第26話 怒らせてはいけない人
俺は恐る恐る後ろを振り返る。
そこには悪鬼のような表情で俺を見つめる美しい女性がクリーム色の美しい髪を靡かせて俺の背後に立っていた━━。
「ひぃぃいぁぁっ! キキキキツネの神様が出たぁぁっ! ってあれ......? そ、天先輩じゃないすか......どどどどうしてここに......」
「敬語ってことはここで私に何かやましい行動をしようとしていたって事で......間違い無さそうね?」
「いや......そそそんな訳無いじゃないですか! どっちかと言えば俺襲われた方だからね!? ほら見てよそこで伸びてる不良共を......!」
俺は震えながら不良三人組に指を差す。
しかし天はソイツらに全く興味が無いようだった。
「ふっ......悠月があの程度のムシ共にやられるわけないでしょう? いくら誤魔化しても私には分かる......ここで道草してたらそこのメスに唆されたムシ共が貴方を襲って返り討ちにした。違う━━?」
「っ......」
「もっと付け加えましょうか。貴方は
な、なんで心の隅っこで少しだけ思ってた事まで分かるんだよこの人......! 絶対俺より化け物だろうが!
「い、いやいやそんなことは......これは勘違いなんだ......はははは話せばわかる......! なっ? なっ?」
「なんか奥さんに浮気がバレた時の旦那の言い方みたいになってるわよ? やっぱり私の心の傷と同等の痛みを貴方の身体に刻みつけないとダメかなぁ......?」
「かかかか勘弁して下さいっ! 本当に何もないんです! 急襲した挙句人質にされたバカを菩薩の心で助けただけなんですぅぅっ!」
「ふうん......そこまで言うなら今回は許......したくないけど仕方ない。でもそんな事よりもっと許せないのは━━」
天は俺を通り抜けて桐島に近づくと......。
カ゛シ ッ━━!
「ぐぇっ......!」
「混乱に乗じてぬけぬけと悠月に身勝手な気持ちを伝えようとしたこの女。そんな軽薄すぎるメス豚は......出汁にした方が良さそうね━━」
「はぐぁっ......!」
天は殺意を込めたオーラを放ちながら桐島の両頬を手で思いっきり締め付ける。
「貴女の名前は桐島千鶴、誕生日は9月3日で現在16歳の乙女座。家族構成は父と母、そして双子の姉である千影が1人の四人家族。好きな食べ物はロールキャベツと水餃子、メイクにはヘアスタイル含め1時間半掛けてから登校してくる入念さ。あとそこで寝てる不良には、以前不良に嵌められた姉を助ける事と引き換えに半ば強制的に連絡を交換させられた。そして野上結愛の友人の1人━━」
「な、なんで私のことを......家族のことまで......」
「豚がブヒブヒ薄汚い声で喋るな。最後に貴女が高校入学から思いを寄せていた唯1人の人人物、それは......
佐田悠月━━」
「っ!」
「......は? 俺っ!? いや待て待てどういう事だよそれ! 俺はコイツに散々悪口言われたんだぞ? そんな小学生みたいな好き避けを高校生がやるなんてイタすぎるだろ......。俺なら悶絶して自殺するわ......」
いや待てよ、もし今の話が本当なら......この女少し使えるかもな━━。
「そう、彼女はその小学生みたいなイタいことを悠月にやって散々傷つけたのよ。ねぇ......?」
「うぅっ......は......はい.......っ......」
「へぇ......豚って涙を流せるんだ。随分芸達者ね」
「ごめん......なざい......」
「桐島千鶴、貴女には悠月に告白をする資格なんて無い......唯一あるとすればその命を持って罪を償うことね。醜いバケモノ━━」
天は分かりやすい捨て台詞を吐くと俺の方をチラッと見てアイコンタクトをする。
なるほど......そういうことね。俺の一瞬の考えがどうやら天にも伝わったようだ━━。
「待てよ天、桐島がバケモノって言うならこの俺もだろ? そこの重たそうなキツネの石像を見てみろよ」
「あら......地面から引き抜いた跡がある......」
「ショベルカーでも無い限りそんな事普通は出来ないだろ? でもそれは俺が素手でやったんだよ。バケモノとして桐島を始末するのであれば俺みたいなバケモノがやるべきだろう。だからニンゲンである天がわざわざ手を汚す必要なんかないんだ、桐島の弱みはとっくに握ってるしな。それに昼にも言ったがこの件は俺自身でカタをつける、だからその気持ちだけ受け取っておくよ」
「悠月......」
「というわけで、これに懲りたらもう二度と余計な手を出すなよ。俺はまだ良いが、もし天に手を出したら......
確実にお前を殺す━━」
「っ......」
「それと......さっき俺に対する素直な気持ちを聞かせてくれてありがとう。正直に言ってくれて嬉しかったよ千鶴」
「佐田......今私のこと初めて名前で......」
「あとさ、その勇気があるなら明日からは俺だけじゃなく結愛にも今お前がアイツに対して思ってる素直な感想を伝えた方がいいと思うよ」
「うん......っ.......わかった......」
「但し一つだけ言っておく、浮気の事を俺経由で知ったことは絶対に本人に言うな」
「えっ......? でもそれじゃあ佐田はまだ辛い思いを━━!」
「いいか? もしお前から奴らに浮気の事を喋ったら確実にお前を潰す......この意味わかるよな? これで話は終わりだ。千鶴も早くここから去った方がいい......また明日な」
「わかった......。本当にごめんなさい佐田......それと雪瓜先輩も本当にすみませんでした......!」
「それと双子のお姉さんのこと......まだ脅されてるようなら俺に相談しろ。なんとかしてやる」
「うん......っ.......。ありがとう......悠月君......」
桐島は不良三人組を置いて足早に神社を去った━━。
「......本当にアレで良いの?」
「ここまでやれば大丈夫だろう、野上結愛の友人であるカースト上位の女はこれで確実に陥落した......。それにもし明日からアイツが野上結愛に対する態度を変えなかった場合、確実に俺や天に滅多刺しにされる事を今日嫌と言うほど理解しただろう。どんなに悪ぶっても所詮は脅迫慣れしてないただの高校生だからな......明日から俺の狙い通りに動くはずだ━━」
「そっか......まさかに鎖の無い奴隷ね」
「その通り。そしてその奴隷が持っている楔はやがて野上結愛を取り巻く信頼関係にヒビを入れ崩壊させる......俺はそれを間近で見届けてやるさ」
「ふふっ......それにしても悠月ってばなかなかやる事が残酷ね、あの子の好意に気がついた途端そんな事を咄嗟に思いつくなんて。あの子に最後優しくしたのも飴と鞭の使い分け......言わば一種の洗脳でしょ?」
「仕方ないよ、、好意を持たれようが俺を嵌めようとしたヤツはキッチリ責任を取らせる。それにただのエサに好意を持たれても今の俺には何も響かないからな━━」
「響くのは私の言葉......だけ?」
「......うるさい」
「ふふっ......じゃあ帰りましょうか」
俺と天も不良を残してその場を後にした━━。
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