第22話 文化祭での新しい挑戦

文化祭が近づく中、ポエムの会では新しいアイデアが飛び交っていた。今年の文化祭では、これまでのように同人誌を作るだけでなく、何か新しい挑戦をしたいとメンバーたちが話し合っていた。ポエムの会にとって、詩を通じての表現をさらに広げるための絶好の機会だった。


「去年は同人誌の販売をして成功したけど、今年は何かもっとインタラクティブなことができたらいいよね」

健太が提案すると、他の部員たちも考え込んだ。


「インタラクティブって、どういうこと?」

佐奈が尋ねると、健太は少し笑いながら説明を続けた。


「例えば、みんなで一緒に詩を書けるコーナーを作るとか、来場者に詩を披露してもらうっていうのはどうかな?詩を書くのって特別な人だけのものじゃなくて、誰でもできるってことを感じてもらえるようにしたいんだ」


「それ、面白そう!自分で詩を書くなんて考えたことがない人にも、詩の楽しさを伝えられるかも」

麗美が興奮した様子で声を上げた。


「詩のワークショップみたいなものをやるってことだね。いいアイデアだと思う!」

千草も賛成の意を示し、部員たちは次々にアイデアを出し始めた。


「来場者に好きな言葉を選んでもらって、それを詩にまとめるコーナーも作れたらいいかも」

佐奈が言うと、みんなが「それいいね!」と声を揃えて喜んだ。


「じゃあ、詩のテーマもいくつか用意して、それを選んでもらって詩を作るとかどう?」

千草も新しい提案をし、話し合いは盛り上がっていった。


文化祭当日、ポエムの会は大忙しだった。部員たちがそれぞれ役割を分担し、会場の準備を進めていった。教室の一角には「詩作コーナー」が設けられ、来場者が自由に詩を書くことができるようになっていた。また、部員たちが個々の詩を紹介する小さな展示スペースも用意されており、昨年の同人誌や新作の詩も紹介されていた。


「いよいよだね。どんな反応が来るか楽しみだな」

健太が胸を高鳴らせながら言うと、千草も笑顔で頷いた。


「きっとみんな楽しんでくれるよ。私たちもいっぱいサポートしようね」


やがて来場者が次々に訪れ、詩作コーナーはすぐににぎわい始めた。来場者の多くは、詩を書くことに興味があっても実際に書いたことがないという人たちだったが、ポエムの会のメンバーたちが優しくアドバイスをしながらサポートしていた。


「初めて詩を書いたけど、意外と楽しいかも」

一人の来場者がそう言って帰ると、部員たちは嬉しそうに顔を見合わせた。


「詩って、こんなに自由に書けるんだね」

他の来場者も、自分で書いた詩を満足げに眺めていた。


その日の午後、佳織は教室の片隅で一人、詩作コーナーを見守っていた。彼女はこの活動を通じて、自分が詩を書き始めたころのことを思い出していた。詩を書くことで自分の気持ちを表現できることに気づき、それがどれだけ心を軽くするかを経験してきた佳織にとって、この文化祭は特別な意味を持っていた。


「佳織さん、どうしたの?」

千草が佳織のそばにやってきて尋ねた。


「なんだか、詩を書くってやっぱり素敵なことだなって思ってたんだ。自分の気持ちや思いを言葉にすることで、少しずつ自分の居場所が見つかっていくんだなって感じて」

佳織は穏やかに微笑んだ。


「うん、私もそう思うよ。詩って、自分の心を整理する方法でもあるし、誰かとつながる手段にもなるんだよね。こうやってみんなと共有することで、それがさらに広がる気がするんだ」

千草も優しく微笑んだ。


その時、教室に入ってきた一人の来場者が、詩作コーナーで何かを書き始めた。年配の男性で、少し緊張した様子だったが、書き終えると「これでいいかな?」と千草に差し出した。


千草はその詩を読み、心にじんわりとした温かい感情が広がった。


「遠い記憶」


時は流れ、風が吹くたびに

私は昔の記憶を思い出す


遠くに見えるあの景色は

今も変わらずそこにあるのだろうか


忘れかけた思い出は

今も私の中に残っていて

その記憶が、私を優しく包み込む


「すごく素敵な詩ですね。懐かしさと温かさが感じられます」

千草が感想を伝えると、その男性は少し照れくさそうに微笑んだ。


「ありがとう。詩を書くのは初めてだけど、こうやって自分の気持ちを言葉にするのはいいものだね」


文化祭はその後も大成功を収め、ポエムの会の新しい挑戦は多くの人々に詩の魅力を伝えることができた。来場者たちが自分の気持ちを詩にして共有することで、詩を書くことの楽しさや感動を改めて感じることができた。


文化祭が終わったあと、部員たちは教室に集まって片付けをしていた。千草はみんなの様子を見ながら、心の中で新たな決意を抱いていた。


「これからも、詩を書くことで誰かの心に届くような活動を続けていきたいな」

彼女は静かに自分にそう言い聞かせた。


ポエムの会は、詩を通じて多くの人々とつながり、仲間たちと共に成長していく。詩を書くことで、自分の心を解放し、誰かと共有することで生まれる新しい絆。それが、これからの彼らの活動にさらなる意味を与えていくのだった。


これからも、ポエムの会の挑戦は続いていく。詩を書くことで、世界に小さな温かさを届けるために。

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