第35話 詩の発表会、始動

香織からの提案で始まった詩の発表会の企画は、千草と香織を中心に、少しずつ形になっていった。大学内で詩に興味を持つ学生たちを集め、詩を発表し合うことで、お互いの感情や考えを共有できる場を作る。千草はこの新しい挑戦に胸を躍らせながらも、不安も抱えていた。


「ちゃんと人が集まるかな…詩に興味を持ってくれる人がいるといいんだけど」

千草は、ある日香織にそう漏らした。


「大丈夫だよ!詩に興味を持っている人は意外と多いと思うし、詩を通じて新しいことを感じてもらえるはずだよ」

香織は元気よく答え、千草を励ました。


「そうだね、まずは私たちが楽しんでやることが大事だよね」

千草は自分自身に言い聞かせるように頷いた。


二人はまず、詩の発表会に参加したい学生を募集するポスターを大学内に貼り出し、SNSでも呼びかけを行った。自分たちだけでなく、他の人たちの詩を聞いてみたいという思いが強く、詩を書くことが初めての人でも気軽に参加できるような雰囲気を作ることにこだわった。


「詩を書くことに興味はあるけど、自分の詩を発表するのは恥ずかしいって思う人も多いんじゃないかな」

千草が言うと、香織は少し考えてから答えた。


「そうだね。だから、自由に参加して、ただ詩を聞くだけでもいいって伝えよう。詩を発表するのが怖い人には無理強いしないで、まずは詩の魅力を感じてもらえればいいんじゃないかな」


こうして、発表会の準備は着々と進んでいった。


そして、ついに詩の発表会当日がやってきた。会場には、香織が手配した大学の小さな講義室が使われることになった。初めての試みだったが、20人ほどの学生が集まり、発表会は予想以上に活気あるものとなった。


千草は香織と一緒に、参加者たちに挨拶をし、発表会の趣旨を説明した。


「今日は、詩を通じてお互いの気持ちを共有できる時間にしたいと思います。詩を書くことが初めての人も、読むだけの人も大歓迎です。どうか自由に楽しんでください」


香織も微笑んで、「詩って、ただの言葉じゃなくて、自分の心を表現する素敵な方法だと思います。私たちも詩を書いてみて、自分の気持ちに素直になれる瞬間を何度も感じました。ぜひ、皆さんもそんな瞬間を体験してみてください」と呼びかけた。


最初に発表をしたのは香織だった。彼女は、千草と一緒に書き始めた詩を読み上げ、緊張しながらも笑顔を見せていた。


「心の窓」


心の中に

小さな窓がある


その窓を開けると、

私は自分の感情に出会う


不安や迷い、時には喜びや希望

そのすべてが、風のように吹き抜けていく


窓を開けることで、私は自分自身を知り

そして、新しい風を感じることができる


心の窓を開くたびに

新しい私が、そこにいる


香織が詩を読み終えると、会場は静かにその余韻を感じていた。その後、拍手が沸き起こり、彼女は少し照れながらもほっとした表情を見せた。


「すごくいい詩だったよ。心の窓を開くっていう表現が、まさに詩を書くことそのものだね」

千草は嬉しそうに感想を伝えた。


「ありがとう!初めての発表だったけど、すごく緊張した。でも、詩を書くことがこんなに気持ちを楽にしてくれるんだって実感できたよ」

香織は少し興奮しながら答えた。


次に、参加者たちも一人ずつ自分の詩を読み上げていった。詩を書くことが初めてだという学生も、自分なりの気持ちを詩に込めて発表していた。


一人の男子学生が読んだ詩は、彼の孤独な日々を綴ったものだった。彼の詩には、自分自身と向き合う葛藤や、自分を理解してもらいたいという切実な思いが表れていた。


「孤独の中で」


毎日、同じ日々が繰り返される

でも、その中で私は一人


人の声が遠く聞こえる中で

私は自分の心に問いかける


「ここにいる意味は何だろう?」

答えはまだ見つからない


でも、静かな心の中で

小さな光が見え隠れしている


その光が、いつか私を導いてくれると

信じている


男子学生が読み終えると、会場はしばらく静かだった。その詩は誰もが感じたことのある孤独感を鋭く表現していて、聞く人の心に強く響いた。


「すごく心に残る詩でした。孤独を感じるときって誰にでもあるけど、その中で小さな光を見つけるっていう考え方が素敵だと思います」

千草は彼の詩に感動し、思わず感想を口にした。


「ありがとう…詩を書くのは初めてだけど、こうして自分の気持ちを言葉にすることで、少しだけ心が楽になった気がする」

男子学生は少し照れながらも感謝の気持ちを伝えた。


その後も、参加者たちの詩が次々と発表され、詩を通じてそれぞれが自分自身と向き合い、他者と繋がる瞬間が続いた。詩の発表会は大成功に終わり、参加者たちはそれぞれが新たな詩の魅力を感じていた。


発表会の後、千草と香織は会場を片付けながら、心からの満足感を感じていた。


「今日は本当に楽しかったね。みんなの詩を聞いて、私ももっと詩を書きたくなったよ」

香織が嬉しそうに言った。


「うん、私も。詩を書くことが、こんなにも多くの人と繋がるきっかけになるなんて改めて実感したよ。これからも詩を通じていろんな人と出会いたいね」

千草も同じ気持ちだった。


こうして、詩の発表会は成功を収め、千草と香織は新たな仲間と共に、詩を書く喜びを共有できる場を作り上げた。詩が導く出会いと成長の物語は、これからも続いていく。


詩を書くことで新たな絆が生まれ、詩が人々の心をつなぎ、広がり続ける――千草はそう信じて、これからも詩を書き続けることを決意していた。

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