第三編
裏切り家庭教師にざまぁ
――かわってないな。
いま、目の前にいる
「
「リストラされたらしいな。しかも、なまじ高学歴なせいでプライドが邪魔をして再就職もできないまま。いまでは自棄になって、酒を飲んではギャンブルの生活だって?」
「……ええ」
と、
「それで? おれになんの用だ? 高卒で、田舎暮らしで、妻とふたり、家族経営の出版社を細々と営んでいるだけのおれ、負け犬人生のこのおれに」
「負け犬なんて。そんなこと言わなくても……」
そういう
「へえ。あんたがそんなことを言うなんてな。学歴にこだわったのはあんただろう」
「それは……」
「あんたがおれと
「……ええ」
「だが、あんたはおれを捨てた。おれが結局、大学に行かず、田舎で起業する道を選んだ途端、あんたはおれから離れていった。一流大学に入った
「それは……」
「それは?」
「
「
「ええ。あなたの出版社は規模は小さいけど業績は堅調だって聞いているわ。たしかに、
「おれに、そのきっかけになってほしいと?」
「ええ。
「断る」
「
「『
「それは……」
「あんたはどうか知らないが、おれは忘れてないぞ。あんたがおれを捨てたあのとき、言った言葉を」
その言葉とともに、怒りと恨みのこもった視線を投げかけられ――。
それはすべて、いま、
「おれは小さい頃から児童ファンタジー文学が好きだった。様々な世界を空想のなかで旅することで多くのことを学んだ。成長できた。少なくとも、おれはそう思っていた。だから、これから生まれてくる子どもたちにも多くのファンタジー世界で旅してもらいたい。そう願った。だからこそ、自分の吟味したファンタジーを子どもたちに届けられるようひとり出版社をはじめることにした。そして、あんたに言ったんだ。
『一緒に来てほしい』
ってな。そうさ。まだ高校生だったけど、本気のプロポーズだった。それに対して、あんたは言ったんだ。『夢ばかり見ている子どもとは結婚できない』ってな」
「それは……」
「言い訳はいい。あんたはたしかにそう言ったんだ。そして、一流大学に進んだ
「いまはどうだ? あんたの言った『夢ばかり見ている子ども』は立派に出版社を経営している。稼げているわけではないが、経営は堅実だ。あんたが夫を雇ってほしいと頼みに来る程度にはな。『この本を出版してくれてありがとう』という読者からの反応ももらえている」
「
「そして、大学、会社とブランドに頼って人生を渡ろうとした
そして、
その後ろ姿を気遣わしげに見送っていた妻の
「いいの? あの人、あなたの初恋の
「ああ」
と、
「だけど、もうどうでもいいことさ。かの
「
「
「そんな。あたしはただ、あなたの情熱に惹かれて手伝っていただけで……」
「そんな君を、おれは愛しているんだ。君だけを愛すると決めているんだ。他の女のことを気に懸けたりはしない」
「
そう呟く
「さあ! そんなことより、仕事に戻ろう。続編を楽しみにしている子どもたちが大勢いるんだ。子どもたちに思いきりファンタジー世界を冒険してもらいたい。その思いではじめた、ふたり出版社だ。ここで手を休めてはいられないぞ」
「……ええ」
そして、ふたりは手をつなぎ、よりそうように仕事場に戻った。その途中、
「それから、その……」
「なに?」
尋ねる
「……そろそろ、子どももほしいかなあって」
言われて、
「……バカ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます