第36話 詩が育む未来の夢

詩の発表会が成功を収め、千草と香織は新たな仲間たちと詩を通じた絆をさらに深めていった。発表会をきっかけに詩を書くことの楽しさを感じた学生たちが増え、詩の輪が広がっていく中で、千草は次のステップについて考え始めていた。


「これからどうしようかな…詩の発表会はすごく良かったけど、もっと詩を広めるためにできることがあるんじゃないかって思ってるんだ」

ある日、千草は香織にそう打ち明けた。


「もっと詩を広めるっていうのは?」

香織は少し興味深そうに聞き返した。


「詩を書くだけじゃなくて、詩を教えたり、詩の魅力を伝えるような活動ができたらいいなって思ってるの。例えば、小さな子どもたちに詩を書く楽しさを教えるワークショップとか、地域のイベントで詩を紹介するようなことができたらいいなって」


千草の提案に、香織の目が輝いた。


「それ、すごくいいアイデアだね!詩って、誰にでも楽しめるものだし、特に子どもたちが詩を書くことで自分の気持ちを表現できるようになったら素敵だと思うよ」


千草も頷きながら、未来の夢が少しずつ形になっていくのを感じていた。詩を書くことは、これまで自分自身の心を見つめ直すための手段だったが、今ではそれを通じて他の人に影響を与え、もっと広い世界で詩を共有したいという気持ちが強くなっていた。


その後、千草は大学の文学部の教授に相談し、詩のワークショップを開催できるように働きかけた。教授は千草の情熱に感心し、地域の子どもたちを対象にした詩のワークショップを企画することに協力してくれることになった。


「地域の子どもたちに詩を書く楽しさを伝えるなんて、とても素晴らしい試みだね。詩を書くことで感情や考えを表現する力が育つと思うよ」

教授の言葉に千草は勇気づけられ、準備を進めていった。


ワークショップ当日、千草と香織は地域の図書館に集まった子どもたちを前に、少し緊張しながらも楽しみにしていた。子どもたちは好奇心いっぱいの目で二人を見つめており、その姿に千草は自分の小学生時代を思い出していた。


「今日は、みんなに詩を書く楽しさを体験してもらおうと思います。詩って、難しいものじゃなくて、感じたことを言葉にするだけなんだよ」

千草は優しく話しかけた。


香織も笑顔で続けた。「どんなことでもいいんだよ。好きな食べ物のことでも、今日見た風景でも、何でも詩にできるんだ。まずは一緒に簡単な詩を書いてみよう!」


千草たちは、子どもたちに詩の基本的な書き方を教えながら、それぞれが自由に言葉を紡ぐ手助けをした。最初は少し戸惑っていた子どもたちも、徐々に自分たちの感じたことを言葉にする楽しさを見つけ始めた。


一人の男の子が、千草に見せた詩はこんな内容だった。


「僕の好きな猫」


家の庭にいる猫

僕を見るとすぐに逃げちゃうけど

時々、じっと僕を見ている


その目は何を考えているんだろう?

友達になりたいのか、

それともただ僕のことを見ているだけなのかな


猫と友達になれたら、

もっと楽しいだろうな


「すごくいい詩だね。猫の気持ちを考えるなんて、素敵な視点だよ」

千草はその詩に感心し、男の子に優しく声をかけた。


「うん、猫ともっと話せたらいいなって思って」

男の子は少し恥ずかしそうに答えたが、嬉しそうな顔をしていた。


他の子どもたちも、自分の感じたことを自由に詩にして発表し合い、笑顔が絶えないワークショップになった。詩を書くことで、子どもたちが自分の感情を表現し、それを共有する楽しさを感じているのが千草にはよく分かった。


ワークショップが終わった後、千草と香織はほっとしながらも、大きな達成感を感じていた。


「今日は本当に楽しかったね。子どもたちが詩を書くのを見て、私たちも元気をもらった気がするよ」

香織は笑顔で言った。


「うん、詩を書くことがこんなに素直に楽しいって感じられるのって、すごく素敵なことだよね。私たちも、これからもっとこういう活動を続けていけたらいいな」

千草も同じ思いだった。


彼女たちは、詩がただの言葉の集まりではなく、人と人を繋げ、心を豊かにする力を持っていることを改めて実感した。そして、もっと多くの人に詩の魅力を伝えていくために、これからも新しい挑戦を続けていくことを決意した。


その夜、千草は自分のノートを開いて、新しい詩を書いた。ワークショップでの出来事や、これからの夢を思い浮かべながら、ゆっくりとペンを走らせた。


「新しい夢の種」


小さな種が土に落ちる

その種は、どんな花を咲かせるのだろう?


風が吹くたびに

その種は少しずつ育っていく


まだ見えない未来だけど

私たちは、風に身を任せながら

少しずつ前に進んでいく


いつかその花が咲くとき

私たちの夢は、きっと鮮やかに広がっている


詩を書き終えると、千草は窓の外に広がる星空を見上げた。新しい夢の種が、今まさに自分の心の中で芽生えようとしていることを感じながら、彼女は未来に向けて歩み続ける決意を新たにした。


「これからも、詩を書いていこう。そして、もっと多くの人に詩の魅力を伝えていきたい」


千草の心には、詩と共に生きる未来への希望が輝いていた。詩が導く新たな夢の旅は、これからも続いていく。

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