第1話 凍死と転生
――地球のある所に、激しい
そして無謀にもそれを探した二人の登山家がいた。
一人は莫大な富と財宝を得るため。そしてもう一人は、不思議なことに自分の性を変えるために、大秘宝を探しにいった。
そして通常より厳しい天候に見舞われた霊峰の中、二人の男性が洞穴でじっと身を潜めていた。
「はぁ……はぁ……」
一人は顔を青白くして眠っており、一人は酸欠寸前で、その身体は震えている。
眠っている方の男性の手には、底に血がこびりついた、聖杯のような物が握られていた。
「は、ぁ……なんで……なんで……」
吐息混じりで男性はそう言う。まぶたはまるで、眠るのを我慢するように閉じかけで止まっていた。
「く、そ……美少女になって、沢山やりたいことが……あったのに……!」
口から漏れ出るは何かに対する後悔ばかりの彼であったが、やがて彼は何かを諦めたように、洞穴の天井を見つめ、笑った。
「聖杯よ、生まれ変われたら……せめて寒さを感じない身体で……あってくれ――」
彼はもう一人の男性から聖杯を取り、願いを言う。その後彼は、安らかな表情で眠りについた。
☆★☆
「はっ……うっ……」
長い眠りから覚めて、俺は起き上がる。
「ここ、どこだ……?」
何となくだが、俺はひたすら美少女になりたいと願って雪山にいた事を思い出す。しかし今いるここは、綺麗な草が覆い茂った幻想的と呼べるほどの美しい平原だった。
さらに周囲の状況を把握していくと、俺はさらに根本的な問題に気づく。
「何か身長ちっちぇし、声もおかしい……」
俺はある可能性を信じてゆっくりと目線を下に向ける。
「まさか……そんなバナナ……。勝ち?勝ち組?もしかして俺女の子として転生した……?」
俺の目の前には、俺が今羽織っているであろうカッパが見える。期待を膨らませつつカッパを広げ、その中に着ている服を見てみると、そこそこ大きい膨らみと、貴族が着るようなきらびやかなドレスが目に入った。
「もしかしてお忍び中の貴族に憑依する形で異世界転生したとかそういうのでは無いだろうな……無いんだろうな……?(震え声)」
自分の服装に一抹の不安を覚えるが、確かにそこにはTSして美少女となった俺がいる。
「よっしゃぁ……!」
思わず俺は心の中でガッツポーズをした。さらば聖杯で願いを叶えた前世の俺……初めまして美少女の俺っ!
「っと……」
取り敢えず気を取り直し、俺は辺りを散策する。ここが異世界なら、TSして魔物に襲われて人生終了が一番つまらないからな!
「草けっこうデケェな……しかもなぜか裸足だから土の感触が直に伝わる……」
この平原は幻想的だし綺麗、とは思ったものの、周りの草がやたらとでかかった。手で何とか掻き分けられるけど、どうやら俺の美少女人生はこんな田舎でたまにしか見ないような所でのスタートのようだな……。
「これじゃあ服がすぐに傷つきそうだし、出来るならば早めに抜けておきたい……ん?」
服を気にかけながら進んでいると、奇跡が起きたのか向こう側に何やら大きな人影が三人ほど見える。
「ラッキー!」
人がいるなら話は早い。よし、なけなしのコミュ力を使って情報を聞き出すぞ〜!
「お――」
走って一気に近づき、「お〜い」と俺は遠くから声がけしようとして気づく。
なんか……低身長ってレベルではないぐらい俺の身長、低いのでは?
「ロリ……よりも低いよな。俺の身長」
俺は足を止めて考える。
そして考えること五秒。俺はある結論にたどり着いた。
俺の身体、妖精じゃね?
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