第20話 少しだけ甘えさせて
「なんだか悠月の事随分話題になってる。私たちのクラスにまで噂が流れてきたよ」
「ほうなんれふね。んっはぁっ! そんなことより飯がうまい......うますぎる......! ありがとうオカン!」
昼休みを迎え天先輩にLIZEで屋上に呼び出された俺は、母さんに作ってもらった弁当をバクバク食べながら先輩の話を聞いていた。
思えば吸血鬼になって以降無駄に食欲が湧いてくる。それに食べても食べても全然腹一杯にならないし、ちゃんと満腹を感じられるのは天先輩の血を飲み終えた時だけだ━━。
「はぁ......悠月は自分の事なのにそんなに呑気で大丈夫なの? お姉さん心配......」
「それが全然呑気じゃないんだよね。元カノは人の部屋で間男と生ハメしてたわ、クラスの一部には悪の権化と思われるわ、そいつらの前で盛大に振られるわ、挙句氷の美少女にドッキリ仕掛けられてる哀れな陰キャだのと好き放題言われて人生どん底だよ......。やべぇ、オカンの弁当まじ美味い」
「あのね? 呑気じゃない人はそんなにガッついてお弁当食べないから。でもまぁ良いこともあった、正式に別れたとなれば私は堂々と貴方にアピール出来るもの......」
「......え!?」
「ふひっ......♡ そうなったらこれから貴方のためにお弁当作ったり、今から直ぐに同棲するマンションを決めて婚約の挨拶をお父様にして結婚の日取りを決めて誰かに仲人もお願いしてそれからそれから━━」
「ちょいちょい! 勝手に話を進めないでくれよ。ていうか天は俺に告白ドッキリ仕掛けてる奴だと思われてるんだぞ? そんなクソみたいな仕掛け人の汚名を着せられたままで良いの?」
「別に構わない......周りが私に何を思おうが私には関係無いもの。それより悠月を悪く言ったニンゲンのリストをまとめてくれる? 東京湾に一人一人キッチリ沈めてきてあげるから」
「いやいや、クラスメイトが日を追うごとに一人一人消えてくとかどんな祟りだよ......」
「でもこれからどうする? 話を聞く限りそのハエ男とその幼馴染はまだ貴方に執着しそうだけど」
「確かにな、もしかしたら今日の帰り道早速襲われたりしてなっ! がはははは!!」
「そうなったら絶対に許せない......もし障害になるならやっぱり私がハエを叩き潰すしか━━」
「その気持ちは嬉しいけどダメだよ。この件は俺がしっかりケジメをつける、散々好き放題やられたんだ......もうそろそろ反撃しても良いだろ。他社に乗り換えた幼馴染とヤリチンは俺が必ず叩き落としてやるさ」
「そう......ならとっておきの方法がある━━」
先輩はニヤリとしながら悪い笑みを浮かべた━━。
* * *
「とっておきの方法って?」
「いい悠月? 貴方の幼馴染は恐らくハエの内面をひっくるめて好きになってる訳じゃない。それはハエのアイドルという肩書きだったり外見だったり人気度だったり、所謂今は恋に恋をしている感じね。でもさっきの悠月の話を聞く限り、恐らく心のどこかでは悠月の事を絶対に忘れてはいないはず、だからそこにつけ込むの━━」
「つけ込む......ね」
「今悠月が足りないのはハエに勝る知名度と客観的ルックス、それさえクリアすればクラスのメス豚達も揃って尻尾を振りながら貴方に寄ってくるわ。まぁ尻尾を振った瞬間ソイツらは血の海にするけど......」
「いやこっわ......! 俺より吸血鬼みたいな思考してるよ......」
「当たり前よ。貴方は私
「天の目がおっかn......っ!」
天は突然俺の事を強く抱きしめる。
その身体はとても柔らかく、そして暖かいものだった━━。
「どう......したの?」
「その顔を見てたら猛烈に抱きしめたくなったの」
俺はこんな狂気とも思えるほどの好意を向けられた事が今まであっただろうか......いや、あの幼馴染にさえ裏切られたんだ......俺にはそんなモノ一度も無い。
長く一緒に居たニンゲンでさえ人を簡単に裏切るんだ......。だからニンゲンなんか簡単に信用なんか出来ないし、したく無いと思ってしまう......信じたものを裏切られるのは怖いからだ。
だからいずれはここに居る天も.......。
「大丈夫。私は......私だけは悠月を絶対に裏切らないから━━」
「俺の考えてる事......なんでわかる......?」
「それは......私は貴方の全てを知っているから」
「へへ......っ......なんですかそれ。でももう少しだけ......このまま居させて欲しいかも......です」
「ええ、もちろん......。でも大事なこと忘れてる」
「......え?」
「私にタメ口じゃないよ」
「あ......ごめん......」
「もう何も我慢しなくて良いんだよ? 私には何も遠慮せず甘えて欲しいの......。それが私の生きがいなんだから━━」
「......うん......っ......」
今まで掛けてもらった事のない優しい言葉に俺は思わず熱いものが込み上げ、抱き合っている体勢から泣きそうになっていのがバレないように必死に堪えながら顔を隠す。
でも恐らくこれもバレているだろう......それでも俺を抱きしめ続けてくれる先輩の優しさに俺はただただ自分が泣き止むのを待つ事しか出来なかった━━。
* * *
「どう? 少しは落ち着いた?」
「うん......とりあえずはすっきりした。ありがとう」
先輩から離れ、少し溢した涙を拭くと先輩は少しムッとする━━。
「あーあ、なんという勿体無い事をするの? 右目の涙は小瓶に入れて左目の方は今生で舐めようと思ったのに━━」
「うわぁ......今ので一気に涙が干からびたよ。優しさと狂気を飴と鞭みたいに出すの怖いって」
「失礼ね、私は貴方に
「えっ......」
先輩は長い髪の毛を反対側に持っていっていつも通り首筋を俺に見せる。
やっぱり先輩のうなじは誰よりも綺麗だ......でもそんな綺麗な場所に俺はまた傷をつけるんだよな━━、申し訳ない......。
「ごめん......いくよ......」
先輩の首筋に優しく噛み跡を付ける━━。
「んっ......! そういえばクラスメイトに......貴方がつけたキズをキスマークだと勘違いされた......。あっ......なんか秘密を共有してるみたいで......んぁっ......少しドキドキしぁ......あぁっ......!」
「俺もそれ......少しドキドキするかも......」
「ほんと......? 嬉しい......」
「天......。俺、天が居なかったら今頃どうなってたか━━」
「そんな事......気に......しないで......。もっと吸って良いよ......」
「ありがとう......」
先輩の顔が必死に口を抑えながら快楽に歪むまで俺は首筋に齧り付き血を吸い続ける。その味は昨日までとは違い心が満たされるような優しい味だった。
そして血を吸い終えて先輩の傷口を唾液で塞いだ後、俺の体に異変が起きた━━。
「ぐぁっ......! いだ......身体が.......おかしい......ぐあああああっ!」
「悠月! だ、大丈夫!?」
「やばい......体が......! なんだ......これ......!」
ヤバいヤバい! なんだこの痛みは......! 俺は死ぬのか!?
まるで全身の骨が折れたかのような想像を絶する痛みが全身を襲い、俺はその場に倒れる。
そしてバキバキと骨が砕けるような音と痛みが数分続いた後、ようやく身体を起き上がらせる事が出来た━━。
「悠月......もう大丈......えっ!?」
「はぁ......はぁ.......。どうかした!?」
「悠月の顔が......さっきと全然違う......! ほらコレ見て!」
「え!? うそ......」
先輩の手鏡を見た俺は自分の顔に驚愕する。
そこに映ったのは朝とはもう完全に別人......いや、面影はあるが俺の顔の系統の完成系というべきか、そこらのインフルエンサーの顔面偏差値なんか遥か彼方に置いていける程のモノになっていた。
恐らく彼女の血をこのまま飲み続ければ俺は更に顔とスタイルが整っていくのだろう━━。
「やっぱり......。血を飲めば飲むほどに悠月はどんどん女を引き寄せる外見になっていくのね......」
少し寂しそうな顔をする先輩に何故か猛烈に可愛さを覚えた俺は、身体を起き上がらせて先輩の隣にあらためて座る━━。
「大丈夫、さっき天が言ったように俺はどんな時でも裏切ったりしない。だからそんな目をしないで」
「うん......ありがとう。悠月は私と契約したもんね」
「それに......俺が吸血鬼だってのは二人だけの秘密でしょ? だからさ━━」
キーンコーンカーンコーン......。
「悠月と居ると時間が経つのは早いわね。じゃあまた放課後に━━」
「うん、また」
俺達は屋上からお互いの教室へと戻る。
その途中めっちゃイケメンな先輩と、天先輩とはまた違ったタイプの美人な先輩とすれ違った。
でも何かおかしい......普通のニンゲンと全く違う得体の知れない匂いがあのイケメンから一瞬漂った気がする。
あの人......絶対に只者じゃねぇ━━。
「ねぇちょっと亜依羅! あの氷の美少女
「らしいな......今夜は槍でも降るのか━━?」
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