第10話 始動サポート
あれからしばらく経ち、歓迎会は無事……?に終わり、所変わって俺達は低難易度のダンジョンに来ていた。
歓迎会の時に悠々さんと軽く約束していたダンジョン講座をするためである。座学だけだったら別に何処でもやれ……いや、美少女の決定なら間違いないな!ヨシ!
「――ということでダンジョンを攻略する際に必要なのは三つのジョブがあります〜。一つはアタッカー。一つはシーフ。一つがサポーターです〜。今二人がアタッカーの役割をこなしている所ですね〜」
「ちょ、ゆゆちゃん!よそ見してないでこっち支援してぇ!歩夢っちがモンスターハウス踏んだの!!」
「あら本当ですね〜。……アクちゃんちょっと待っててくださいね〜」
湊ちゃんの声がけでようやく悠々ちゃんが動く。悠々ちゃんが何かを持つ様な手の形を作ると、魔法陣と共に聖書がその手に現れた。
「
そして悠々ちゃんが手を魔物の群れに向けて振りかざすと、神々しく輝いた十字架が無数に現れ、群れに向けて飛んでいく。
「プュッ!?」
「キャオン!?」
十字架の一つ一つがまるで意志を持つように魔物へと追尾し、十字架のある限り敵を貫き続け、やがて魔物の群れは湊ちゃんと美央ちゃんが処理しきれるほどに減少した。
「サンキューゆゆちゃん!」
「……っありがとうございます悠々さん!」
「ふぅ、と……まぁこのような感じでアタッカーは動きます。あと、今回はたまたま出来ませんでしたが、シーフの歩夢ちゃんはこういったダンジョンの罠を無力化してくれたりします〜。講座は以上ですが、分かりましたかぁ〜?」
「えぇ。概ねは」
「良かったです〜」
「ぜぇ……はぁ……あいつら攻撃は通らないくせにちっちゃいしすばしっこいから当てづらい……」
俺は前方を見てみると、壁に背を預けて、各々の武器を床においてぐったりと座っている二人がいた。
一方、歩夢ちゃんの方は片膝をついて休んでいるものの、前方と後方の警戒は怠っていない様子だった。
「……ふむ。歩夢ちゃんは気づいているっぽいですね〜」
……ん?何がだ?
「アクちゃんは経験がないから気付かないかも知れませんね〜……このダンジョン、外で表記されている難易度とダンジョン自体の難易度が釣り合ってません。本来だったらモンハウすら出ない安全なダンジョンのはずなんですよ〜」
ほぇ〜。ということは異変か……異変だなぁ……。
俺の経験則からすると、こういうのは大体俺が転生する少し前から異変が起きてて、多分湊みたいな主人公チームが気づいて手がかりを掴んだ時に、ボンッて感じだな?
三月ちゃんから貰った資料、まだ手元にあるから見とくか。
(――ふむふむ、ほうほう。資料にはアナザーゲートの出現率が増加傾向、そしてアナザーゲートの難易度の上昇傾向が同時期に観測された、とねぇ……)
これは……事件だな?俺の番だな?美少女のサポート役たる俺の番って事だよな?
ふふっ……ふははっ!ふはははは!
見せてやんよ、俺のミステリアスでグレイトでかつ美少女な立ち回りを!ねちっこく調べあげてスーパーミラクル天才美少女全知全能のミステリアス美少女になってこの事件の犯人に圧倒的に立ち回ってやるよ!
☆★☆
雨宮コーポレーション。この世界でその会社の名前を知らないものは少ないだろう。
この会社はダンジョン攻略黎明期と呼ばれる、歴史上最大の産業革命にてトップの一角を担っていた企業であり、天精氷達がいる「日向」建設に携わった会社の一つでもある。
その会社が立ち上げてきた功績は多岐に渡り、中でも一番有名な物で言えば、アナザーゲートを制御する技術。この一点に尽きる。
そのような一大企業の本社に、黒いスーツに身を包んだ男が来ていた。
「
「通せ」
重厚な木製の両扉を開け、天導と呼ばれる男が看板に『社長室』と書かれた部屋へと入る。
室内では本革が使用された黒の椅子に腰掛け、パソコンを閉じて天導へ視線を向ける、年を取って髭も生えた白髪の男がいた。
「久しいな天導。息災か?」
「ククッ、そちらこそ。随分とお年を取られているのに」
「こう見えても儂はまだまだ生きれるわ。それより珍しいな。お前という男がわざわざ足を運ぶとは」
「要件は分かっておりますよね?」
「……聖杯、だろう。それも既に持ち主の決まった聖杯だ。相変わらず聖杯の一点においてはしつこいな」
白髪の男は髭を伸ばしながらそう答える。その態度は『聖杯』に対して心底面倒臭そうな感情を漏らしているように見えた。
少しの沈黙が流れたあと、髭を整えた白髪の男はこう言った。
「何度でも言おう。儂は聖杯の持ち主にはならん。そしてこれ以上お前の行為、野望への加担は出来ん」
「それは我々が誤魔化しているではありませんか。『魔力活性期』という架空の時期を出して」
天導は手を胸に当て、その後天導へと差し伸べる。
胡散臭いその態度に白髪の男は小さく溜息をついていた。
「結局の所嘘だとバレた地球……何だったかのう。まあアレと、さほど変わらんではないか。目敏い者は必ず気づく。今は証拠が無いから通っている暴論ではない「バンッ!!」」
白髪の男が言葉を言い切るその瞬間、扉が蹴り飛ばされ、全身に防具を纏った複数人の兵士が室内へと突撃する。
「カチャッ……」
兵士は持っていたアサルトライフルを白髪の男に向け構える。
「はぁ……」
それを見た白髪の男は呆れたように手を上げて首を振った。
「聖杯に触れなさい」
天導は魔法陣から銀色に輝く聖杯を取り出し、白髪の男の前にあるテーブルに置く。
「……今ならまだ間に合う。もとよりお前とはダンジョン黎明期を共に生き抜いてきた戦友だ。何故聖杯に頼る?滅びを齎すその聖杯は、何の価値も生み出さないだろう」
「もう一度言いましょう。その減らず口が再び動き出すその前に、聖杯に触れなさい」
天導の態度に呆れた白髪の男は、目線を少しの間下に向けた後、椅子から立ち上がる。
「……分かった。お前の要望通り、聖杯に触れてやろう」
「それで良いのです」
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