第18話 公開処刑される俺


 俺が寝ていると何やら周りが騒がしい。

 クラスメイトの連中がもう登校してきたのか? 知らぬ間に俺は結構寝てたのか......。


 俺は眠い目を擦りながら開けると......。



「おはよう、ゆず」


「ああ、おは━━」


「よぉ、優しいだけが取り柄の彼氏くん」



 俺の席の前に立っていたのは神妙な面持ちの結愛と、ドヤ顔を決め込む間男だった。

 そしてそれを食い入るように周りのクラスメイトも見つめている━━。

 


「はぁ......二人お揃いでどうした? まさか俺に所信表明演説でもするのか?」


「表明ね......まぁ君の彼女にとってはそうかもな。結愛ちゃん、さっさとコイツに言ってやりなよ」


「そうよ結愛。そんな奴に遠慮する必要なんてないからもう言っちゃいなよ、最近ずっと悩んでたんでしょ?」


「ほんとそれ、結愛をこんなに縛り付けてるなんてコイツ男として最低━━」



 まーた結愛の竿と犬笛が吠え出したか......そしてその当事者はやっぱり悲劇のヒロインぶってるし。マジで全員この場で殺してやろうかな━━。



「ゆず......私の話聞いてくれる?」


「なに?」


「ゆずはさ......最近私に冷たいじゃん? 昨日だって結局天先輩と遊んでたしさ」


「またその話かよ。ていうかそっちだって"自称お友達"と遊んでんじゃん、それと何が違うの? そもそもお前と違って俺は昨日だけしか遊んでないしな」


「いいから黙って私の話をまず聞いて。私はね、ゆずから前みたいに私への愛情を感じられないの」


「ふーん」


「それでさ、私にとってゆずは大切な人だけどゆずにとっては私がいて当たり前なのかなって不安で......。やっぱり幼馴染からの恋愛関係って難しいんだなって思うことが増えたんだよね」


「へー」



 桜庭含めクラスの女子やこの前味方してくれなかった一部の男子は俺に敵意むき出しの目だ......そろそろ来るぞ。



「でもそんなことばっかり考えてると胸が苦しくて凄く辛くて......こんな思いしたまま学校生活を過ごしたく無いって思うようになっちゃって。だから......ゆずがこれ以上冷たい態度をとるなら私達もう別れた方が良いのかと思っt━━」


「OKりょーかい、さよなら」


「......え?」


「突然改まるから一体どんな話かと思った。じゃあ俺寝るから二度とくだらない事で話しかけてくんなよ」


「ちょっと待って! そんな軽い返事は━━」


「は? 軽い返事? 自分から振っておいて何ほざいてんだ? まさか俺の返事にそちらは計画の狂いでもあったのか?」


「け、計画ってなんの話よ......」



 俺にはとっくに分かっていた......結愛の顔色で別れ話をしようとしていることを。

 そしてコレは恐らく桜庭の入れ知恵で、結愛の方が神妙な顔で居ればこのクラスの半数以上が結愛の味方になり、そこまで彼女を悩ませて苦しめている俺はご覧の通り悪者になるだろう考えいる事も。

 そして結愛の方は俺に別れ話をした時、俺が結愛に泣いて縋りその醜態を周りに晒し『女々しくて情けない惨めな男』や『そんなだから振られて当然』と周りに認識させ、自分は優位な立場と俺に再認識させた上で仮に浮気がバレてもこんな男なら浮気したくなると思わせようとしていた事も━━。


 だからそれらに対し一つ一つ丁寧に手口を潰すため、俺は別れ話をあっさり受け入れて再び机に伏せる。


 だがそれを桜庭よりも前にクラスの女たちが怒鳴り声をあげて阻止した━━。



「ちょっと佐田! アンタそれでも彼氏なの!? 結愛がせっかく一生懸命アンタに本音を暴露したのにさぁ! その態度はなくない!?」


「まさかたった一言でこんな大事な話を済ませる気!? 結愛に対して申し訳ないとか思わないの!?」


「ほんと最っ低! 陰キャってだから嫌なんだよ。結愛を不幸にさせた事をまず詫びるのが筋なんじゃない?」


「結愛みたいなハイスペック女子と付き合ってるだけの地味なブ男のくせに調子乗りすぎだから!」



 女子達は次々に俺を責め立てるが、それを聞いていた一部の男子がなぜか俺より先に立ち上がって俺を擁護し始める━━。



「いや待てよ。そもそも佐田と結愛の関係に外野の俺たちがいちいち口を突っ込む必要あるか? なぁ藍原」


「うん、僕もそう思うよ。悪いけどこの件は佐田が一方的に悪いとはとても思えないし、ちゃんとした真相がわからない限り僕らは佐田の味方だ」


「だよな。朝からいきなり彼女が勝ち誇った顔しながらこんな酷い話された佐田の方が可哀想だよ」


「それな。ていうかギャラリーのお前らは陰キャが可愛い子と付き合ったら全て我慢して言う通りにしなきゃちゃいけないのか? それこそ差別だろ。ていうか佐田は悪いヤツじゃねぇし、お前ら全員佐田の顔をイジれるほどいい顔してねぇっての」


「はぁ!? これだから男子は━━。とりあえず佐田は結愛に今までのことを謝りなよ!」



 おうおう男子以外は好き勝手言いなさる、まるでA級戦犯扱いだな俺は━━。



「はぁ......このクラスのコラムニスト達はいちいち人のゴシップに絡んでくるのか。ていうか謝るってなに? 振った相手に一体何を謝るの? 別れよう、了解。終了じゃん」


「アンタおちょくってるの!? 結愛はアンタの無責任な行動にいっぱい傷ついてるんだよ!? 男なんだから理解しなさいよ!」


「なんで傷ついてるのが結愛だけだと思うんだ? 推しだかセフレだか知らないがソイツに唆されただけでこんな人様の前で別れ話をネチネチ街頭演説するか? 中世ヨーロッパの娯楽みたいにカースト底辺の俺を只々公開処刑したいだけだろうが。その上お前らみたいな結愛の"選挙カー"が拡声器持って爆音で後援活動してるし、耳の鼓膜含めて色々傷ついたのは俺の方だよ。モブの癖に昨日からうるせぇんだよお前ら」


「はぁ!? 真剣な話に簡単な返事された結愛の方が傷ついたに決まってるでしょ! 陰キャの癖に平然としたフリしちゃってさぁ......本当は別れ話に内心ビビり散らかしてる癖に何偉そうなこと言ってんの!?」


「はっ......どうせ俺が情けない哀れな姿で結愛に泣きじゃくって醜態を晒すのを嘲笑ってやろうとお前らは思ってたんだろ? 残念だったな、俺がこんな奴にむざむざと縋るワケねーだろ。彼氏や旦那のステータスというデッキでしかマウント取る事が出来ない頭メンヘラちゃんなお前らと一緒にすんなよ」


「なんですって!?」


「そもそもの話、最近冷たいのはアッチの方だろ? 俺は何度も一緒に帰ろうって誘って断られてたぞ? なぁ藍原」


「うん、僕はちゃんと聞いてたよ。昨日だって野上さんを佐田が誘ってたけど断られて、その後雪瓜先輩が来たもんね。近藤君もそれ知ってるよね?」


「確かにそうだったわ! てかこの間も友達がどうとかで断られてたよな佐田の奴。それで寂しいは無いわー、ていうか浮気した元カノも言ってたなソレ」


「だよな。俺ら友達から見ても佐田は野上にこれでもかって程尽くしてたしそれで不満ってヤバいだろ......」


「そ、そんなっ! 私はただ!」


「なぁ結愛。本当に寂しいのは俺とお前......一体どっちなんだろうな━━」


「っ......!」



 結愛は自分の言ったセリフにまさか苦しめられるとは思ってなかったらしく、藍原や他の男子の追随に碌な反論する事ができなかった。


 こんな事も事前に想定して、連日敢えてみんなの前で聞こえるように帰りを誘っておいて良かったー。



「ちょっと待って! こんな大人数で女の子を吊し上げるなんてアンタ男として酷くない!? 何考えてんの!?」


「はぁ? こんな大人数の前でまず先に俺を晒したのはそっちなのに酷くない? 何考えてんの? まさか高校生にもなってそんなダブルスタンダードが通用すると思ってるとかマジで頭ツイフェミかよ。もう悪い事言わないから国語と道徳を小学校からやり直してきな、お前らのレベルでお話してるとこっちまで偏差値が下がる」


「佐田お前めっちゃ言うやん! やめろってwwww」


「そんな事ないさ。IQが20違うと話通じないらしいから今の簡単な会話すら伝わって無いと思うしな」


「ははははっ! それ聞いた事あるわ! てか佐田の返す刀強すぎて笑うわ」


「はぁ!? ちょっとマジで話にならないから! こんな奴本当別れて正解だよ。ねっ? 結愛!」


「待ってよ! 私まだ完全に別れるなんて━━」


「そうそう、なんと言おうと全て解決だな結愛ちゃん」



 桜庭はここぞとばかりに横から乱入してきた━━。



「これで結愛ちゃんは心置きなく僕の所属する芸能事務所に入所できるね」


「えっ!? 私そんな話聞いてないけど!?」



 桜庭はまるで夢でも語ってるかのような眼差しで結愛に説明するが、当の結愛はその話にイマイチついて行けてないようだった━━。



「ごめんね、実は結愛ちゃんの事を話して写真見せたら社長が気に入っちゃってさ。これから君も僕と同じメディアの舞台にすぐ立てるんだよ!? すごいと思わない?」


「ちょっと待ってよ、誘ってもらえるのは嬉しいんだけどアイドルとかそういうのは親にも話さないといけないし......」


「大丈夫だよ! もう恋愛リアリティショーの出演は僕と一緒のタイミングで結愛ちゃん宛にもオファーが来てるから。入所してすぐテレビに出れる存在はなかなか居ないし、親御さんも絶対喜ぶと思うよ」



 このタイミングで事務所が絡んでくるのか......もしかすると結愛を俺から寝取った裏には何かあるのかもな、例えば事務所所属を隠れ蓑に水面下で関係を持ったまま事務所に守ってもらうとか......。

 腐っても桜庭はアイドルだ、交際がバレるだけでもファンが離れる可能性があるのに略奪がバレたとなればダメージはデカい。ならば同じ事務所に所属させ、レッスンやら何やらで一緒に行動できる大義名分が出来れば校内外で堂々とイチャつけるわけだ。


 まぁ事務所がそこまで出てくるとなると他に何か理由があるのかもしれないが......。


 しかし結愛は突然の告白に戸惑っているな......ここは元彼の俺がナイスアシストしてやらないと━━。



「おお!? そうかそうか、もうそんな話が進行していたとは......そうなら俺と別れて大正解だね! 良かったじゃん結愛! さっきまで存在感ゼロでそこに突っ立ってた推しのイケメンとようやく正々堂々ロケバスの中でもイチャつけるってもんだ!」



 俺の言葉に結愛は少ししどろもどろになり、慌てて言葉を発する━━。



「え? な、なに言ってるのゆず? なんの話!?」


「ふっ......まさか君は僕と結愛ちゃんがデキてると思ってるのか? 君みたいなただの一般人相手に彼女を寝取るなんて見当違いも甚だしいぞ」


「えぇーっ!? 違うのかい!?」


「違うに決まってるだろう? 彼女とはまだ仲の良い友達だ」



 まだって......俺をとことん陥れたいならもう少し口には気をつけろよ桜庭━━。



「へぇ......お友達って色々な解釈が出来るから便利な言葉だよな。まぁ俺にはもう関係無い事だしどうでもいいよ」


「おっ? 負け惜しみ? 別れた幼馴染がスターダムにのし上がっていく姿を見るのがそんなに悔しいのか? でも残念、逃した魚はデカかったな元カレくん......」


「確かに魚にしちゃあサイズも喘ぎ声もデカいもんな2匹とも。さぁて......俺はそんなスターダムに登っていく幼馴染に迷惑を掛けないよう家の中に防犯目的として置いてある"ペットカメラ"のデータ整理をしないといけないな」


「「......ペットカメラ?」」



 二人は碇シ○ジ君よりも高いシンクロ率で同じ言葉を口にする。

 だが急遽予定変更だ、結愛が芸能人になってそのリアリティショーとやらに出演するとなれば晒すのはまだ早い......。

 でも言われっぱなしはムカつくから言いたい事は涙目になるまで言ってやろう━━。

 

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