第28話 詩の力で心を癒す

詩の朗読イベントが無事に成功し、ポエムの会のメンバーたちは新しい経験に満足していた。しかし、その後も詩に対する探求心は止まることなく、彼らは次に何ができるかを考え始めていた。


ある日、千草は佐奈が何かに悩んでいる様子に気づいた。いつもは静かに自分の詩を書いている佐奈だったが、この日は何度もノートを閉じたり開いたりして、考え込んでいるように見えた。


「佐奈ちゃん、どうかしたの?」

千草は優しく声をかけた。


佐奈は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにため息をついて小さな声で答えた。


「実は、最近ちょっと家のことが気になっていて…。あんまり詩を書く気分になれなくて」


千草は心配そうに佐奈の話を聞いた。


「家で何かあったの?」


「うん…。両親が最近よく喧嘩していて、家の中が落ち着かなくて。前はもっと穏やかだったのに、どうしてこんな風になっちゃったんだろうって、私も不安で…」

佐奈はそう言いながら、寂しそうに目を伏せた。


「そっか…。それはつらいよね」

千草は佐奈の気持ちに共感しながら、彼女を励ました。


「でもね、佐奈ちゃん。こういうときこそ、詩を書くことで気持ちを整理できるんじゃないかな?私も不安なことがあるとき、詩を書くことで少し心が落ち着くことがあるんだよ」


佐奈はしばらく考えていたが、少しだけうなずいた。


「確かに…。今まで詩を書いていると、少し気持ちが軽くなったこともあったかも。でも、今はその詩すら書けなくて」


「無理に書こうとしなくてもいいんだよ。でも、自分の気持ちを誰かに伝えたいと思ったとき、その言葉を詩にすることはすごく大切なことだと思うよ。私も何か手伝えたら嬉しいな」

千草は優しく微笑みながら言った。


その後、千草と佐奈は一緒に詩を書いてみることにした。無理に詩を書くのではなく、まずはお互いに最近感じていることや、抱えている気持ちについて話し合った。佐奈は最初は戸惑っていたが、千草の支えがあることで次第に自分の心を開くようになった。


「詩を書くことって、自分の気持ちを言葉にするための手段なんだよね。だから、今感じていることをそのまま書いてみればいいんだ」

千草はそうアドバイスし、佐奈にゆっくりとノートを渡した。


佐奈はしばらく悩んでいたが、やがてノートにペンを走らせ始めた。書いているうちに、少しずつ自分の感情が整理されていくのを感じた。彼女の中に溜まっていた不安や寂しさが、言葉となって形を成していった。


「静かな心の中で」


静かな心の中に

小さな波が立つ


その波は、不安と寂しさを運んできて

私の心をかき乱す


でも、静けさの中で耳を澄ませば

少しずつ波は落ち着いていく


心の中には、まだ穏やかな場所がある

そこにたどり着くまで、私はただ

静かに歩みを進めるだけ


佐奈が詩を書き終えると、千草はその詩を優しく読み上げた。


「すごく素敵な詩だね。佐奈ちゃんの心の中が、言葉にしっかりと表れていて。読んでいて、心が落ち着く感じがするよ」


佐奈は少し照れながらも、「ありがとう…少しだけ気持ちが楽になったかも」と微笑んだ。


「詩を書くことで、少しでも心が軽くなるなら、それが一番大事だよ。辛いときは無理に明るく振る舞わなくてもいいんだから」

千草はそう言って、佐奈を励ました。


「うん、そうだね。ありがとう、千草ちゃん。少しだけ自分の気持ちを受け入れられた気がする」

佐奈は感謝の気持ちを込めて千草に微笑み返した。


その日の帰り道、千草と佐奈は一緒に歩きながら、詩について話を続けた。


「詩を書くことって、やっぱり自分の心を見つめる手段なんだね。今までは、ただ感情を言葉にするだけだと思ってたけど、書くことで少し心が整理できるって感じたよ」

佐奈は自分の詩についてそう振り返った。


「そうだね。詩を書くことで、誰かに自分の気持ちを伝えることもできるし、自分自身を癒すこともできる。私も詩を書きながら、少しずつ自分の気持ちを整理してるんだ」

千草は優しく答えた。


「詩って、やっぱりすごい力を持ってるんだね…」

佐奈は少し驚いたように呟いた。


「うん、詩には言葉以上の力があるよ。自分の心を癒したり、誰かと繋がったりできるんだから」


佐奈はその言葉を噛みしめながら、これからも詩を書き続けていこうと心に決めた。詩を書くことで、自分の心を少しずつ解きほぐし、また前に進んでいける。そんな希望を抱きながら、彼女は千草と共に歩いていた。


その後、佐奈はポエムの会での活動を通じて、自分の感情を詩で表現することをさらに深めていった。詩を書くことで、彼女は自分の心に向き合い、そしてそれを乗り越えていく力を少しずつ身につけていった。


詩はただの言葉ではなく、人の心を癒す力を持っている。それを実感した佐奈は、これからも詩を通じて自分と向き合い、仲間たちと共に成長していくことを決意した。


ポエムの会の活動は、これからも続いていく。詩を書くことで心を癒し、詩を通じて互いに支え合う彼らの物語は、ますます深まり、広がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る