第26話 詩の道しるべ

文化祭が終わり、「詩の手紙」の活動を通じて、それぞれが詩の力を再確認したポエムの会。詩を書くことで感謝の気持ちや心の奥底にある感情を誰かに届けることができると知ったことで、メンバーたちの詩作に対する姿勢はますます真剣になっていた。


ある日の放課後、千草は部室に一人残り、ゆっくりとノートを開いていた。最近、彼女の心の中で新しい疑問が芽生えていた。詩を書くことが自分や仲間たちの心を豊かにしてくれる一方で、将来のことについて考え始めていたのだ。詩を書くことをずっと続けていきたいけれど、それがどのように未来に繋がっていくのかがまだ見えていなかった。


「私、これからどうやって詩を書いていけばいいんだろう…」

千草は窓の外に広がる空を見つめながら、ふと呟いた。


そのとき、部室に健太が入ってきた。彼は千草の様子に気づき、少し気になった様子で近づいた。


「千草さん、どうかしたの?」

健太が優しく声をかけると、千草は少し驚いたように顔を上げた。


「健太くん…。実は、最近将来のことを考えると不安になっちゃって。詩を書くことはすごく好きなんだけど、それがこれからの私にどう繋がるのかが、よくわからなくなって…」


千草は率直に自分の気持ちを打ち明けた。詩を書くことに対する情熱は変わらないけれど、それをどうやって自分の人生に繋げていけばいいのかという迷いがあった。


「そっか…。それって大事な悩みだよね。でも、詩は千草さんの中で特別なものなんだし、無理に答えを急がなくてもいいと思うよ」

健太はそう言いながら、窓の外に視線を移した。


「僕も、将来何をしたいかって具体的にはまだ分からないけど、詩を書くことが僕にとって大切なものだってことは確かなんだ。それだけでも十分なことだと思う」


「詩を書くことが大切なもの…」

千草は健太の言葉に耳を傾け、少し考え込んだ。


「今すぐ答えを見つけなくてもいいんじゃないかな。詩を書くことで自分の気持ちを整理したり、誰かと繋がったりすることで、自然と自分の道が見えてくるかもしれないし」


健太の言葉は、千草の心に響いた。彼は未来をあまり急がず、今を大切にしているように見えた。


「そうだね…。私は、未来のことを考えすぎてたかもしれない。今、詩を書くことが好きだからこそ、焦らなくてもいいのかも」

千草は少し微笑みながら、健太に感謝の気持ちを込めて頷いた。


その後、他の部員たちも次々に部室にやってきて、いつものように詩作に取り組み始めた。今日はみんなで「未来」をテーマにした詩を書いてみようということになり、それぞれが自分の未来や希望、そして不安について詩にしていくことにした。


千草も「未来」というテーマに向き合い、心の中にある不安や希望を言葉にしようとした。健太の言葉に触発され、今は無理に未来を決めなくても、自分のペースで進んでいけばいいのだと感じていた。ゆっくりとペンを走らせ、詩を作り上げていった。


「未来の風景」


未来はまだ見えない

霧がかかったようにぼんやりとしている


その先に何があるのか

どんな景色が広がっているのか

私はまだ知らない


でも、今の自分を大切にしながら

少しずつ進んでいけばいい


風が吹くたびに

新しい道が見えてくるかもしれない


その道の先に待っているのは

私だけの未来の風景


詩を書き終えた千草は、心が少し軽くなった気がした。自分の未来に対する不安は消えたわけではないけれど、今はその不安と向き合いながら前に進めばいいのだと感じた。


「千草ちゃんの詩、すごくいいね。未来に対する柔らかい視点が、読む人に安心感を与える感じがするよ」

麗美が感想を伝えると、千草は照れながらも嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。まだ未来はぼんやりしてるけど、自分のペースで進んでいけたらいいなって思って」


その日、ポエムの会のメンバーたちはそれぞれの「未来」に対する詩を読み合い、未来への希望や不安、そして決意を共有し合った。みんなが未来について悩み、考え、そしてそれを詩で表現することで、自然と互いの心に寄り添い、励まし合うことができた。


千草は、詩を通じて自分を見つめ直すことができたし、これからも詩を書くことで自分自身と向き合い続けるだろう。そして、詩を通じて見つけた仲間たちと共に、未来を少しずつ歩んでいく。詩が彼女にとって道しるべとなり、新たな道を照らしてくれることを感じていた。


その日の帰り道、千草は空を見上げながら心の中で呟いた。


「未来はまだ見えないけど、きっと自分のペースで進めばいいんだよね」


詩が彼女に教えてくれたのは、焦らずに今を生きること。これからも、詩が彼女の心を導いていくに違いない。


ポエムの会の仲間たちと共に、詩が紡ぐ未来への一歩を踏み出す準備はできていた。

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