第15話 不穏レポート

 ぼぼぼぼぼっ!助けてっ!し◯ちゃん!!

 オラ、まだ所で死にたくねぇ!まだつよつよ妖精ムーブもしてねぇしこの世界の真相を知るかのように一人呟くミステリアスな事もしてないしとにかく色々やれてねぇ!


「せめてつよつよ美少女ムーブをもっとしたい人生――」


 そうして今際の際に放つ遺言を残して二度目の死を覚悟した俺だったが、そんな覚悟とは裏腹に身体には一切の不調が訪れない。

 死んでない……だと?


「あっ」


 その時俺はある事を思い出し、その思い出した事を確認するために目の前にステータスボードを出す。そしてスキルの書かれた欄を見ると、そこには『状態異常無効レベル☆』というスキルが書かれているのが見えた。

 そうじゃん。俺、スキルで『状態異常無効レベル☆』ってのあるじゃん。なんだ毒ガスって奴大した事ねぇな?

 ふふっ……焦った自分が馬鹿みてぇだ。


「よし凍れ下位改良型氷獄魔法


 俺は毒ガスが効かないと分かった途端、廊下の奥に進むために鉄板に向けてバ火力を放つ。

 入口の魔力入りの鉄板と違って耐久力がないのか、鉄板は数秒もせずにその形を変え始めた。


 ……ほんとはね、転移とか時間停止とか使って優雅に侵入して優雅に機密情報を手に入れてエレガントに去りたかったんだよ。私だって転移とかしたかった!いっぱい転移して敵を撹乱したり主人公ポジの子が振り向いたら去ってるみたいな演出やりたかった!うにゃぁ〜!!


「ガァン!!!!」

「やべ」


 しまった……つい感情と勢いに任せすぎてバ火力が上限突破してしまった。うわぁ、鉄板が粉々になって廊下の突き当たりに刺さってら。


「誰もいないよな……?」


 俺は急いで奥へと進む。

 そうして辿り着いたのは、青色と緑色とが入り混じった光が漏れている、開きかけた一つの扉であった。


「ふふっ……そろそろ真面目にやりましょうか」


 俺は思考を冷静沈着スーパー最強美少女モード(仮)に切り替え、その扉を開ける。

 扉を開けてまず視界に入ってきたのは、幾つもの大きな管に繋がれた、大きな球体状のカプセルであった。


「ふむ……」


 カプセルの中心はガラスになっており、中には満タンまで入っている怪しげな緑色の液体と、液体に浸された赤黒い何かが微かに脈動している光景が見える。見た感じ目はないはずだが、心なしかこちらを見ているような気がして少し怖いな。近寄らんとこ。


「あら」


 そうしてカプセルから目を離した俺が次に見たのは、テーブルに置かれている『アナザーゲート調査報告書No.75』と書かれた紙束と、『モンスター創造計画』と書かれたノートの二つであった。

 調査報告書はまあいいとして、モンスター創造計画とかどんなマッドサイエンティストだよ。ちょっと中身見せてね~。


【〇月×日、かの有名な雨宮コーポレーションより依頼が入った。曰く、魔力技術と現代の化学を応用した新たな警備兵器を作ってほしいのことだ――】


 そこからはそのモンスター創造計画の依頼内容や、研究の進捗状況といった、怪しげな研究所に置かれているものとは思えないほどクリーンな内容が続いていた。

 が、そんなノートの内容は、ある日を境にして変わっていった。


【△月〇〇日、雨宮コーポレーションの態度が急激に変わった。早く完成させろだの、それでいて質はさらに上げろだの、言っていることは滅茶苦茶だ。もう俺は逃げることにする】


 その後の事は何も書かれておらず、ノートはここで終わっている。俺は一先ずノートを閉じ、考える。

 △月〇〇日……ノートの一番最後に書いてある日付だから、間違いなく最近の日付だろうな。

 それにこの建物、ホコリまみれでは無い。放置されてしばらく経っている建物ならまずホコリが空気中に漂うぐらい汚い。

 もしかしたら、あの日付は俺が転生したであろう日付ぐらいだろうか。くそ、こんな事になるなら家の中のカレンダー確認しておけば良かった……。

 が、まあそれはともかくだ。


「情報は収集した。後は――」

「ミシッ……」


 俺が振り返って扉へ戻ろうとした時、何やら嫌な音がする。

 さながら錆びたロボットのように頭を動かして後方を見ると、そこにはガラスに大きなヒビの入ったカプセルがあった。


「焦るな(小声)……凍てつけ中位改良型氷魔法


 俺はガラスに吹雪を当て、ガラスをまるごと覆い隠すようにして凍らせる。


「さあ、帰りましょ「ドンッ……!!」」


 研究所内に、くぐもった衝突音が響く。


「ドンッ……!!!」


 次第にくぐもった衝突音だけではなく、ガラスの嫌な軋みの音まで聞こえる。


「ドンッ……!!!!」

「ピキッ……」


 俺は恐らく逃げれないと思い、諦めて戦闘態勢へと入る。


「ドンッ……!!ドンッ…!!ドンッ!!ドンッ!!」


 やがて氷の膜にヒビが入り、その時は訪れる。


「パリンッ!!!」

「ガァァァァァォォォォォオッ!!!」


 カプセルが粉々に砕け、緑色の液体は激しく飛び散り、飛び出したばかりの赤黒く鋭利な毛を纏う獣は、けたたましく、恐ろしく、身の毛のよだつ程の咆哮を上げ、こちらを睨みつける。


「ふふっ……品のない獣だこと。今なら檻の中に優しく返してあげるわよ?」


 どんなに悍ましい化け物でも、俺の美少女力は無意識に挑発する言葉を掛ける。

 ふふっ……俺の膀胱が持つ前に早く帰りなベイベー。


「グルルルッ……」


 一方の獣は暴力的とも言えるほどの魔力を放出し、こちらを威圧し続ける。恐らく並の攻略者ならすぐに気絶しているだろう。

 これ、ラノベとかだったら本来は多分湊ちゃん達が倒すような強敵なんだろうな……。


「……まあいいわ。きっちりしつけをして可愛がってあげる」

「ガァァァァ!!!」




NEXT……vs『Experimental Life Form No.1』

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