第25話 心の内は言わせない


「う る せ ぇ ク ソ 女 ぁ ぁ ぁ っ━━!」


「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ━━!」




 カ゛シ ッ━━!



「っ━━! え......あ......れ......?」


「なっ! お、お前ぇっ......!」



 ピアスの男が桐島を刺そうとした瞬間、俺がナイフを素手で掴むとヤツは動揺する━━。



「桐島......コレは貸しだからな?」


「......え?」


「くっ......! 離せぇ......その手を離せぇぇぇっ!」


「大きい声出すなよ。神様が起きちゃうだろうが......」




 ハ゛キ ィ ン ッ━━!



「なっ......!」


「うそ......」



 握りしめたナイフの刃は俺の手に傷一つすらつける事なく、ポッキリと折れて地面に転がった。

 


「クソ女だろうがなんだろうが暴力振るうのは勝手だが、仲間裏切って人質にするやつはイタい目を見ないと治らないよな。次ポッキンアイスになるのはお前だ......弱き者よ」


「最後どっかの鷹の目のセリf......ひ......ひぃぃっ! ば......ばばばバケモノぉぉっ!」



 ピアスの男は逃げ出そうとするが、俺はさっきの男達と同様にそいつの頭を掴むとミシミシを音を立てて頭蓋骨が悲鳴を上げる━━。



「ぐあああああああっ!」


「シーッ......次叫んだらお前の脳みそでスムージーを作るぞ? そうなりたくなければ静かに教えろ、お前は誰から俺を襲えと依頼されたんだ......?」


「わ、わからねぇ......本当に分からねぇんだよ! 捨て垢からDMが突然来たんだ! お前をボコして写真を撮れって。そこでノビてるコイツらにも来てたから恐らくここら辺の半グレ"ドラゴンヘッド"のメンバーにだけ送られたはずだ......!」


「そうか......役に立たない情報ありがとう。おやすみ」


「いや......や゛め゛っ゛r゛.......!」



 ト゛コ゛ォ゛ッ━━!



 ピアスの男は他の男より少し手加減し、意識を失わせないように地面に頭を叩きつけ戦闘不能にさせる。

  

 しかし力加減が前より大分上手くなったよな......俺も━━。



「そこで伸びてる勇者パーティ以外にも伝えておけ、今度俺に手を出したら全員精肉店へ陳列される事になるぞ。分かったな......?」


「は......はぃ......うっ.......」



 男はおしっこを漏らしながらその場に気絶した━━。



*      *      *



「桐島......約束通り助けたぞ」


「さ、佐田......ありg」


「そうそう、さっきお前らが俺に"マッサージ"した件だが......実は俺のスマホに撮ってあるんだよねぇ。ほらこれ見て━━」



 俺は桐島にスマホを見せる。

 その画面に本殿の柱から奴らが俺をボコボコにしている証拠がバッチリと映し出されていた━━。



「あ......アンタもしかして私達を嵌める為にワザとやられたフリを......!」


「大正解。だから仮にお前らが俺のことを警察に言った所で、お前らみたいな不良とその不良に実際にボコられてる真面目な陰キャ......どっちを信じるかはサルなお前にもわかるよな?」


「そんな......」


「桐島、本当の奴隷になるのは俺とお前......一体どっちだろうね━━」


「っ......! うぅっ......」


「これからは俺に二度と生意気な口叩かないことだな。もし叩いたら......桐島、人生やめるってよ。を現実にしてやる」



 桐島は俺を襲った時とは随分態度が変わり、涙と汗によって化粧はグシャグシャで身体は震えていた。

 そしてさっき突きつけられたナイフが少し触れたのか桐島の首筋から少し血が流れている。

 チンピラも倒して桐島の弱味も握った俺は圧倒的に有利な状況の筈だが、さっきから血ばかり見る所為で本能が刺激されてしまい冷静に喋る余裕が少し削れつつあった━━。


 やばい......血だ......血が欲しい......くそっ、こんな時に......!



「ごめん......なさい......」


「は? なんだって? 声小さすぎて聞こえねーよ、喉にシャリでも詰まってんのか? さっきまでの威勢の良さはどうした」


「ごめんなさい.......! 私は佐田に取り返しのつかない事をしてしまいました! 許してもらえるなんて到底思ってないけど謝らせてください......っ......うぅっ......」



 桐島は服を土まみれにしながら涙と鼻水を垂れ流しながらその場で俺に土下座をした。



「はぁ......とりあえず泣くのはいいからさっさと聞かせろ。お前は俺に地味だのなんだの言って結愛の味方をしてたのって単に俺の事が嫌いなだけかと思ってたけどさ......本当のところは違うんだよな━━?」


「いや......私は結愛の友達だから言っただけで......」


「誤魔化すなよ。本当の狙いは別の所にあるんだろ? なら聞くがさっきお前が『カースト最底辺の癖に私の......』って言ってた件、ありゃどういう意味だ? 文脈から察するにやはりお前は桜庭と裏で繋がっているようにも取れるが?」


「......え?」


「正直に言え。言わないと今日からリードつけて全裸で校舎を散歩させるぞ」



 俺はゆっくりと桐島に近づく......。

 コイツは俺に喧嘩を売ったクラスメイトの一人かつクラス内でも地位の高い女だ、返答次第ではコイツを見せしめに━━。



「ふふ......」


「なんだ、何がおかしい?」


「佐田ってさ、あんなに人を煽るのは上手いのに私の気持ち分からないんだね......私桜庭君と一切繋がってないよ。そもそも私は桜庭君の事あんまり好きじゃないし。まぁ他の子はどう思ってるか知らないけど━━」


「はぁ? そりゃどういう意味だ? 朝から他の奴と一緒に散々俺のこと馬鹿にしてたじゃねぇか。今だって半グレの連中に俺の情報を提供してたろ、そりゃお前が桜庭か結愛の手先だって何よりの証拠じゃないのか?」


「それは......朝アンタを怒らせたのはただただ結愛の味方をした結果なだけ。でも正直に言うとね、私桜庭と接してる時の結愛はあんまり好きじゃなかったんだ......」


「......そうなのか?」


「うん......。私はさぁ、佐田と仲良くしてた結愛の方が好きだった......というより二人が醸し出す雰囲気が好きだったの。それにその頃の結愛の方がなんていうか......純粋な子だった気がする。でもそんな理由で桜庭と仲良くなった結愛と距離を置くわけにはいかないでしょ? 私は結愛の友達だからね。それに━━」


「それに?」


「桜庭と結愛が今以上に仲良くなれば良いなって思ってた部分もあったの。これは至極自分勝手で最低な私の意見だけどさ......」


「お前ふざけんなよ! 俺がどんな思いでこの数ヶ月過ごしたと思ってんだ! アイツらはなぁ......!」



 ふざけんなよコイツ.......! そんな身勝手な理由で結愛に味方して桜庭に調子乗らせたのか? だとしたら到底許せない.......今すぐ地獄に送ってやる━━。



「ごめんなさい......! 後で幾らでなじって良いから今だけは怒らないで聞いてくれる......?」


「それはお前の言葉次第だ」


「私はね、桜庭と結愛がここ最近の雰囲気で2人は何かしら繋がってると思ってた。もしかしたら浮気してるんじゃないかって......」


「......お前の言う通りアイツらは浮気してたよ。でもそれだけじゃねぇ......」


「それだけじゃないって......もしかして本当に2人が一緒に居る現場とか直接見ちゃった......?」


「......もっと酷いもんを見たよ━━」


「佐田......やっぱり朝言ってたのって......」


「.......」


「そんな......! っ......私......ホント馬鹿だ.......。佐田がそんなに辛い思いをしてる気持ちを全く知らずにあんな大勢の前で周りに同調して佐田を攻めて......。おまけに八つ当たりでこんな事を......ホント最低だ私......っ......!」



 桐島は自分がやった事の重大さを改めて理解したのか、顔を手で覆いその場に膝から崩れ落ちる━━。



「全くだよ。それに今の件だって俺だから良かったものの、人質に取られた挙句嵌めようとした俺に助けを求めてちゃ世話ないぜ? 俺が菩薩様より心広くてよかったな━━」



 嘘です......心ではコイツの事をただのスポーツドリンクアク◯リアスにしか見えていません。

 ていうかエサに暴力で脅された所でなんの恐怖も抱きませんし、どちらかと言えば逆らった瞬間さっきの映像で脅しながらゴクゴク血を飲み干してコイツをミイラにしたいです。


 でもそんなのがもしバレたらあのお方に殺されるので絶対に出来ません......。



「優しい......優しすぎるよ佐田は......でもだからなんだよなぁ......。この際だから言うけど私......」











「悠月......こんな所で何してるの......?」


「......!」


「ねぇ......な  に  し  て  る  の━━?」



 吸血鬼になってから言葉だけで背筋が絶対零度になったシーンは、後にも先にもこの時だけだった━━。

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