第27話 北村の挑戦

ポエムの会のメンバーがそれぞれの未来について詩を通して向き合い始めた頃、北村がひそかに新たな挑戦を考えていることが分かってきた。彼は詩を書くことを通じて自分の心を整理し、自分の感情をより深く理解することができたが、次のステップに進みたいという気持ちが芽生え始めていた。


ある日の放課後、北村は千草に相談を持ちかけた。


「千草さん、ちょっと話したいことがあるんだけど…」


「もちろん、どうしたの?」

千草は優しく声をかけながら、北村の表情を見た。彼は少し緊張しているように見えたが、真剣な顔をしていた。


「実は、最近考えてることがあって…詩を朗読するイベントを開いてみたいんだ」


「詩の朗読イベント?」

千草は驚いた。北村が新しい挑戦を考えていることを感じ取ったが、具体的にそれが「朗読」だとは予想していなかった。


「うん。文化祭での詩作コーナーがすごく楽しくて、みんなと詩を共有することの楽しさをもっと広めたいと思ったんだ。それで、みんなの詩を朗読して、詩の持つ力をもっとたくさんの人に伝えられたらいいなって思って」


千草はその言葉を聞いて感動した。北村が自分の詩を通して感じたことを、他の人にも伝えたいという情熱を持っていることが伝わってきた。


「それってすごく素敵なアイデアだよ!私も賛成!詩をみんなに朗読することで、もっと直接心に響くんじゃないかな」


千草の賛同を得て、北村の目は輝いた。「ありがとう、千草さん。みんなに声をかけてみようと思うんだ。ポエムの会で一緒にやってみない?」


次の日、北村はポエムの会のメンバー全員に詩の朗読イベントを提案した。最初は少し戸惑いの表情を見せた部員たちだったが、北村の熱意を感じて次第に賛同の声が広がっていった。


「面白そうだね!詩を朗読するって、普段とはまた違った表現になりそう」

麗美が興味深そうに言った。


「言葉に声を乗せると、さらに強く感情が伝わるよね。私はやってみたいな」

佐奈も少し照れながらも賛成した。


健太も頷きながら、「詩の朗読って緊張するかもしれないけど、だからこそ挑戦する価値があると思う。北村くん、すごいアイデアだね!」と褒めた。


こうして、ポエムの会は詩の朗読イベントを企画することになった。開催場所は学校内の小さなホールに決まり、メンバーたちはそれぞれ、自分が朗読する詩を選ぶ準備に取りかかった。


準備期間の間、北村は自分が朗読する詩を何度も練習していた。彼は、詩を書くことに対しては自信を持てるようになってきたが、実際に声に出して感情を表現することに少し不安を感じていた。しかし、詩を通して伝えたい思いがあったため、その気持ちが彼を前に進ませていた。


千草もまた、自分の詩を選び、朗読の練習をしていた。彼女が選んだ詩は、以前に書いた「未来の風景」という詩だった。未来に対する不安と希望を詩にしたものだが、それを声に出して読むことで、自分の心の中にある感情がさらに鮮明になるのを感じていた。


そして、ついに詩の朗読イベント当日がやってきた。ポエムの会のメンバーたちはホールに集まり、少し緊張しながらも、それぞれの朗読に向けて気持ちを整えていた。会場にはクラスメートや先生たち、さらには学校の外から来た観客もちらほらと座っていた。


北村が最初にステージに立つことになっていた。彼は深呼吸をしてから、ゆっくりと自分の詩を読み上げ始めた。


「風の導き」


風が吹くたびに、私は考える

その風は、私をどこへ運ぶのだろうか


不安と期待が入り混じる中で

私はただ、風に身を委ねる


でも、風は優しく、そして確かに

私を新しい道へと導いてくれる


その道の先に何が待っているか

私はまだ知らないけれど


今はただ、その風に乗って

未来へと進んでいこう


北村の声は最初は少し震えていたが、詩を読み進めるうちに次第に落ち着き、感情が言葉に乗って会場に響き渡った。彼の詩には、未来への不安と希望が織り交ぜられたリアルな感情が込められており、それが観客にしっかりと伝わった。


朗読を終えると、会場から大きな拍手が湧き上がり、北村は少し照れくさそうに微笑んでステージを降りた。


「すごく良かったよ、北村くん。感情がすごく伝わってきた」

千草が優しく声をかけると、北村はほっとした表情で頷いた。


「ありがとう。緊張したけど、やっぱりやって良かったよ。詩を声に出して伝えるのって、また違った楽しさがあるね」


その後、他のメンバーも次々に朗読を行い、観客たちは詩の世界に引き込まれていった。千草が朗読した「未来の風景」も、柔らかな声で未来への希望と不安が丁寧に語られ、会場の空気を一変させた。彼女の詩は、聞く人の心に温かさを残した。


詩の朗読イベントは無事に成功し、ポエムの会のメンバーたちは自分たちの新たな挑戦を成し遂げたことに満足感を感じていた。詩を通じて、自分の感情や思いを声に乗せて伝えること。それが、言葉だけでは伝わらない感情をさらに深く表現できる方法であることを改めて感じた。


「北村くん、素晴らしい企画をありがとう。みんなで詩を朗読できて、本当に楽しかったよ」

千草は感謝の気持ちを伝えた。


「うん、ありがとう。みんなが協力してくれたおかげだよ。これからも、もっと詩を通じて新しいことに挑戦していきたいな」

北村は笑顔で答えた。


これからもポエムの会のメンバーたちは、詩を通じて新たな挑戦を続けていくことを決意した。詩を書くことで自分自身と向き合い、詩を朗読することで他者とつながる。それが、彼らにとっての成長の道しるべであり、未来への一歩となるのだった。

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