバカを通り越して最早ニンゲンの思考回路じゃないな......。


 そう思いながらスマホの画面を閉じると━━。



 ピンポーン......。



「はーい」



 俺が玄関の扉を開けるとスーツをピシッとキメた凛とした顔の若い女性が姿を見せた。



「わざわざ家までご足労頂きありがとうございます......月野社長━━」



 彼女の名前は《月野ゆい》さん。若くして大手芸能事務所ムーンダストプロモーションの社長になったやり手のキャリアウーマンだ。


 彼女の実力は業界内でも凄まじいらしく、突如として亡くなった前社長のお父さんから事業を引き継ぎ、当時まだ小さかった事務所を自身の妹さんである《月野レイ》さんをアイドルとしてプロデュースし大ブレイクさせたのをキッカケに、若手の人気俳優たちを様々な方面でヒットさせた裏で大御所のタレント達も月野社長の人望とその実力で次々とこの事務所に移籍し、音楽方面でも有名アーティスト達が名を連ねているという今や芸能界はこの人の発言一つでスポンサーやテレビ局などのメディアは左右されるという噂まで立つ途轍もない方らしい......。


 だが実際に会うと社長自身はそんな事を微塵を感じさせないくらい気さくな人柄で、俺にスカウトの話が来た時も最初こそ俺は警戒していたがすぐに打ち解けて信頼する事が出来た━━。



「良いのよそんな事気にしないで、とりあえず中に入っても良いかな?」


「どうぞどうぞ」


「ありがとう、ではお邪魔します」



 社長を家に上げるとリビングのテーブルにお互い向かい合って座り、そしてすぐに例の話になった━━。



「すみません、今世間を騒がせている件ですが......」


「良いのよそんな事、私は貴方のことを信頼してるから全く気にしてないわ。それにあれだけ叩かれ放題なのに敢えて何もしない悠月くんは......何か手があるんでしょう?」


「ええ、まぁ......。でも何故わかったんですか?」


「顔を見ればすぐにわかるわ。貴方は何処となく私の妹の恋人に似てるの......なんていうか嫌なヤツを煽り散らかして叩き落とすのが好きそうな顔してる。彼と一緒でイケメンだし━━」


「俺そんなふうに見られてたんd......じゃなくて、大人気のアイドル月野レイさんって彼氏いるんですか!?」


「もちろん、ウチは恋愛自由だしね。それにその彼氏くんはレイのファンが『これなら仕方ない』って納得するくらいの見た目とスキルがあるから認めざるを得ないのよ」


「スゲーやその彼氏......性格は捻くれてそうだけど」


「多分ね。それより私にお願いって何?」


「ああ、実はコレなんですけど......」



 俺は結愛の資料のコピーを全て社長に渡すと社長は一つ一つパラパラとめくる。



「なるほどねぇ......よくこんなに決定的なモノをこれでもかという程集めたわ。貴方凄いよ━━」


「いえ、それほどでも。俺この事務所クビになったら週刊文秋に就職しようと思ってたんで丁度良い勉強になりましたよ」


「ダメダメ! クビになんてしないから! それよりコレを何時やるかが肝なんだけどあの・・タイミングで良いよね?」


「大丈夫です。ではよろしくお願いします」


「OK。ウチの稼ぎ頭になる未来の俳優を潰されかけたんですもの......徹底的にやるわ。それにあの子が所属する事務所にはウンザリしてたし━━」


「というと?」


「まぁそれは色々と......じゃあそろそろ行くわね、元気そうな悠月くんの顔が見れて良かったわ。レイに双璧を成す稼ぎ頭の雪瓜ちゃんにもよろしく伝えておいて」


「了解です」


「あっ、そうそう雪瓜ちゃんね、世界中で売れてるホラーゲームのヒロインのモデルに今度なったの。あの子は日本だけじゃなくて海外でもインフルエンサーとして人気だし、女優としての才能もあるから今アメリカの映画関係者の間で注目されてるのよ。もし決まれば今以上に忙しくなるよ彼女も!」



 天ってそんなにすごい人だったんだ......俺はてっきり日本でコスプレとかして少しだけ人気なくらいだと呑気に思ってた。

 なんか分かんないけどちょっとだけ寂しいな.......。



「それは......凄いですね。俺も応援しなきゃ」


「そうね......でもあの子は応援より貴方自身がただそばにいてくれるだけで応援より何倍も力を出せると思うよ。前まで氷みたいな顔で仕事をしてたけど、唯一信頼している貴方の話をする時"だけ"は優しい顔になってるし」


「そう......ですか」


「あの子不器用だから突っ走りすぎるところもあるけど、ああ見えて心の底では純粋に貴方のことを心の底から想ってると思う。だから例のイムスタの件も私に貴方を他の事務所に取られないようにコメントして欲しいとお願いして来たし、ドラマ出演の話も貴方にピッタリそうなドラマの話だって事で私に持ち掛けてくれたんだと思うの。その気持ちを分かってあげてね」



 そっか......天は俺の知らないところで色々立ち回っててくれていたんだね、ありがとう......。

 この復讐が終わったら天に今までのお礼とお返しをしっかりするからな━━。



「......わかりました、俺も色々表現が下手だけど天の気持ちは絶対に無碍にはしません」


「ふふ......貴方達ってなんだかんだ似てるわね。ただあの子って私生活が謎だらけなのよねぇ......お父さんの話をよくするけど一度も見たことないし、ギャラの交渉とか出演の話とかは全てニシダさんっていう執事さんが引き受けてるのよね......。まぁいいか、それじゃまた」



 社長はそう言って颯爽と帰っていった━━。



「ミラさん、居るんでしょ?」


「ああ、姿を隠していたがやはりお前には匂いで気付かれたか」


「もちろん。それでミラさんにしか頼めないお願いが一つあるんですけど......」


「分かっておる。我のこの見た目とフェロモンをテレビ局で使えば良いのじゃな......?」



*      *      *



 俺への炎上が冷め止まぬまま例のリアリティショーが始まり、俺はそれを事務所のモニターで確認しながらこれまでの最悪な出来事を思い出していた......。



『さぁというわけで始まりました『月とグリズリーには騙されない』第二回という訳なんですけども......結愛ちゃん、初めての生放送で緊張してますか?』


 

 なんと今回は前回放送した人気で更にバズらせたいのかガチの生放送でカメラが回っており、結愛が緊張した顔でカメラの前に立っていた。



『はい、緊張してますけど応援して下さるファンの方やみんながいるので頑張れます』



 スタジオから声をかける眼鏡をかけた芸人に対して結愛は笑顔で答える、まるでこれから自分には幸せしか待っていないかのように......。



『そっかそっか! 頑張ってね! それと......なんと今日は生放送を記念してスタッフの方々から僕達や視聴者の方にサプライズ映像があるということなのですが一体なんでしょうか気になりますね? では早速その映像を......#&/ge☆€bm.....ばっ......』



 突如としてスタジオと結愛を映している映像が乱れた直後に途切れ、それを今まさに見ていた視聴者達は一斉にSNSで番組が放送事故を起こしたと騒ぎ立ててポストやコメントをし始める。

 

 そしてそんなデカい騒ぎと同時に真っ暗な画面からとあるモノが画面に大きく映し出された━━。



『衝撃! 恋愛リアリティショーで話題沸騰の女性タレントNは事務所の先輩アイドルSと水面下でデキていた! 浮気されていたのは実はNの元彼Y君の方か!? by週刊文秋』



 それはこれから発行されるであろう雑誌の一面を飾るスクープの先行画像で、どデカいテロップと共に映し出されたのは結愛と桜庭が駅前でキスをしているあの・・写真とその時に2人が話していた生々しい音声がどデカい音量で再生される。

 そして証拠写真の右下には奴らが水面下でとっくの昔からデキていたと裏付けされるであろう今日より数ヶ月前の日付が右下にバッチリ記載されていた━━。



 ポロロン......♪



『悠月よ、下準備は整えた。お前の反撃を始めてやれ━━!』

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