親友の墓前、菊の花 ― 田中 太郎の墓

 鈴木正人は、静かな墓地に足を運んだ。夕焼けの陽射しが優しく降り注ぎ、風が心地よく吹き抜ける中、彼は幼馴染の田中太郎の墓前に立った。墓石には、彼の名前が刻まれている。正人は、その前にひざまずき、手を合わせた。


「太郎、久しぶりだな」静かな墓地に、彼の声が静かに響き渡った。


 田中太郎は、いつも優しく、正人のオカルト趣味にも付き合ってくれる心の友だった。正人にとってはかけがえのない存在だった。しかし、運命のいたずらか、最初の呪印による災いに巻き込まれ、太郎は命を落としてしまった。彼の死は、正人の心に深い穴を開けることとなった。


「俺ももうすぐそっちに行くぞ」正人はつぶやいた。心の中で、彼の存在を感じながら、涙が頬をつたった。「ダメみたいだ。みんなには隠していたが、呪印が赤いままなんだ。俺はたぶん助からない」


 その言葉と共に、正人の心にこみ上げる感情があった。田中が呪印の犠牲になった時、正人は悲しみを感じた一方で、彼の呪印が自分に引き継がれたことに、どこか嬉しさを覚えていた。だが、今、その呪印が赤く痛む現実を前にして、彼はただ涙を流すしかなかった。


「お前に生き返ってほしかったんだけどな」正人は悲しそうに笑った。


「まぁ、オカルトチャンネルやっている以上、長生きはできないと思っていたさ」彼は墓石に手を添え、涙を拭う。「でも、いざ死ぬってなると、怖いもんだな…虫のいい話かもしれないが、なんで俺が、とか、あのときこうしていれば、なんて考えてしまう。悲しくて、寂しくて、悔しい」


 正人の心の中で、田中の笑顔が浮かんでは消え、彼の存在の大きさを痛感する。「でも、もうどうにもならないんだな…」言葉が喉に引っかかり、再び涙があふれた。供えた菊の花が夕陽に照らされ、柔らかな光を浴びている。その花を見つめながら、彼は幼い頃の親友との思い出を辿る。裏山に秘密基地を作り、遅くまで遊びまわった日々が、懐かしく蘇ってくる。


「お前のそばに行けるってだけが心の支えだ。これからもよろしくな」


 正人はゆっくりと立ち上がり、再び田中の墓に目を向けた。そのとき、夕陽が強く差し込み、墓石に反射して正人の目を眩ませた。まるで「よろしく」と言われているような気がした。


「またな」


 彼は静かにそう告げ、墓地を後にした。

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