第35話 脳汁ブシャーなっしー
俺のセリフによってスタジオと中継先は静まり返り、テレビ画面には沈黙が走る。
その中でも常に動き続けていたのはイムスタライブのコメント欄だけだった━━。
「野上さん。どうして今のペットカメラ映像だけで君は何故俺の家だと分かったんです? 浮気男と他称されるバカなこの俺、佐田悠月君にも分かりやすく教えてくださいよ?」
「そ、それは......」
「っ......」
「ふっ......答えられないか? そりゃ答えられねーよな? なら俺の口から直々に言ってやるよ。お前らはペットカメラの件を数週間前に事前に俺から聞いていた......学校の教室で大勢の生徒に大きく注目された状態でな。ニンゲンというのは強烈な体験をすると消えない記憶として鮮明に脳へと焼き付ける、そして今回もその教室と似たようなシチュエーション且つ規模が前回より大きい......つまりお前らが前回焦った状況以上の中で映像を実際に見せる事によって俺の家だと完全に思い込み、自ら真実を吐いたんだよ━━!」
「そんな......」
「はっ......まさかこの俺がここ数ヶ月なんの準備もプランも練らずに馬鹿面しながらのほほんと過ごして来たと思ってたのか? 勘違いすんなよ、俺はお前らがこの番組に出ると聞いた瞬間、俺を陥れたこの番組で逆にお前らを陥れる事をあらかじめ計算していたんだ」
「計算て.......そんなの......」
「出来るはずないって? 頭ポップコーンなお前らのハジけた思考回路なんざ俺には手に取るように分かるんだよ。先に世間に公言すれば例え後から俺が浮気してないと言ったとしても、世間は一度レッテルを貼られたニンゲンなんか信じる訳が無いとね......。だから俺は駅前のキスの映像もペットカメラの映像も敢えて温存し機会を伺い続け、お前らが俺の証言を世間に信じさせないようこの番組で嘘の情報を吹き込むのを待ち、今この時に再起不能な決定的逆転の証拠を突きつけてやったのさ━━」
そして俺はここで一時停止を解除する。
『マジでバニーエロいわぁ.......ウサギって確か性欲半端ないんだよな? 待ってろ今種付けしてやっかr━━』
結愛が下着姿からバニー服に着替えて終えた瞬間桜庭が自分の上着を脱ぎ捨て鼻の穴を大きくしながら上半身裸で結愛に抱きついている光景で再び一時停止する━━。
「消 せ 消 せ 消 せ ぇ ぇ ぇ っ !」
「はははっ! この後のシーンで人の女と寝ようとしてたからってなに寝言ほざいてんだよスーパーアイドル。こんな最高のドキュメンタリーをみすみす消すわけねーだろ? それにこれはテレビ局にとっても美味しいんだよ......なんてったって視聴率が稼ぎ放題だからなぁ!」
「き、汚ねぇぞ佐田悠月ぃぃっ! 俺は無実だ! それにお前が好きだった幼馴染をこんなに傷つけてなにが楽しいんだ!? 昔からの知り合いだろう!?」
「はっ、何を言い出すかと思えば......お前浮気のしすぎて脳みそが愛液に浸かっちまったのか? キッチンのスクイーザーでちったぁ頭絞ってこいよ。そもそもお前らが先に俺に喧嘩売って来たんだろ? 陰キャの俺なら何やっても仕返しされないと勝手に思い込んだんだろ? 幼馴染の俺なら何をやっても許されるとずっと勘違いしてきたんだろ? 俺さえ黙ってれば浮気をなすりつけて上で堂々とこの番組で交際宣言出来ると思ってたんだろ!? あめーんだよ! だからこんな"エケチェン"でも簡単に見抜けるしょーもない罠にまんまと引っかかったのさ!」
「っ......!」
「このゲームはお前らの負けだ......さっさと認めなよ、『人の家に不法侵入した挙句、生中出し浮気セックスして濡れ衣を着せました』ってさぁ......」
「なっ......なんだと......!」
「いや.......私そんなことしてない! ていうか不法侵入ってなによ! 私は許可されたもん!」
「はぁ......バカは大人しく下の口
「そんな......」
「ふ、ふざけるな! さっきから黙ってりゃ言いたい事言いやがって......! 今の映像は誰がどう見てもあの家はお前の家だと認識するだろ!」
「は? なにゆえ?」
「あの写真立ての人間はどう考えてもお前の母親じゃないか!」
「バカかコイツ.......。鬼の首取ったように必死にしゃしゃり出てきて申し訳ないが、なぜお前はあの写真立てだけで俺の母親だとわかったんだ?」
「はぁ!? だってお前ら血が繋がった親子なんだろ!? なら似るのは当然じゃないか! 男は母親に似るって言うしなぁ!」
「あの、ドヤ顔してるとこ申し訳ないんですが僕と母親って.......
血繋がってないんですよね━━」
「なっ.......!」
「えっ......!」
「この事は先日母から直接告げられました......。普通ならショックだと思いますが、僕は血が繋がってないこの僕をここまで育ててくれた母に心から感謝してます。本当にありがとう母さん......」
スタジオと中継先は俺の発言に少し引いたようで誰もが一瞬口を紡ぐ。
そしてコメント欄も俺の発言に同情するコメントやスパチャをとてつもない人数が投げ、俺を叩いていたアイツら2人のファンの居場所がイムスタにすら無くなってしまった━━。
「さて、そこまで往生際が悪いならお前ら自身がよーく分かってるこの後の映像を全国に晒されるこったな。お前らは確実に地獄に叩き落とす━━、俺の母さんを慰み者にしようとしたそこの精巣車も、スペックさえ良ければ簡単に便座を開く公衆便所もな。いや待てよ、公衆便所の方がまだ100倍清潔だな......失礼しました」
俺はまた映像を再生し、下着姿になった結愛が俺のベッドに寝そべりその上を桜庭が覆うという最近のテレビではあまり見ない光景に突入していく━━。
「嫌だ.......嫌 だ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ! と め ろ ぉ ぉ ぉ ぉ !」
「おーっと、叫んでないで早く言えよ。でないとココからはXVI◯EOSの検索ワード『Japanese』でも中々見れないようなゾーンに突入するぜ?」
『うほほ......お前マジでおっぱいやわらけえな......』
『もう、恥ずかしいこと言わないでよ......。早くここをコリコリして......♡』
『なぁ.......もう入れて良いか? 生でさ』
『でも子供できたらマズイよぉ......まぁでもいっか』
『そうそう、出来ても佐田悠月の子供とs━━』
「や め で ぇ ぇ ぇ ぇ っ ! も う 認 め る が ら ぁ ぁ ぁ っ!!!!」
結愛のデカい声によって俺は一時停止を再び押す━━。
「はい? 今なんて? ごめん、ビブラートとしゃくりがちゃんと掛かってなかったからよく聞こえなかったよ」
「佐田君、それはカラオケの採点時だけ気にかけるヤツだよ......」
「あっ、やっと谷里さんが突っ込んでくれた。さすが芸人......プロですね!」
「ここで褒められても複雑だよ......」
結愛はその場にペタリと崩れ落ち、スタイリストによって整えられた髪の毛をくしゃくしゃにして頭を引っ掻き回しながら化粧が崩れたグジュグジュな顔面でカメラを見つめる。
そして桜庭の方もへたり込みながら目の焦点がどこか合っていない虚な顔をしていた━━。
「私が......わるがったです......。ゆずを......晒してずみまぜんでじだ......」
「はぁ? 被害者ムーブしてないで早く宣言しろよバーカ。続き再生するぞ? それと隣の彼氏は黙りこくってどうした? ねぇ......誠意って言葉知ってる? 頭悪くて知らなさそうだから辞書引いて調べる時間を少しくれてやろうか? てかそもそも辞書引ける?」
「すみま.......せんでした......ぁ.......」
「え? 何が?」
「貴方の大切な幼馴染である野上結愛を奪って......浮気したことです......」
「ゆずをだましてうわきした事......ごめんなざい......」
「いや、謝罪はいいからさっさとさっきの言葉を言った方が良いよ? ほら見てみコレ.......」
俺はビニール袋を取り出し、あの日回収した一つだけのコンドームや体液まみれのティッシュをカメラに映す━━。
「コレ警察に届けてDNA調べたら直ぐに誰の体液か一発で分かるからね? お前らゴミカスがいくら俺の前で足掻こうが喚こうが、もう何処にも逃げる場所なんて無いんだよ━━」
「っ......」
》うーわマジでキモいな......。コンドーム一個しか無いのにこのティッシュの量は確実に生でヤッてるな。
》コイツら芸能界どころかまともに外歩けなくなるだろ......ざまぁぁぁぁ!!
》こんな証拠も持ってるなんてヤバいね。どんだけ佐田君は辛かったんだろう.......。
》自分の実家の部屋に勝手に入られて浮気セックスなんて俺なら脳が破壊されるよ。ていうか普通の精神力なら正気を保てないだろ......。
》ホントだよな......此処まで泳がせて罠に嵌める頭の良さと、高校生とは思えない屈強な精神力はみんな見習わないといけないな。
》これは殺されても文句言えない。悠月君の母親にも2人は焼き土下座してほしい。
》さっさと言って謝罪しろバカ共。さっきからピーピー泣いてるけど本当に泣きたいのは佐田君の方だろ!
コメント欄すらドン引きするモノを前に、奴らは言葉を詰まらせ両人とも涙を流しながら同時に口を開いた━━。
「「私たちは......
佐田さんの家に不法侵入した挙句生中出し浮気セックスし、佐田悠月君を陥れようとしました......!」」
2人は遂にあの映像のことや浮気を認め、キモい顔面をカメラに映しながら俺に向かって土下座をするとコメント欄が一気に暴れだした━━。
》アイツらマジで認めた! すげー事だよこれは!
》俺はたった今本物のNTR復讐を見た気がする......!
》此処まで徹底的にやるなんて男を超えて漢すぎるぞ佐田君!
》人気の浮気相手は没落して、捨てた彼氏はこれから大人気が約束されてるとかマジでメシウマwwww
》マジでザマァすぎるwwww
》こりゃ大事件だわ! ネット荒れるぞ!
》やっぱり今思うのは、此処に来るまでずっと我慢してた耐え抜いた佐田君の根性がすごい。
》よく我慢した! そしてよく冷静にこんな作戦を思いついて成し遂げた!
》私あの写真の頃からファンで良かったぁぁ! かっこよすぎ!
》地頭良過ぎだろ......あの状況でああなる事を全て先読みし、自身が炎上してる状態にも関わらずテレビに出てたってことか......。
》アイツら2人も俺らネットもテレビでさえも全員悠月君の手のひらで転がされてたってワケね......スゲーや!
》佐田君を誹謗中傷してたヤツ終わったな。この子なら絶対スクショして証拠保存してるよ、賢いもん。
》ていうか不法侵入どころか男の方は佐田君の母親まで売ろうとしてたんだろ? 死刑で良いだろこんな奴ら。
コメント欄が荒れる中、土下座の光景を見て固まっていた芸人のMCは重い口を開く......。
「悠月くん。今ので2人は認めたって事だけどどうかな? やっぱり2人が君に"濡れ衣を"着せていたんだね。知らなかったよ」
「え? あ! おっと手が滑った!」
「あ゛っ!」
今の発言にムカついた俺はわざと再生ボタンを押してその先の映像を流し始める......しかし過激すぎる映像なので流石に放送は強制的に止められた━━。
「ちょっとちょっと! それはやり過ぎだよ悠月くん! 確かに気持ちはわかるけども少し落ち着こう? 君が正しいのは認めるからさ」
「え? 落ち着いてますけど? 俺の母親まで手籠にしようとしたゴミとそれを半笑いでリアクションしたクズにやり過ぎなんて言葉は無いでしょう? この場で惨殺されないだけありがたいと思って欲しいですよ。ていうかこの番組もそうだけど前回の話で俺の事を結構非難してましたよね? その責任はどう取ってくれるんですか?」
「そ、それは.......」
「確か.......共演者の一部もそいつらと一緒になって俺の事を非難してましたよね? それについてのコメントをまだ頂けてないんですが......?」
「あの......その件については本当に━━」
》やっぱり忘れてなかったwwww
》確かに佐田君のこと批判してたよなwww
》佐田君無敵すぎて草
「いいですか? アンタらはメディアという兵器を常に所持しながら発言してるんですよ。その兵器は人を簡単に殺す事だって出来る.......もし仮にこの僕が反旗を翻す気力が無いまま大人しく過ごしていたら状況はさらに悪化して自殺していたかもしれないんですよ。それを『濡れ衣とは知らなかった』で簡単に済ますんですか? まさか長年テレビに出演されていてもまだアナタ方はその事を自覚出来ていないんですか? ホント恥ずかしい限りですね」
「っ......」
「俺はこれがテレビ初出演ですがそう言った自覚をもってやってますよ? なんならコイツらと差し違える覚悟で今日を迎えました。でもアンタらは状況が悪くなると口を紡いで『君が正しいと思ってた』なんて簡単に手のひら返しをしたり、ミ◯ネ屋とか玉◯徹みたいに一方的な意見で物事を括りたがる放送......そんなんだからオールドメディアは信用されないんですよ。アンタら出演者にも、そして俺を散々誹謗中傷したネットのバカな風見鶏たちにも相応の処罰は受けてもらいますよ? 今間近の惨劇を見たように俺は一切手加減しないからな......? 首洗って待ってろ━━」
俺の宣戦布告に芸人や出演者はオドオドとし始めてなんとか言葉を捻り出そうとする中、MCの芸人が開口一番に喋り出し座っていたソファから降りて地面に手をつける━━。
「......佐田悠月さん。この度はファクトチェックもせずに面白半分で貴方への風評被害を与え、名誉毀損と多大なご迷惑を佐田さんだけでなく家族の方や所属事務所に与えた事を番組スタッフ一同深くお詫び申し上げます━━」
MCが発言して深々と土下座をした後、他の出演者たちも一斉に頭を下げる.......。
「仕方ないなぁ......今回だけですよ? 次にこんな事したらアンタらだけじゃなくスタッフ全員の素行を調べてお前らの人生台無しにしてやるからな━━」
「っ......はい.......」
「因みにそこの2人には被害届と僕や事務所やスポンサー損害賠償請求、そしてネットの人たちは開示請求を楽しみにしててね! ていうかそこの2人は果たして生きて新年迎えられるかなぁ......?」
》さっきの公開処刑見てるとガチでやるなコイツwwww
》出演者冷や汗ダラダラモノで草。怖いモノ無しだろww
》ただの恋愛リアリティーショーがこんな面白い展開になるとはwwww
》これはリアリティーショーじゃなくて"リアル"だからね。
》無敵すぎて素敵wwww
俺が元気よく言うと2人はもう死人みたいな顔で、とてもさっきまでテレビでチヤホヤされていたとは思えないレベルに真っ白に燃え尽きていた。
俺はそれを見た瞬間今まで耐えてきた脳汁がふな◯しーのようにブシャーっと身体から吹き出しそうになる━━。
「さて此処で......皆さんにこの方からお知らせがあります。どうぞ」
俺は手招きしてとある人物を画面に引っ張り出す━━。
「どうも皆さん、雪瓜天です。この度は私の後輩である佐田悠月のお話を聞いて頂きありがとうございました。そして私から皆さんに佐田悠月の今回のプレゼンに関しまして、大切な補足があります......」
天は黒いスーツ姿で登場し、深々とカメラの前でお辞儀をして口を開いた━━。
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