第21話 詩の中の居場所

佳織がポエムの会に加わり、部員たちはますます活気づいていた。詩を書くことは個人の内面を表現する手段であり、仲間との共有が絆を深めるものだと感じていた。佳織も新しいメンバーとして慣れてきたが、一方で自分の居場所を見つけるために少し戸惑っている様子が見え隠れしていた。


ある日の放課後、千草は佳織が一人で窓の外を見ているのに気づいた。いつもみんなと一緒に詩を書いている佳織だったが、その日は何か考え込んでいるように見えた。


「佳織さん、どうしたの?何か悩んでる?」

千草はそっと声をかけた。


佳織は驚いたように振り返り、少し恥ずかしそうに笑った。「あ…千草ちゃん。実はね、最近ちょっと詩を書くのが難しく感じてるんだ」


「そうなの?でも、いつも素敵な詩を書いてるよ」


「ありがとう。でも、私、まだ自分の詩のスタイルが見つからないんだ。みんなはそれぞれの個性があって、それが詩に表れているけど、私はどんな詩を書けばいいのか迷ってしまうの」

佳織は少し悩んだ表情を浮かべながら、自分の気持ちを打ち明けた。


千草はその気持ちに共感した。自分も最初は、どんな詩を書けばいいのか分からず、言葉に迷うことが多かったことを思い出した。


「私も最初はそうだったよ。みんなの詩を読むと、自分が劣っているように感じたり、自分らしい表現が何なのか分からなくなったりして。でも、少しずつ自分の心に向き合っていくうちに、自分の言葉が見つかるようになったんだ」


「自分の言葉…」

佳織は静かに千草の言葉を噛みしめていた。


「無理にみんなと同じじゃなくてもいいんだよ。自分が感じたことを大切にして、その気持ちを詩に込めれば、それがきっと佳織さんのスタイルになるよ」


千草の優しい言葉に、佳織は少しだけ安心した表情を浮かべた。


「ありがとう、千草ちゃん。私も少しずつ、自分の心に向き合ってみるね」


その日、佳織は自分のノートを開き、自分の気持ちに正直に向き合いながら詩を書き始めた。彼女にとって、詩を書くことはまだ新しい挑戦だったが、千草の励ましが彼女の心を軽くし、少しずつ自分の詩を見つける手助けをしてくれた。


次の日、ポエムの会のメンバーはいつものように集まり、それぞれが最近書いた詩を持ち寄った。佳織もその日、自分が書いた新しい詩を持ってきていた。彼女はまだ少し不安そうな表情をしていたが、千草や他のメンバーの温かい視線が、彼女に勇気を与えた。


「みんなに聞いてほしい詩があるんだけど…」

佳織は少し緊張しながらも、自分の詩を読み始めた。


「心の居場所」


どこにいるのだろう

私の居場所は


風が吹くたびに

私は揺れ動き

自分の足元が見えなくなる


でも、ふと気づく

その風に逆らう必要はないことを


私の居場所は、風の中にある

揺れ動く私自身を受け入れて

そのままでいいんだと


私はこの風の中で

少しずつ自分の足元を見つけていく


読み終えると、しばらくの静寂が流れた。その後、健太が優しく口を開いた。


「佳織さんの詩、とても素敵だよ。自分の居場所を探している気持ちがすごく伝わってくる。風に揺れながらも、その中に自分の居場所を見つけるっていう考え方がいいね」


「うん、私もすごく共感したよ。自分の居場所を見つけるって、簡単じゃないけど、少しずつ見えてくるものなんだよね」

麗美も感想を伝えた。


「ありがとう、みんな」

佳織は少し恥ずかしそうにしながらも、心からの感謝を口にした。彼女の中で、詩を書くことが少しずつ楽しくなってきたのを感じていた。


千草も微笑みながら、「佳織さんの詩、すごく心に響いたよ。自分の居場所を探しているって、きっとみんなも同じ気持ちだと思う。だからこそ、詩を通じてそれを表現するのが大事なんだよね」と声をかけた。


佳織はその言葉に励まされ、これからも詩を書き続けようと決意した。自分の言葉で、自分の心を表現する。詩を書くことが、彼女にとって新しい居場所になっているのだと感じた。


その日の帰り道、千草と佳織は一緒に歩きながら、これからのことを話していた。


「私、少しずつだけど、詩を書くことで自分の居場所が見つかりそうな気がしてるんだ」

佳織は穏やかに微笑んだ。


「そうだね。詩を書くことで、自分の心の中にある居場所が見つかることもあるんだと思う。私も、ポエムの会が私の居場所だって感じてるよ」

千草は優しく答えた。


「ありがとう、千草ちゃん。これからも、一緒に詩を書いて成長していこうね」


「もちろん!これからも一緒に頑張ろう」


二人はお互いに励まし合いながら、これからの詩作に向けて前を向いて歩き続けた。詩を書くことで、仲間との絆がますます深まり、それぞれが自分の居場所を見つけていく日々が続いていく。


ポエムの会に集う仲間たちの物語は、これからも続いていく。そして、詩を通じて互いの心に触れ合い、成長し続けるその日々が、彼らにとってかけがえのないものとなっていくのだった。

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