第23話 詩に導かれる出会い

文化祭が終わってから数日が経ち、ポエムの会の部員たちはそれぞれの日常に戻っていた。文化祭での成功に満足しながらも、千草はふとした瞬間に新しい刺激を求める気持ちを感じていた。詩を通じて多くの人々とつながり、表現の楽しさを味わったからこそ、今後の活動にさらなる深みを持たせたいと考えていた。


ある日の放課後、千草はひとり静かにノートを開いて詩を書いていた。教室に残っていたのは、部室の片付けをしていた健太と麗美、そして新しいメンバーの佳織だけだった。外は少し雨が降っていて、その音が静かな部室に優しく響いていた。


「詩を書くのって、やっぱり落ち着くよね」

千草はノートにペンを走らせながら呟いた。


「うん。特に今日は雨の音が心地よいから、いつもより集中できる感じがする」

麗美も笑顔で答えながら、自分の詩を書いていた。


そのとき、ふいに部室のドアが開いた。誰かが入ってきたのだが、その人物はポエムの会のメンバーではなかった。千草が顔を上げると、そこに立っていたのは同じ学年の男子生徒だった。彼は少し緊張した様子で、教室の様子をうかがっていた。


「ごめん、急に入ってきて。君たちがポエムの会のメンバーだよね?」

その男子生徒は少し戸惑いながら、千草たちに声をかけた。


「そうだよ。どうしたの?」

健太が優しく声をかけた。


「実は、文化祭でポエムの会の展示を見て…すごく感動して。詩を書くのってこんなにも自分の気持ちを整理できるんだって気づいたんだ。それで、もしよかったら、僕も一緒に詩を書かせてもらえないかと思って…」

彼は少し緊張した表情で続けた。


「もちろん!ポエムの会は誰でも歓迎だよ」

千草が微笑みながら答えると、彼はほっとした様子で笑みを浮かべた。


「ありがとう。僕、北村っていうんだ。文化祭の展示で見た詩が、自分にとってすごく響いたんだ。特に、千草さんが書いていた詩が心に残っていて…」


「私の詩?」

千草は驚いたが、北村は真剣な表情で頷いた。


「そう。『風のささやき』っていう詩、あれを読んだとき、まるで自分の心の中を言い当てられたような気がして。それからずっと、自分も詩を書いてみたいと思うようになったんだ」


千草は、誰かの心に自分の詩が届いたことを知り、驚きとともに喜びを感じた。自分が書いた詩が、見知らぬ誰かの心に影響を与えたという事実は、彼女にとって新たな励みとなった。


「そうなんだ…ありがとう。詩って、自分の気持ちを言葉にするだけじゃなくて、それが誰かに届くんだね」


北村は頷きながら、さらに続けた。「僕も、自分の気持ちを詩にしてみたいと思ったんだ。でも、どうやって書けばいいのかよくわからなくて…」


「そんなに難しく考えなくて大丈夫だよ。詩は自由だから、感じたことや思ったことをそのまま書けばいいんだ」

麗美が優しくアドバイスした。


「そうだよ。自分の言葉でいいんだ。自分の気持ちに正直に向き合えば、それが詩になるから」

千草も北村を安心させようと微笑みかけた。


「じゃあ…ちょっと試してみるよ」

北村はノートを取り出し、少し緊張した様子でペンを握った。


しばらくして、北村は自分の詩を書き終えたようだった。彼は少し恥ずかしそうに千草たちにノートを差し出した。


「これ、僕が書いた詩なんだけど…」

彼はそう言って、詩を読み上げ始めた。


「揺れる風の中で」


風が吹くたびに

私の心も揺れ動く


進むべき道は見えない

でも、その風に逆らわずに

私はただ、身を任せている


迷いがあっても

その風は、いつか私を導いてくれるだろうか


揺れる風の中で

私は自分を見つけようとしている


北村が詩を読み終えると、千草たちはしばらく静かにその言葉を受け止めていた。彼の詩には、初めて書くとは思えないほどの深い感情が込められており、その言葉が心に響くものだった。


「すごくいい詩だね」

千草は優しく感想を伝えた。「風に揺れながらも、自分を見つけようとしている気持ちがすごく伝わってくるよ」


「本当に。自分の気持ちを素直に表現できてるし、それが詩の力だと思う」

麗美も感心した様子で頷いた。


「ありがとう。詩を書くのって、こんなに自分の中を整理できるものなんだね。もっと早く始めればよかった」

北村は少し照れくさそうに笑った。


その日、北村は正式にポエムの会に加わることになった。彼はまだ詩を書くことに慣れていなかったが、仲間たちの励ましを受けながら少しずつ自分のスタイルを見つけていくことを決意した。


それから数週間、ポエムの会は北村を迎え入れてますます活気づいていった。新しい仲間が増えたことで、詩の世界がさらに広がり、彼らの絆も深まっていった。詩を書くことは、ただ言葉を並べるだけでなく、互いの心を感じ取り、共有する特別な時間となっていた。


千草は、詩を通じて新しい仲間との出会いが生まれたことを心から嬉しく感じていた。これからもポエムの会での活動を続けることで、自分たちの詩がさらに多くの人に届くことを願いながら、彼女は新たな挑戦に向けて心を弾ませていた。


詩を書くことで、仲間とつながり、新しい自分を見つけていく――。ポエムの会は、これからもそんな出会いと成長を繰り返しながら、詩の世界を広げ続けていくだろう。

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