毬栗の香り ― 甲賀 正広
鈴木正人は自転車を漕ぎながら、かつて怪異に襲われた場所であるコンビニの前に立ち止まった。静かな街並みの中で、その店は今も変わらず存在している。恐怖の記憶が蘇り、彼の背筋に少し身震いが走った。
そのまま走り去ろうとした瞬間、視線の先に見慣れた姿が映った。甲賀正弘、18歳の男子高校生で、地元のヤンキー。カジュアルな服装を身にまとい、コンビニの一角に座っている彼は、腕を組み、少し不機嫌そうに周囲を見回していた。しかし、目が合うと彼はすぐに笑顔を見せた。
「おぅ、鈴木のおっさん!」正弘が声を上げる。
「おぅ、甲賀くん。今日もサボりか?」正人は笑いながら応じた。
「ああ?何か文句あんのか」すぐに憎まれ口を叩くのが彼らしい。
正人は冗談めかして続けた。「そんなこと言ってると、また妹のみどりちゃんから心配されるんじゃないか?」
正弘はハッとした表情を浮かべ、「そうなんだよ。ご飯食べてるかとか、元気でやってるかとか、最近は母さんみたいなことを言いやがる」と苦笑いした。ただ、その表情には、まんざらでもない様子が見て取れた。
正人は鞄から木でできたミニ植物鉢を取り出す。「これ、みどりちゃんにどうかな?可愛いと思うし、喜ぶんじゃないか?」
正弘は目を輝かせて鉢を見つめる。「いいのか?くれるって言うならもらってやる。ありがとな!」と、嬉しそうに受け取った。
その様子が可愛くて、ついからかってしまう。「ふたりで仲良くな、お兄ちゃん」正人はにやりとしながら言った。
正弘はその言葉に少し照れくさそうに笑い、「んだと、この…くそっ、次に怪異にあった時には後ろに気を付けるんだな…!」と脅すように言った。
「おぉ、こわい!」正人は笑いながら、手を上げてその場を離れようとした。「またな、甲賀くん!」
彼は自転車に乗り込み、ペダルを漕ぎ出した。正弘の声が背後から響く。「おい、逃げるなよ、鈴木のおっさん!」
正人は振り返り、笑顔を浮かべながら手を振った。どうか二人がこれからも無事であってほしいと祈りながら、雲一つない綺麗な秋晴れの空を見上げた。心に温かい思いを抱きつつ、彼は自転車を進めていった。
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