第19話 斜め上の勘違いをする男


 二人は俺の発言で明らかに動揺していた。

 そりゃそうだ、俺の部屋で動物以下の如何わしい事を散々してたんだもんな━━。



「ああ、ペットカメラだよペットカメラ。昔ウチで猫を飼ってた事あったしょ? 中学2年の時に死んじゃったけどさ......。その猫をスマホで見るために母さんが昔何台か買ったんだよ、覚えてない?」


「どういう事!? ていうかそんなモノがあったなんて私......」


「いやいや、昔結愛と二人でウチの猫が留守番してる映像を見た事あったろ。もしかして......ナニか・・・に夢中でそんな昔の事なんかアンインストールしちゃった? でもまぁもう俺と別れたって事だし、過去に俺ん家で結愛が映ってた映像が残ってたらそれは申し訳ないじゃん。だから確認しなきゃと思ってさ━━」


「え!? そ、それってまさか......今も映ってるの?」


「バッチリ! 空き巣被害に遭った時の証拠としての意味も込めてるからね。確か置いてあるのはリビングと母さんの寝室、あと......








 俺の部屋かな━━」


「「っ!!」」



 結愛は当然驚きのリアクションをするが、家のことは関係ないはず・・の桜庭も目を見開いてリアクションする。

 そこまで分かりやすいリアクションされると逆に面白いな━━。



「ん? たかがペットカメラの映像にそこまで驚いてどうしたんだ? それも二人お揃いでさ......。まさかM-1の予選に向けて今更夫婦漫才のネタ合わせでもやってんの?」


「い、いや別に......」


「だよねぇ、1回戦はとっくに終わってるもんね? さてさて今日は学校終わったらさっさと家に帰って確認しなきゃ。んじゃおやすみ」



 俺が再び机に伏せようとすると、何故か桜庭がそれを阻止して出しゃばってくる━━。



「お、おいちょっと待てよ元カレ君! それって盗撮じゃないのか!?」


「......は? と う さ つ ?」


「ああ! 盗撮だろ!? 勝手に人のこと映してるじゃないか!」


「はぁ? 何言ってんだお前? アイドルってのは頭ん中ポップコーンじゃないと務まらないのか? 自分の家の中を防犯目的で映すのに盗撮なんていう馬鹿がどこにいんの? あーっ!!!! ゴメンたった今居たわココにっ!」


「なんだと!? お前ぇっ!」


「バカのくせにイキリ立つなよ更年期か? ていうか一つ聞きたいんだけどさ、全くと言って良い程無関係の君が何故人んちに置いてあるペットカメラ如きにムキになってるんだ? 先ずはその理由を御教示願いたいね」


「そ、それは......」


「ん? なになに? なんですか? でもまぁ普通言葉にも詰まるわな、君はウチに来た事が無いはず・・のニンゲンなんだから。でもそんな部外者が人の話にいちいちツッコミ入れるのやめてくれる? 俺は別に君を雛壇芸人としてここに呼んでバラエティやってねーから。分かったらさっさとテメェの席に座っとけよバーカ」


「テメェ......」


「ていうかそもそもの話、事前にペットカメラの存在は元カノ・・・には伝えてあるし、それを忘れてる方が悪いじゃん。もっというと俺はそのカメラの前で人に見せられないような行為は一切してないよ? それでも二人は何か問題あるの?」



 俺は首を傾げると結愛は顔を真っ赤にし、流石に我慢できないのか口を開く━━。



「っ......で、でもゆずっ! それは気持ちの問題で!」


「ふーん、それなら尚更確認すべきだよね野上さん。俺にリベンジポルノをさせられる懸念を払拭するためにもお互いに映像を確認するのが一番だと思わない? なんならウチの母親やお宅の御両親も交えてさ。なにが映ってたら良いか悪いかしっかり取捨選択しないとね」


「し、取捨選択......それどういう事よ......!?」


「どういう事って例えば......









 家族以外の人間が人の家に他人を引き込んだ挙句お楽しみしてたり......とか?」


「っ......!」


「な、一体何言ってんだお前っ!?」



 二人は俺の発言に対して明らかに動揺し、目がめっちゃ泳いでいる。

 そしてクラスメイト達も俺の突然の下ネタに反応していた━━。



「え? お楽しみってどういう......」


「佐田、一体どうした!? もしかしてお前の家で何かあったのか? それが野上と桜庭に関係あるのか!?」


「さぁ? でも俺んちにただ置いてあるペットカメラに何故かこの二人がさっきから息ぴったりで突っかかってくるからさ......そうなると二人の間に何か秘密でもあるのかなって憶測せざるを得ないじゃんね? それも......俺んちの中で━━」


「ま、まぁ確かにな。そもそも佐田んちのカメラ云々を置いといても遊びに行った事のある野上はともかく、桜庭が参戦する意味がわからないな」


「だな、いくら後輩になるからって佐田と野上の関係に首突っ込み過ぎだし。それになんか分かんねーけど明らかに焦ってるよね......桜庭と野上は」


「あぁ......それに普通に考えて首突っ込むのはおかしいよな。しかも防犯目的なら野上だって焦る必要ないし、事前に伝えてあるなら尚更......」


「っ......!」


「だよな? しかも俺は家にそれがあると言っただけで映像はまだ見てないし、唯の・・憶測で言ってるだけなのに二人の態度はなーんかおかしいよね」


「だな、まるで二人が佐田が不在の時に部屋にいたみたいな態度だもんな......ってまさか? え、マジで!?」


「いやいや、流石にそんな昼ドラみたいな事は無いんじゃない!? わかんねーけど。でももし万が一そんな映像があったら普通にヤバいよねぇ。だって家の持ち主の許可無くソイツは勝手に上がり込んでるんだもん、刑法130条住居侵入罪で確実に牢屋へピーポー君だ。そして3年以下の懲役または10万円以下の罰金かぁ......刑務所という名のクローゼットで浮気相手共々世間から身を隠すハメになるかもな」


「お、お前ぇっ......!」


「え? なんか言いたい事あんの? ていうか桜庭君さぁ......さっきから君、妙に出しゃばったりキレたり狼狽えたり一人で情緒不安定だけどどうした? そもそも俺ん家の住所すら知らないはずの君がこの件になんの関係があんの?」


「そ、それは......」


「あっ! もしかして知名度振り翳して色んな所にしゃしゃり出るデリカシーゼロなキャラをクラス内で目指しちゃってんの? もうそれはフ○ちゃんだけで腹一杯だからあっち行けよ。予選敗退でーす」


「ふ、ふざけるなよ! 僕は無関係なんかじゃない! これから僕の事務所で有名になっていく結愛ちゃんがそんな目にあったら守るのは当然だろ!?」


「ほう? だがそれなら尚更デビュー前の時点で怪しい芽はしっかり消しゴムマジックしておくべきじゃないのか? もしかして事務所揃ってリスクヘッジが下手なんか?」


「っ......!」



 俺は席を立って桜庭に近づき耳元で呟く━━。



「なぁ......少しは落ち着けよ全身男性器。さっきから上からも下からも変なしるが出まくってるけど、アイドルってのはどいつもこいつも演技の下手さが売りなんか? でもまぁその下手な芝居以上に知られる訳にはいかないもんなぁ......





 







 ロケバスじゃなくて俺の部屋で結愛とテメェがジャン○ルポケットしてた事はさ━━」


「っ......! よ、よくもそんな言い掛かりで僕をおちょくって......!」


「おちょくり? おちょくってんのはテメェの方だろ? なら聞くが、テメェのそのイカ臭ぇ体臭が昨日結愛と俺の部屋から死ぬほど匂ってたのはどう説明すんだよ......?」


「匂い? なんの話......そ、そうか分かったぞ! 君はそうやって僕の匂いで家に入ったと勘違いして家の映像をカメラで撮ったと嘘をつき、結愛ちゃんの弱みを握ったフリをして彼女の気を引こうをしてるんだな? みんな騙されちゃいけない、この男はただ僕と結愛ちゃんを揶揄いたいだけなんだ!」



 引っかかったなコイツ......。

 『匂い』という俺が敢えて出したワードを勝手な解釈で結びつけてウチにカメラが無いって勝手に勘違いしてくれた。

 その方が俺にとっては好都合だ、それに今日の目的はとりあえずコイツと結愛を揺さぶってクラスの奴らに少しでも不信感を持たせる事だからな。


 証拠の映像は家でじっくりと確認作業してから然るべきタイミングで......。



「嘘のカメラ映像をネタにして元カノの気を引くね......なんとでも都合良く解釈すればいいさ。でもそう思うなら俺の与太話に何故分かりやすいほど動揺してたんだ? まさか本当にロケバスで共演者にお前......」


「ふ、ふざけるな! さっきも言ったが僕は結愛ちゃんとはただのクラスメイトであり後輩だ! だから今までもそして今後もなんの関係もない!」


「そう、なら良かった。人気者のアイドルが不法侵入してまでそんな事をヤッてるなんてバレたら、一瞬で吉本○業から契約解除されてそれこそトリオからコンビになっちゃうもんな。まぁ精々ゴシップに怯えながら駅前の・・・カラオケ屋で歌の練習しながらさっさとスターダムにのし上がってくれ」


「ふん......何かと思えば僕に嫉妬する元カレ君が応援か? 笑わせる!」

 

「ああ今のうちにその馬鹿面で笑っとけ、俺はな......














 お前みたいなゴミを一番高い所から突き落とすのが大好き・・・なんだよ」


「っ......!」


「どうした顔色悪いぞ? 女の子の日か? なら保健室からナプキン貰ってこいよ」



 俺は顔がみるみる青くなる桜庭を横目に再び自分の席へと座る。


 今のうちにスター生活を楽しんでおけ......お前らが俺を蹴落とす度、お前らが有名人として高い場所へ登って行く度に自らの足で地獄へと一歩一歩確実に近づいて行くんだからな━━。

 


「あ、野上さんも今までありがとうございました。これからはそこで顔色が悪くなってるお坊ちゃんと充実した高校生活と芸能生活の幕開けですね。色々楽しみですな━━」


「なっ......」



 桜庭と野上結愛は俺に何も言えず絶句するが、何も知らないクラスメイトの女達は結愛や桜庭に励ましの言葉を掛けまくる。



「どうせこの陰キャの僻みだよ結愛、カメラの件だって桜庭君の言った通り嘘に決まってるじゃん。私達はアンタの味方だから気にしない方がいいよ」


「あ、ありがとう。でも......」


「そうそう、こうやって結愛が桜庭君と仲良くなったのが許せないんだって。でも仕方ないよ桜庭君の方が全てにおいて上なんだから。結局自分に何もないコイツは適当な脅しを並べて結愛を縛りたいだけだよ」


「そうかな......でも私別れるって話はまだ終わって━━」


「でもさ、それならなんでコイツ別れ話に即答でOKしたのかな? 意味わかんなくない?」


「意味っていうかもしかしてドッキリかなんかだと思ったんじゃない? もしそうならウケるんですけど!」


「ぷぷっ! それかわいそー! でも実際マジで別れてるからね。ていうか昨日来た雪瓜先輩も......もしかしたら先輩達が仕組んだドッキリなんじゃない?」


「そうかも! 他学年でも有名な結愛と付き合ってたスッポンが突如現れた先輩に一回だけ会って捨てられる的な? それヤバいわー、TikTakで見たいわー」


「見たい見たい! ていうか今はあんなに強がってるけど絶対結愛の事が恋しくなって戻ってくるから! そうなったら思いっきりコイツをけちょんけちょんにしてやろうよ!」



 一部のクラスの女子達は俺の話を信じず俺への暴言や言い掛かり、天先輩に関するデマの話を続ける。

 しかし隠しきれない程の動揺をさっき俺に晒された二人への不信感はソイツら以外にはちゃんとあったようで次々と俺の元にやってきた━━。



「佐田......さっきの態度で俺達はアイツら二人がお前に対してやましい事が何かあるって確信したよ。だから桜庭や野上の取り巻き女子が向こうを味方しようが、俺達やここに居る女子はお前の味方だからな」


「ありがとう。突然別れ話と公開処刑されて心が痛い嘘今の俺にはグッと来るよ......」


「礼には及ばないよ佐田君。明らかにあの態度はおかしいし、2人してハナから佐田君を陥れようとしてるのが伝わってきたもん、それに私......桜庭君かなり苦手だし。ていうかアレ完全に裏で二人デキてるよね?」


「その可能性高いよなぁ。そもそも桜庭って表面は愛想良いけど裏ではカーストによって態度変えるからな......男子はともかく野上みたいなカースト上位以外の一部女子からも実はあんまり評判良くないんだよ」


「そうそう。だから野上と別れた今は辛いだろうけど代わりに俺達が居るからさ、野上と仲良い女子以外はお前が日頃から優しくて良いヤツだって分かってるから」


「だね、それじゃなきゃ僕だってあの日カツアゲから助けてもらってないし......。まぁ見事にボコボコにされてたけど」


「ボコボコにされた件まで言わなくて良いんだよ藍原。結果俺かっこ悪いヤツになってるじゃん」


「はははっ! ごめんごめん。でもあの時カッコよかったから......えへへ」


「佐田ぁ......お前彼女に振られたからって雪瓜先輩だけじゃなくこのクラスの癒しである男の娘を惚れさすなよ」


「待てっ! 俺は全く惚れさせてねーよ!」


「ちょ、ちょっと近藤君!」


「がははは! 冗談だよ二人とも! まぁ佐田よ、今やお前は俺と同じお別連合おわかれんごうの同志だ! 仲良く行こうぜ!」


「なんか無性に嫌な同志だ......」


「【悲報】佐田イッチ君、惚れていた幼馴染に振られる」


「まとめニュースみたいに言わなくて良いんだよ殺すぞ」


「簡単に殺人予告されて草」



 こんな感じで俺が味方してくれる数少ないクラスメイトと話してる間に誰かが他クラスに漏らしたようで、その後陰キャな俺と学校でもかなり有名な結愛が完全に別れたと言う話は瞬く間に他のクラスや学年にも伝わり、いろんな噂が飛び交い始めた。



「佐田ぁぁぁ......やってやる......! どんな手を使ってもアイツの人生を台無しにしてやる! そうだ......まずあの手を使おう━━」

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