第6話 出会いと始まり

 つよつよ美少女ムーブ気持ちぃぃ!!


「……」


 あれからダンジョンを出て無事に帰還した後、俺はポーカーフェイスを貫きながら、美少女を救ったという達成感に包まれ心の中で狂喜乱舞する。

 

 ただし、それと同時に俺の心は冷静を保たなければならなかった。


「――以上の理由を持ちまして、強力な魔法を使用する要注意モンスターとして、貴方を連行させていただきます」


 時は遡る事四、五分前。俺は美少女達がダンジョンから出るのを見送った後、間を置いてからダンジョンを出た。

 その時の俺は、文字通り有頂天な気分であったが、いざダンジョンを出ると、目の前には警察のような人達がつくった簡易な包囲網と、『日向政府直属』と書かれた腕章を付けた、中々にナイスバディな女の人がいた。

 その女の人が言うには、先ほど救った美少女達が「強力な魔法を使う魔物が私達を救った」と知らせを出したという。それでその知らせを受けた女の人が急遽駆けつけてきたらしい。


「ええ、構わないわ」

「それでは、ご同行お願いします」


 俺は銃を持った警察っぽい人たちに挟まれながら、女の人についていく。

 飲食店、スーパー、デパートといった商業施設が多く並ぶ通りを抜け、高層ビルが多く建ち並ぶビル街を進み、やがて俺達はこの街の中でも一際目立つ存在感を放ったビルに辿り着いた。


「ここです」

「分かったわ」


 俺は女の人と一緒にビルの中へと入る。

 ビルの横にある大理石の看板には、『攻略業者総合センター』という日本語の文字と、『congregareコンデレガーデ』というお洒落なフォントで書かれた文字が鉄で書かれていた。

 たまに見るよな……浮き彫り風?な感じで表札に会社の名前とかそういったのを書くやつ。あれお洒落だよなぁ。いつかこの世界に家を持ったらあんな感じの表札作ってみたいな〜……。


「わぁ……(小声)」


 ビルの中に入った時、俺は声を漏らす。なにせ、現代の高層オフィスビルのエントランスのような光景が広がっていたからだ。

 すっご……もう現代じゃん。


「ピンポーン……一階です『Door open.』」


 ビルに入った俺達は、エレベーターに乗って上へと向かう。

 エレベーター内では無言の空間が流れ、これから起こることに対する緊張感を誘っていた。


「ピンポーン……十五階です『Door open.』」


 ガダン、という音と共にエレベーターの扉が開き、俺達はエレベーターを出てカーペットの敷かれた廊下を進む。


「こちらの部屋です」


 警察みたいな人達は扉の近くで立ち止まり、女の人が扉を開けたので、俺はそのまま中へと入る。

 正直いって急展開過ぎるから今何が起きてるのか把握しきれてはいないが、少なくとも『魔物』だからとリンチにされて美少女ハンバーグ(妖精肉100%)となることはなさそうだな!


「貴方はそちらに」


 戸棚が多く並んだ空間にガラス張りのテーブルを挟んで二つのソファがある応接室のような雰囲気の部屋で、俺は扉から向かって右側のソファに腰掛ける。

 反対側には既に女の人が腰掛けていた。


 部屋の中は女の人と俺の二人だけ。警察みたいな人達は中に入れない……となると結構俺のやらかした事ってヤバい案件なのか。

 俺、何かやっちゃいました?


「まずは急な案件だったため、おもてなしが一つも出来ないことを詫びさせてください」

「大丈夫よ」


 女の人は軽く頭を下げ、謝罪をする。


「……それでは早速本題に入らせていただきますが、この度は私直属の攻略者パーティーを助けていただいたことにお礼をさせていただきます」


 ん……?お政府直属の攻略者パーティー?


「……あぁ、まずからでしたね」


 すると女の人は席を立ち上がり、後ろにあった戸棚を漁って、一つの分厚い本を手に取る。そして俺の前に置かれるのだが……。


「『洋上都市日向計画』、原案第111代総理大臣、みなと 正則まさのり……」


 総理大臣……そうりだいじん……いや、きっと肩書が現代と似ているだけだ。まさか異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生したとかそんなまさか……。

 そう思い俺はページを捲るが、そこに現れるのは『日本』、『G7』、『EU』などなど……数えたらキリがないが前世で覚えのある単語ばかりであった。


 どうやらここは異世界に転生したわけではなく……現代ファンタジーの世界に転生したらしいな……。


 まあ、それはそれとしてその中に見覚えのないものが一つあった。恐らくこの現代ファンタジー化した世界の原因である――


「ブラックホールパンデミック事件……」

「はい。前代未聞の大地震と共に、世界中に突如として出現した謎の黒い穴……我々はアナザーゲートと呼んでいますが、そのアナザゲートが大量発生した事件です」


 ほぇ〜。


「日本は復興の目処が立たず、各地ではアナザーゲートから現れる魔物で死地となっています。なので、せめて国民の拠り所を、あるいは避難所を作ろうとして、この洋上都市『日向』を。そして――」

「パンッ」


 乾いた拍手が一回響くと、応接室の扉が開き、見たことのある美少女四人組が入ってくる。


「よ〜っす!」

「ちょ、初対面相手に気安く声を掛けない!」

「まあまあ〜美央ちゃん落ち着いて〜」

「こんにちは……」


 もう声とか服装とか話し方から属性強っ……美少女が眩しい……輝きが眩しすぎて溶ける――


「アナザーゲートに対処、鎮圧するために『攻略者』という職業を設立しました」


 女の人の言葉に反応し、美少女四人に向けた目線を元に戻すと、そこには真剣な表情をした女の人がそこにいた。


「なるほどね……つまり私に求めるのは」

「はい。貴方さえ良ければ、攻略者になって欲しい事、そしてあわよくば私直属の攻略者パーティーに入って、そのサポートをして欲しいです」


 なるほどなるほど……。


「貴方、政治下手ではなくて?」

「グッ……」

「あはは、三月ちゃんいわれてら〜」

「うるさいですよ……」


 微笑ましい……ちょっとこれ死ねるわ。

 いきなり政府直属の方に呼ばれて応接室に通されたら、いきなり冗談抜きでいいシーン見させてもらってる……だと……。


「ん゙ん゙っ゙……改めて、どうでしょうか」

「そうね、いいわよ」

「っ!?本当ですか!?」


 そう言って女の人……三月さんは目を輝かせて子供のように喜ぶ。

 う〜ん……この日向って洋上都市、治安とか政治とか大丈夫かな……。


「良かったね〜三月ちゃん。前にいた登山家みたいな男の人には断られてたからね〜」

「……(プイッ)」

「あ、目そらした」


 それはそれとしてほのぼのしてるな〜。このままもうちょっとこの空気を吸ったり雰囲気を拝めないかな〜。

 ……ん?登山家みたいな男?もしかして、あいつもこの世界に転生しているのか……?


「それでは、こちらの契約書にサインを」


 俺が考え事をする間、三月さんは美少女四人に合図を送り、俺の前に一枚の紙を差し出す。

 俺は紙に書かれた文書を軽く見るが、概ねパーティーへの加入を承諾するぐらいの文書だった。


「……はい」

「ええ、確かに。これで貴方はパーティーの一員ですね」


 俺は契約書に今の俺の名前……天精氷の文字を書き三月さんに渡す。


――ここから、俺の、天精氷のサポート無双が始まっていった。




序章『出会い』 終わり

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