第6話 血を受け継ぎし者
再び意識を取り戻し始めた時、俺の後頭部に何やら柔らかいものを感じる━━。
さっき倒れた時とは違う頭の温もり、そして閉じた瞳からうっすら感じる淡い光と影......。
俺はその光を掴もうと手を伸ばすと━━。
むにゅん......。
「んっ......///」
「へ......?」
マシュマロのような柔らかい何かを手のひらに感じた瞬間俺を覆っていた影が動く。
そしてその影を追うようにゆっくりと目を開けると━━、
「お、おおおお前ぇ! わわわ我の体に何をする......!」
視界を大きく塞いだ影の横から覗かせたのは、顔を真っ赤にしているがこの世のものとは思えないほどに整った白髪の美女だった。
その出立ちと赤く輝く美しい瞳は神々しさを感じるほど神秘的な人に見える━━。
「あ......」
「いいから早よ離さんかっ!」
俺は今触っている
「すすすみません! まさか俺の視界にまさかそんなどデカいミルタンクがぶら下がってると思わなくて.....!」
確かに服の上からでもハッキリと形が分かり、服がはち切れそうになっているデカさだった......。
そんなモノをぶら下げながらも膝枕をしてくれていた女性にセクハラをしてしまった俺は、警察に捕まると思い飛び起きる━━。
「全く......思ったより元気だな童。今の気分はどうだ?」
まるで赤子を宥めるような口調で俺に問いかける巨乳美女は俺のことを優しい眼差しで見つめ、その吸い込まれそうな瞳に思わず目を背ける━━。
「気分は......悪くないです。それより今のこと警察に言います......よね? 俺終わったー.....」
「ケイサツ? なぜ我がそんなものに言わなければいかんのだ?」
「だって今.....貴女のその......牛乳パック触って堪能しちゃいましたし」
「ふふ......その程度で呼ぶわけないだろう? 確かに久しぶりに触られて少々恥ずかしかったが......」
「ほんっとすみませんでした! 今後は気をつけ━━」
いや待てよ......俺はさっき刺されてぶっ倒れたはず......。
俺は刺された部分に手を当てるが血はおろか傷口一つ無く、そもそも今居る場所もさっきの路地裏ではなくよくわからないお城の広間のような空間だった━━。
「そうそう、傷ならもう塞がっておるぞ。死にかけていたお前を助けるため我が力を与えたからな━━」
「力......? 一体どういうことですか......!?」
「いや、正確には”力”ではなく”血”だな。お前はこの世に二人と存在しない最強の我と同じ種族になったのだ!」
種族? 一体この人は何を言ってるんだ......?
「すみませんお姉さん。ハッパ吸ってキマってるとこ失礼ですが、ここはゴッ○ムシティでも異世界ファンタジーでもなく日本ですよ。種族って言われても俺はただの日本人でしか━━」
「そうではない、お前はこの世界最初にして最後の吸血鬼......アルファ・ヴァンパイアである最強の我、《ミラ》と同じ存在になった。もっと言うならばお前はアルファ・バンパイアから唯一受け継ぎし最後の吸血鬼......オメガ・ヴァンパイアだな」
「.....はい?」
頭の中がはてなマークでいっぱいになる。
吸血鬼ってなんだ? まさか小説とか海外ドラマでよく出てくるアレか? 無駄に処女っぼい主人公が牙生やした
「そんなバカな......だってトワイ○イトはアメリカの恋愛ドラマであって清楚系グラビアアイドルに清楚なヤツが存在しないのと同様所詮はフィクション、ファンタジーなんですよ」
「いいや、紛れも無い現実だ。その証拠にお前に致命傷を与えた傷口が完全に塞がってるであろう?」
「っ......!」
確かに傷一つない体を再び見ると彼女の言っていることを信じざるを得ない。
でもそんなことが本当に......。
「......信じたいのはやまやまですけど、そんな凄い人が何故俺を助けたんですか? 特に取り柄もないただの高校生ですよ?」
そうだ、こんな俺と一度も接点の無い彼女に命を助けてくれる理由なんてどこにも無いんだ━━。
「いいや、お前にはたった一つ取り柄があった......それは我の血と適合したからだ!」
「適合......?」
「ああ、我は数千年ソレを探していた......。相性が良さそうな男のニンゲンに幾度となく同種になれるか試したよ......だが結果は皆失敗だった。そんな中やっと見つけたのだ、お前という唯一無二の宝を!」
「そうですか......でもそれって人間を使って実験をしていたってわけですよね? 見た目は良いのに悪い人だなぁ」
「そうではない......適合しない者は我の血を受けても何一つ変化しないのだ。まぁ数億人に一人拒絶反応を起こして死んだ者もいたが、適合する者は今まで何百何千億というニンゲンを見てきた中でお前ただ一人だ」
俺がこの世界で選ばれたただ一人......。
にわかには信じられない発言に俺は一瞬思考を深めることができなかった。
「どうだ.....我の凄さがわかったろう?」
「はい.....まだ信じられませんけど......。でも吸血鬼ってデメリットもありますよね? 例えば十字架とにんにくが苦手とか太陽浴びると死ぬとか━━」
「はぁ? ふふ......はっはっはっはっ!」
俺の発言をバカにしたように声を上げると彼女は大笑いを始め、目から出た笑い涙を指で拭いていた━━。
「そんなもの苦手なわけないだろう、一体どんな文献を見てきたんだ? 我はこの通り不死身で最強だ。その気になればこんな惑星一瞬で滅ぼせる......まぁそんなを事すれば我の好物がこの星から消えるからしないがな。だから例え首を刎ねられようが、核爆弾を直接落とされようが......宮本アキラやTANJIROWがこの世に存在しようが我を殺すことは出来ない━━」
「え? ヴァンパイアなのに彼◯島と鬼滅◯刃読んでるんすか......」
「まぁな。最近で言えば......しかのこのこ◯ここしたんたんを見たぞ?」
「ヴァンパイアなのに深夜アニメ見るんすか......」
「もちろん、それよりお前が知りたがっていたデメリットを教えてやる。それは人間の血を吸っていく内に......特定のニンゲン以外"エサ"にしか見えなくなる━━」
「......エサ!?」
「ああ、お前の場合相性の良い"女"のニンゲン以外エサにしか見えなくなる。なんせ我らは吸血鬼だからな......ニンゲンなんぞただの歩くエサだと認識してしまう。お前だって目の前に置かれた高級ステーキに恋愛感情を抱く事なんてないだろう? だが例外もある。相性の良いニンゲンだとちゃんとその者をしっかりと見る事が出来るんだ......気に入ればその者との子供を作ったりな」
「なるほど......でもその子供って━━」
「安心しろ、子供にこの血は受け継がれん。我の力を受け継ぐのは血を身体に直接取り込んで適合したニンゲンだけだ」
てことはもしかすると結愛との相性が悪ければ結愛を美味そうなエサにしか見えなくなってしまうのか━━。
「それと......相性の良いニンゲンの血を身体に取り込むと普通のニンゲンの血を取り込んだ時より数倍の力を得る上、
満腹の時間も伸びる。ちなみに吸われた方、特にお前の場合は女だな......ソイツは相性関係なくオーガズムに似たような快感を得る。そうするとますます我らから離れられなくなるワケだ......いやはや世の中というのは上手く出来てるものだな━━」
オーガズム......なんかエッチなサイトで見たことがある単語だ......。
「でも今の世の中そんな事したらネットに晒されて大炎上した後に逮捕ですって。リスクが大きすぎる......」
「そうだ、15世紀位の頃はただの御伽話で片付けることが出来たが今は違うからな。だからニンゲンを片っ端から吸うのではなく、ちゃんと吸うべき相手を見極めろ」
「そうですか......他には何か気をつけなければいけない事がありますか?」
「そうだな......吸うための牙は普段隠れているが、血を摂取したい時には自動的に伸びてくる。それとニンゲンの血を吸い続けるとニンゲンには途轍もなく魅力的に映るようになるそうだ。おそらく吸った事によりエサを誘き出すように身体が特化し、そう見えるのであろう。特に異性には神々しさを感じさせるほどの男に見えるはずだ、それはお前の母親や姉妹であっても関係無くな━━」
「嘘だろ......」
てことは最悪ウチのオカンも俺のフェロモンにアテられる可能性があるのか......いやいや最悪な副作用じゃねぇか! 気持ち悪っ!
「嘘ではない。我の血を取り込んだ瞬間、お前はお前を産んだ女と完全に血のつながりが絶たれた存在になったからな。それからヴァンパイアになりたてのお前は定期的に血を吸わないと本能が暴走して誰ふり構わず襲ってしまうからそこだけは気をつけろ」
「えぇ......。それが一番最悪のデメリットじゃん......」
はぁ......よく分からんが俺はこれから本当にヴァンパイアとして生きていくのか。
まだいまいち想像つかないけど結愛の推しに結愛を寝取られた惨めなこの生活を変えられるかもしれないな━━。
「とりあえず俺これから頑張ります。助けてもらった命を無駄にはしません」
「その意気だ。そういえば血を受け継がせた瞬間お前の記憶を少し見たが少し同情したぞ......あいつらはエサにするなり寝取り返して奴隷にするなり好きにしろ」
「まぁ、色々考えます」
「ああ。それから血が繋がった我はお前の母でありお前の姉だ、我は常にお前を感じることが出来る。何かあれば我はお前の力になるぞ」
「わかりました。最後に一つ聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「ミラさんはどうして同種を増やしたかったのですか?」
「それは......」
俺の質問にミラさんの顔が一瞬曇るが、そのあとすぐに全てを包み込むような優しい笑顔になる━━。
「なんというか......血が繋がった存在というものが欲しかったからかな。我には家族が居たことがない......それはすなわち孤独だ。だからお前という存在ができて今の我の胸はポカポカと暖かいのだ......」
この人が放つ優しいオーラはなんだろう.....恋愛感情とは別にこの笑顔を見てるとこっちまで心が━━。
「じゃあ......今度からは気軽に遊びにきますねミラさん。この場所がどこかわからないですけど」
「大丈夫、この場所はお前の意識と繋がっている。来ようと思えばお前ならいつでも来れるぞ」
「わかりました。じゃあ頑張ってきます」
「ああ。そうだ一つ言い忘れてた......一気に血を吸いすぎるとニンゲンは簡単に死ぬからそれだけは気をつけろ。ではお前が倒れていた現場にお前を戻そう━━」
ミラさんの手から眩い光が放たれると俺は目を閉じて意識を手放した。
「またな......悠月━━」
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