第31話 決別


 俺はその光景を横目に自分の席へと座る━━。



「待って......それどういうこと!?」


「何度も言わせないで、友達としてこれからも結愛と仲良くしていきたかったけどもう無理」


「なんで!? 昨日まであんなに仲良くしてたじゃん! 私ちずちゃんの気に触るようなこと言った? ねぇ教えてよ!」


「そんなの自分の胸に手を当てて考えなよ。とにかく私はもうアンタの味方はしないから」


「ちょっと待ってよ!」


「何を待つの? まさか、駅前のカラオケ屋で男とキスして待ってれば良いの?」



 結愛は浮気を特定しているかのような桐島のセリフに焦りを見せる━━。



「な、何それ......どういう意味よ......!」


「別に......ていうか『どういう意味?』ってそんなに焦った顔してるアンタに聞きたいんくらいなんだけど。まぁいいわ.......とにかく私は結愛とこれ以上話すつもりないから」



 桐島の毅然とした態度に腹を立てたのか結愛の顔が怒りに変わる━━。



「あっそう......! せっかく私再来週から恋愛リアリティショーに出演するのに友達の縁を切るんだ? あと少しで芸能人の私と親友の関係でいられたのに残念。私が有名になって後悔しても知らないから......!」



 はぁ......コイツはそんな事を盾に脅しているのか。

 幼稚というかなんというか、根本は彼氏の桜庭となんも変わらないな━━。



「......だから何? アンタの芸能活動や知名度なんて私の人生には関係ないから知ったこっちゃないわよ」


「なっ......!」


「ていうか今のを聞いて大体分かった、結愛は出会った時より随分変わっちゃったね......私は悲しいよ......。さようなら」


「ちずっ......!」



 桐島はそういって結愛の元から去り、席に座っていた俺の近くで囁く━━。



「今くらいのジャブでいいんだよね......?」


「ありがとう。俺と仲が悪いと思っている桐島から今の話を聞けばアイツは噂の出どころが分かりにくくなるからな」


「なるほど......そして仲が悪いはずの友達がブチギレて縁切りをすれば結愛の情緒も不安定になって周りを信用できなくなるってわけね。」


「そういうことだ」


「佐田君って思ったよりずっとしたたかなのね......。じゃあ私と堂々話すのは今は状況的に良くないから何かあればLIZEに入れるよ」


「ああ」



 そう言い残して桐島は自分の席へと戻っていった。

 するとそれを見ていた桜庭は結愛の元へと歩み寄る━━。



「気にするなよ結愛ちゃん。あの子は元々カースト上位の子だろ? だからデビューして手の届かない存在になる結愛ちゃんのことを妬んでるんだよ」



 桜庭はニヘラニヘラしながら結愛にフォローを入れるが結愛の顔は怒りが全く収まっていない。

 おそらく駅前での事を桐島に匂わせられたお陰で誰がそれを目撃して漏らしたのか、その犯人が気になっているのだろう━━。



「別にもうどうでも良いよ。あんな子もう友達じゃないし......」


「そうそう、それでいいんだよ。彼女とは住む世界が違うんだ......あんなこと言ってたけど再来週になれば結愛ちゃんのことが話題になって向こうから擦り寄ってくるさ」


「......それもそうね、まぁもしその時に言い寄って来ても門前払いするけど。他のみんなは私の友達でいてくれるよね? ねぇ?」


「う、うん......」


「もちろんよ......ね?」


「そうね.......」



 結愛は取り巻きたちの女たちに鋭い眼差しで忠誠の確認をすると、そのオーラに取り巻きたちは顔を引き攣らせながらコクコクと頷いていた。


 そんな光景を横目に見ていた俺の元に昨日味方をしてくれていた藍原や他の男たちがやって来た━━。



「佐田ぁぁ! お前通り魔から女性を救うなんてマジですげーな! 最高の男だぜ!」


「俺らそんな事があったなんて全然知らなかったよ! そもそもその次の日平然と学校来てたよな?」


「普通来れねぇよなぁ......。ていうか俺ならクラスの奴に自慢しちゃうもん」


「野上も惜しいことしたよなぁ。振った男が英雄で、たった一つの動画で芸能界にスカウトされてんだもん」


「確かにっ! しかもさっき警察署長さんになんか渡されてたろ?」


「ああ、こんなものをな.......」



 俺は署長さんに渡されたメモを番号が見えないように見せる━━。



「これ番号が書いてあったんだ、何かあったら相談してくれってさ」


「マジかよ! お前あのワンシーンでどんだけ分厚いコネできてんの!?」


「物好きだよね、俺みたいな陰キャを気に掛けるなんてさ」


「そうは言ってもお前は美容院の投稿で今話題になってるからな!?」


「そうだぞ!? これで芸能人になってみろ、俺らから遠い存在になっちまうよ.....なぁ藍原?」



 藍原は突然話を振られて一瞬驚いた顔を見せ、その後少し目を伏せた━━。



「うん......そうなったら少し寂しいかな僕も......」


「藍原......。あのさ藍原、俺はな━━」



 俺が藍原に本心を述べようとした時、あの不快な男の声が俺の耳に入る━━。



「無理無理、君には無理だよ元彼くん。イムスタで芸能事務所からオファーのコメントが来たところで僕のように生き抜くことなんてできないさ。今この瞬間だけチヤホヤされてるのを楽しんでおく方が君には向いてるよ。そもそも幼馴染の結愛ちゃんに振られる程度の男なんだ......そんな奴が芸能人になったところでたかが知れてるよ」


「なっ! 君はなんでいつもそうやって━━!」




 どうやらこの男は俺が今学校で注目の的になっているのが気に入らないようだ。

 まぁそれもそうか、つい先日まで陰キャと罵った挙句そいつから彼女を寝取って絶望させたやつが徐々に人気になりつつあるんだからな......。


 そして結愛の方をチラリと見ると俺の顔をなんともいえない表情でじっと見つめている━━。



「藍原、言わせておいてやれよコイツが可哀想だろ? 天下無敵のアイドルくんはフォロワーの数と使ってきたコンドームの数でしか自分を誇れない裏垢女子みたいな男なんだよ」


「なんだとっ!」


「ていうかお前は人の心配する前に自分の性病を心配しろよ。モテるからって調子に乗ってると街の泌尿器科に股間をフォローしてもらう事になるぜ?」


「お前ぇ......あんまり調子に乗るなよ!」



 桜庭はイライラが頂点に達したのか俺の胸ぐらを掴み、机から引きずりあげる。



「口じゃ勝てないからってチャチな暴力に走るのか。お前今朝校門で起こった出来事をもう忘れたのか? 俺がどうやってアイツら狂犬をチワワに去勢したのかその身を持って知りたいようだな......!」



 俺は胸ぐらを掴んでいるヤツの腕を軽く握るとミシミシと悲鳴上げ始め、その痛みでヤツの顔は苦悶の表情に変わる━━。



「ぐっ......! お、お前なんて力を......ぐぁぁ......!」


「さっさと離せよ。でないと二度と利き手でファンと自分のチンコを握手出来なくなるぞ」


「クソぉ......! お前覚えとけよ!」



 桜庭は負け惜しみを吐き捨てながら俺の胸ぐらを突き放して距離を取る。するとさっきまで桐島にイラついていた結愛が俺に近づく。



「ヒロくんもさっきの私と一緒でゆずに構わなくていいじゃん。ねぇゆず......今なら昨日私に言ったことを取り消してあげるけどどうする? 芸能人の幼馴染なんて今のうちに仲直りしていた方があなたの活動にもメリットになると思うけど? それに私がメディアにあなたの批判とかすればすぐに炎上して叩かれるけど取り消せば今回は大目に見て我慢してあげるよ?」


「いえ結構です。沈むと分かってるタイタニック号にわざわざ乗りたいだなんてディカプ◯オでも思わんでしょう? 性欲持て余したおっさんでもこんなDMに引っかかりませんよ」


「あっそう......今のセリフ忘れないから! 誰に吹き込まれたか知らないけど私のありもしない噂を疑って今までの幼馴染としての信頼関係を崩すんだね......ちずと一緒で私の言い分を一言も聞かずに。マジ最低......もういいよ......!」



 結愛は情緒不安定なのか勝手に俺の元に来て交渉を持ち掛け、帰りは半泣きになりながら漫才の去り際みたいな捨て台詞を吐いて俺の元から去っていった。



 再来週にアイツはテレビ出演か......いよいよだな━━。



*      *      *



 放課後━━。


 俺は早々に家へと帰り結愛の浮気資料をまとめてオカンの帰りを待ち、ミラさんと二人で帰って来たオカンにその資料を全て見せた━━。



「オカン......これが俺がベッドを買い替え変えたい理由だよ。俺はここ数ヶ月、結愛が推しのアイドルと浮気してたことに耐えて確実な証拠を集めて来たんだ......」


「なに......これ......!」



 俺の部屋で桜庭と結愛が一発かましてる映像をオカンに見せると、オカンは今まで見たことの無い程恐ろしい表情で目を見開いてスマホを凝視していた━━。

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