第2話 初戦闘と困惑

「ん?おい春樹、今なんか動かなかったか?」

「いや、見えなかった」


 俺の今の身体が女の子の妖精だと分かった瞬間、俺は身をかがめ、草に身を隠す。

 近くには、声を掛けようと思っていた男三人組が立ち止まって話し合っている。


 魔法の使い方も分からない可愛い妖精が人間、しかも男に見つかるとどうなる?

 ……知らんのか、年齢制限が18歳になるか、もしくはそこに「G」の文字が追加される。


「このダンジョン、小さいモンスターっていたっけ?」

「いや、いなかったはずだぞ」

「森谷が言うなら間違いないか。悪かった、気のせいだな」


 三人分の足音が、段々と遠ざかる。やがて足音は聞こえなくなり、俺は前方を見渡す。


「良かったぁ……」


 俺は胸を撫で下ろし一息つく。

 どうやらこれで一難は去――


「グルルルル……」


 ――ってねぇ!?



☆★☆



「うにゃあぁぁ〜!?」


 現在俺は、狼の魔物一匹に追いかけられている。理由は単純。唸り声を出した何かを確かめに振り向いたらそこに魔物がいて、背中を向いて逃げたからだ。


「ガルルッ!」

「ヒエッ!?」


 狼が噛み付いてきたと思ったら俺のすぐ近くに狼の牙が真横に迫る。ギリギリで今は避けれてるけど、体力が無くなってきたらと思うと……怖い怖い怖い!!


「こういう時何か魔法とか!なんか……何か出ろぉ!」


 俺は切実に念じる。


「出ろぉ!!」


 すると願いが伝わったのか、逃げるためにぶんぶん振り回している手元から、謎の冷気を感じ始めた。


「ま……魔法!?」


 自分の両手を目の前に持ってくると、両手は薄く氷が張っているのが見える。でも手は全然動くし、特に不調なわけでもない……。


「……何か出ろぉ!!」


 俺は全力疾走をして狼と距離をとった後、勢い良く狼の方に振り向き、両手を突き出して力を込める。

 手に薄く張った氷は瞬時に魔法陣へと変わり、氷の弾を作り出す。


「飛べぇ!!」


 俺の声に呼応するように、氷の弾は狼の方向へと飛び、直撃する。

 狼の身体は直撃した場所を起点に凍っていき、やがてその動きを止めた。


「よっ【レベルアップを確認しました】……はい?」


 すると唐突に、目の前に文字の書かれた透明な板が浮かび上がる。


天精氷てんせいひょう レベル2

種族:氷の妖精

スキル:氷魔法レベル2、魔力感知レベル2、魔力操作レベル2、魔法陣構築レベル2、状態異常無効レベル☆】


 その他にも、身長は三十センチだったり、透明な板には色々書かれているのだが……その中でも一際目立った情報があった。


「これ、俺の立ち絵か?」


 その立ち絵は、空色のショートヘアーで、底のない水色の瞳を持ち、少し幼さを持った顔立ちをした、絶世の美少女が描かれている。

 立ち絵は全身描かれているようで、その美少女が着ていた服は今俺が着ている服と完全一致している。

 そういえば妖精なのに羽、無いんだな。まあ多分飛べるんだろうけど。


「ふぅ……」


 ある程度、透明な板に書かれた情報を確認した俺は、試行錯誤しながら透明な板を消し、改めてTS転生を果たせた事に安心感を覚える。

 折角の転生なのに美少女に生まれ変われない……っていうのが無くてホッとしたよ。


 まあ一先ず、能力や容姿の話を一区切りにしてそろそろこれからの事を考え始めるか。


「とはいえ……ここがダンジョンだとは思いもしなかったな〜」


 生まれたてのTS妖精……ダンジョン……初手地獄かどうかはさておき、狼との戦闘のとき、俺じゃなきゃ死んでたな。

 いやまあ、ついさっきまで魔法すら使えないクソ雑魚妖精だったわけだが。それにしても初手ダンジョンは流石にないだろう……。

 俺はTS妖精レベルカンストRTAというマイノリティな需要のRTAをしているわけでは無いんだぞ。


「とはいえ、恐らく雑魚モンスであろう狼に敗北しそうになったのは事実。ならば――」


 ダンジョンを脱出出来るように、かつ作戦は命大事に、レベリングじゃあ!!

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