第27話 物事にはちゃんとしたタイミングというモノある


 神社の階段を降りた先の路肩には黒いア◯ファードが停まっており、スライドドアの横には黒いスーツを着こなし、白い手袋を身につけた若い黒髪イケメンの男性が立っていた。



「お嬢様、お待ちしておりました」


「ニシダありがとう。紹介するわね悠月、この男が私の付き人のニシダ」


「は......初めまして」


「初めまして佐田様、天お嬢様の執事をさせて頂いておりますニシダと申します。以後よろしくお願い申し上げます」


「こちらこそよろしくお願いします」



 スッゲェ......マジで執事なんてこの世に居るんだな......。

 てかめっちゃイケメンだこの人......まるで漫画の黒◯事みたいだ。



「僭越ながら佐田様、少しばかりお耳を貸していただけますでしょうか?」


「あ、はい......」



 黒いイケメン執事は俺の耳元に顔を近づける━━。



「お嬢様は佐田様が思っている以上に佐田様の事を......ですので不用心な事をしないようお気をつけ下さい。この前なんて佐田様の名前をルンルンに呟きながら自分のお部屋に貴方の写真を全面に━━」


「ニシダ......? 余計な事を言ってないわよね?」


「へっ!? い、いえ決してそのようなことは......! お嬢様をどうか大切にして欲しいとお願いをしたまでであります」


「そう? なら良いけど。悠月はもうすぐそこがお家だけど車に乗っていく?」


「いや大丈夫だよ天、自分で帰るよ」


「分かった。さぁ行きましょうかニシダ」


「承知しました。とにかく佐田様......お嬢様は佐田様のことになると情緒不安定になってしまい私も色々と大変なので、これからは私の事も守ると思いながら御行動される事を切に願っております......マジで」


「り、了解です......」



 おいおい、執事にとって大切なはずの丁寧な敬語ですらなくなってるよこの人......。



「はぁ......私が何回お嬢様に敵対した者を闇に葬らざるを得なかった事か......。とにかく私は貴方の味方ですので、お嬢様の事で何か困ったことがあれば何なりとお申し付けください」


「あ......ありがとうございます」



 闇に葬るってなんだ......!? まさか本当に東京湾に......? 怖えぇぇっ......。



「ニシダ......貴方は悠月の耳に対してそんなに用があるの? 悠月の耳に近づいて舐め回して良いのはこの私だけなんだけど? 貴方の首から上を今すぐに消し飛ばして二度と耳打ち出来ないようにしてあげましょうか?」


「ひ、ひぃぃぃっ......パワハラだぁぁっ......! おっと失礼しました。では佐田様、改めてお嬢様の事をこれからよろしくお願い申し上げます」


「じゃあまた明日ね悠月、雌豚の匂いは今日中に洗い流しておいて。落とせなかったら明日から私の家に住んでもらうこと決定だから」


「拒否権無いんかい......」


「お、お気の毒に......」


「なーんて冗談よ。ニシダも私のわがままに付き合ってくれてありがとう、帰りましょうか」



 そう言って2人は神社から去っていった。

 しかしニシダって人も色々苦労してるんだな......まぁ、あんなおっかないヤンデレお嬢様が居れば仕方ないか━━。



「いや待て......そんなことより天はなんで俺がこの場所に居るって分かったんだ......?」


*       *       *



 神社から少し歩いて我が家に到着すると煌々と灯りがついていた。

 時刻は現在22:00を回っているので恐らくオカンはもうとっくに家にいたのだろう......その証拠に美味しそうなロールキャベツの匂いが家の窓の方から少しばかり立ち込める。


 夕飯の連絡しなかった事怒ってるかな......?


 俺は恐る恐る玄関を開ける━━。



「ただいまぁ......」



 俺の呼びかけにオカンは何も返事をしてくれない......だがダイニングの扉は開きっぱなしで、外から匂っていたロールキャベツの香りを強く感じる。



「オカン......居ないんか?」



 俺がキッチンに荷足を踏み入れると━━。







「うぇぇぇぇぇいっ! おかえり悠月ぃぃぃっ!」


「なっ! オカン!」


「ひひひひっ! どう驚いた? ヒック......うぇぇい」


「おお、やっと帰って来おったか! 全く.......玲奈と待ちくたびれたぞ!?」


「そうよそうよ! 2人でずっと待ってたんだから!」



 ダイニングに居たのは、ユニ◯ロの黒いブラトップ一枚にレースのパンツ一丁というエロみっともない格好で顔を真っ赤にしてベロンベロンに酔っ払っているウチのオカンと、OLのスーツをはだけさせYシャツから胸元をダイナマイトさせながらスカートが好き勝手めくれているミラ・・さんだった━━。



「そうじゃそうじゃ! 我らのつがいになる男が遅いから2人で飲みまくってしまったぞ! これを漢としてどうけじめをつけるつもりだ! 場合によっては生きたカニの爪を鼻に挟ませるぞ!」


「昨日ニュースになってたやつネタにすんな! まだ新鮮すぎるから! ていうか貴女がなんでこんな所にっ!?」


「うぃぃ......とりあえず席座れぃ! 愛しの息子よぉぉっ!」



*       *      *



 オカンに言われるがままに俺はダイニングの席へ座る。

 向かいにはオカンとミラさんがお互い缶ビールをゴグゴク飲みながら、新歓コンパでイキってる大学生みたいに何回も何回も乾杯をしていた。



 いやいや......これどゆこと......?


 情報が渋滞しすぎて全く頭が整理できない......。

 まず俺は桜庭の依頼と思われる闇バイター達に襲われたのをやり返し、天には浮気を疑われて殺されそうになったがなんとか家に無事帰ってきた。

 そしてオカンには昨日起きた結愛と桜庭の事を話そうと心に決めて玄関のドアを開けた......それがまさかこんなことになってるなんて━━。



「何ボーッとしてんのぉ悠月!? へへっ......その顔も大好きだけどぉ〜」


「ボーッともするだろうがっ! 一体何がどうなってんだ!? なんでそんなベロベロに酔っ払ってんの!? ていうかミラさんそのOLスーツ姿は何!? アンタ初対面の時ハロウィンのエロコスプレみたいな服装着てたじゃん! 風俗のオプションで頼むようなエッチな格好してたじゃん! ていうかそもそもなんでミラさんが家に来てオカンと仲良く飲んでんの!? いつから知り合いだったの!? 作者は一体何考えてんの!?」


「やはり流石だなお前は......早口で美人な乙女二人を巻くし立てるなんてなかなかできないぞ? 若いだけの事はある」


「若さ関係ねーよ本物の乙女に謝罪しろ! 単にアンタらの脳みそがアルコールにビタビタに浸って回転が遅いだけだろうか! 酒クセーんだよ!」


「ひどぉ〜い悠月ぃ! アンタ私がどんだけこのおっぱいをアンタに吸わせてそこまで大きく成長させてあげたと思ってるの!?」


「やめろやめろ! 親からおっぱいとかそういう唐突な下ネタが一番心のダメージデカいんだよ!」


「はっはっはっ! でもお前は我と初めて会った時も堂々と我のこの胸を触っていたではないか? いやそれより玲奈殿......さっきお前は『悠月は亡くなった旦那の連れ子』って言っておったではないか! それならおっぱいを吸わせてないだろうに」


「そうだった! 悠月と長く一緒に居すぎて私が産んだと勘違いしてた! 10代の頃になんとか吸わせようとしたけど私そもそも妊娠してないから出なかったんだっけ。ぬるま湯で溶かした粉ミルクを哺乳瓶で一生懸命あげてたわー。あの頃は可愛かったなぁぁ......まぁ今も可愛いし大好きだけどぉー!」


「はっはっは! 我も悠月の事は大好きじゃ! ほれ飲め飲め! しかし......もし悠月が今後碌でもない女を連れてきたら我ら2人でエサにしてやろうぞ」


「エサって言い方笑うからやめてよミラさぁ〜ん! そんなにベッピンさんで口調が変に固いのに口悪いの私ツボなんだからぁ。でも━━、







 





 私も悠月を裏切るような女だったら確実に殺すね......なんなら私が悠月と事実婚するから」



「おっ!? それなら我も参加するぞ! 他の女共には悠月はやれんが玲奈なら我とも話が合うし最高じゃ! ホレホレ玲奈よこっちに来い、ギューってしてやる!」



 ミラさんは手でひょこひょこと合図させてオカンを誘導し、それに釣られたオカンを恋人のように抱きしめる。



「へへへへっ、私久々に人にハグされたかも! ミラさんあったかーい♪ 良い匂ぃぃ♡」



 お、俺はずっと2人に何を見させられているんだ......? 酔っ払ったノンケな同僚をお持ち帰りするレズモノのAVかこれは......? 勘弁してくれ......!



 だが俺の困惑を他所に、あんなに威勢よく座らせた俺の事をガン無視で2人は無駄にイチャイチャしながらお互いに酒を飲み合っていた━━。



 いやちょっと待て......この酔っ払い2人さっきサラッと言ってスルーしちまったけど、俺とオカンマジで血繋がってないの......?

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