第16話 限界フェアリー

今回、修正前の第15話を見ていた方は置いてけぼりになる可能性があるのでご注意下さい

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「まずは遊んであげる」


 俺は一つの魔法陣を作り出し、無数の氷の針を出現させ、獣へと放つ。

 回避する空間が狭い閉所の中で、およそ音速に達する勢いの氷の針が迫るのだが、獣はそれを音速以上のスピードを出して回避する。

 遊んであげるって言っておいて正解だったわ……これ攻撃当たんのか?


「ガウッ!!」


 攻撃の後隙を狙い、獣は俺に噛みつこうと先ほどのスピードで迫ってくる。

 俺は全動体視力を活かしてその攻撃を捉え、歯が当たるかどうかという寸前で回避をした。


「あら、獣なのに遅いわね」

「ガウッッ!!」


 またもや獣は俺に噛みつこうと接近するが、俺はおんなじ要領で回避してみせる。


「ガウッッッ!!」

「あら、また同じ攻撃かしら?」


 獣は諦めないのか、何度も同じような攻撃を繰り返し、俺に一撃を加えようとする。

 当然、俺は同じように回避し続ける。


「ワンパターンすぎてつまらないわね」


 俺は途中で避け方を変え、氷の壁を獣と自分との間に作り出し、獣の突進を受け止めることにする。


「キャウ!?」


 すると獣は情けない声を出し、頭から氷の壁と激突して後方へ下がりながら怯む。


「ふふっ、たくさん遊んで疲れたでしょう?餌をあげる下位改良型氷獄魔法


 俺は氷の壁を消し去り、獣に一点集中してバ火力を放つ。

 凄まじい氷と魔力の暴力。しかしながら獣の体力は削りきれていないのか、俺の攻撃が一仕切り終わった後に立ち上がる。

 おいおい、まじかよあいつ。氷獄魔法喰らったのにピンピンしてやがる……。こんなの作ったなんて許さんぞ研究所。


「ガルルッ!!」


 獣は立ち上がると、こちらを睨みつける。


「あら、遊び足りないのかしら?」

「ドンッ!」


 今度は牙では無く爪を使って攻撃するが、俺は身軽に回避し、あくびをしているような動作をする。


「ふぁぁ……もう少し張り合いはないのかしら?」

「ガァァァ!!」


 数々繰り出される攻撃を、俺は魔法も使わずにその身一つで回避し続ける。

 さながらタップダンス。いや舞踏会か?まあどっちでもええか。ともかくこれなら勝てそうだな!なぁんだノートにはめっちゃ強いって書いてあったのに思ったより簡単じゃん!


「ふふっ、沢山遊んであげたし、そろそろ昼寝の時間ね」


 俺は先ほどのように氷の壁を作り出し、同じように獣と氷の壁を衝突させる。

 俺は怯んだ隙を見逃さず、獣の足を氷で拘束して動けないようにさせた。


「さあ、眠りなさい下位強化型範囲氷獄魔法


 俺は手を氷の壁に向け、手を滑らせるように動かしながら氷の壁を消し去り、オーケストラを指揮するように両手を振り上げて冷気を生成する。

 ちゃっかり氷の指揮棒を生成してリズムを取り、4カウントを取った後、指揮棒を獣に向け、冷気を一斉に獣へ放った。


「ヒュゥゥゥ!!」


 空気を斬り裂いて冷気は進み、獣へと当たって獣の身体を凍らせ始める。

 獣の身体は次第に霜に覆われ、霜は厚い氷の層となり、獣を覆う。

 勝ったなこれ。風呂食ってくる。


「ピシッ……」


 ん?


「ミシッ……」


 ん???あれおかしいな、俺の目には分厚い氷の膜にヒビが入っているように見えるんだが……?


「パリンッ!!」


 ちょっ!まっ!?こいつ俺の氷を破っただと!こんなの俺のデータにないぞ!?


「ガルゥ!!」


 氷から飛び出した獣は何やら赤紫色のオーラを纏い、自身を強化しているように見える。さながら第二形態。いやお前物語中盤の激強ボスか?


「ガァ!!!」


 すると獣は床を足で踏みつけ、赤紫色のオーラを無理くり部屋全体へと放出する。

 禍々しい赤紫色のオーラは瞬く間に部屋を埋め尽くし、空気を赤紫で染め上げ、やがて部屋に異変を起こす。


「ガガッ……ガッ……」


 部屋中の床や壁、そして天井が軋んで音を上げると共に、空間が拡張されていく。

 なにこれ……なにこれ俺知らない……。お前は一定HP削ったら行動パターンが変化する死にゲーのボスか?物語中盤のボスか死にゲーのボスかはっきりしろ?


「アォーーン!」


 獣が雄叫びを上げると、一気に空間が拡張され、止まる。

 そうして出来たのは、獣の独壇場だと言わんばかりに広くなった、障害物無し、高低差なし、高さ上限なしの平面のフィールドだった。


「ふ〜ん、獣にしては知恵が働くのね。褒めてあげる」


 こんな状況下にも関わらず、俺の口車は良く回ること。回ってはいるが、俺の口車に関しては空転しているんだよな!はっはっはっ!

 いやいやこれ俺がまずいじゃんね☆


「ガウッ!!」


 すると獣から噛みつき攻撃が繰り出される。今まで部屋の狭さで手加減していたのか、速度は1.5倍増し。音速の壁を突き破ってこちらへと向かってくる。


「っ!?」


 俺は咄嗟に氷の壁を作り出し、攻撃を防ごうとする。


「パリンッ!!」


 が、氷の壁は容易く突き破られ、俺の眼前には獣の牙が迫っていた。

 記念すべき初被弾……いや記念じゃないな。つよつよ美少女に被弾の二文字は辞書に載っていない。ならどうする?この状況から脱する方法……聖氷魔法か?いやあいつ使った事ないしそもそも使い方テストしてねぇ。 

 ふえぇ、お姉ちゃん助けて……いや甘えるな俺は無敵の美少女。こんなもんこれから先いくつもある!うぉぉ限界を超えろぉ!!

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