第18話 佐奈の挑戦
「変化」をテーマにした詩作が進む中、千草は佐奈の様子が少し気になっていた。以前よりも自信を持って詩を書き、部員たちと積極的に交流するようになった佐奈だったが、どこか迷いを抱えているような表情を浮かべることがあった。
ある放課後、千草は思い切って佐奈に声をかけた。
「佐奈ちゃん、最近どう?詩を書くの楽しめてる?」
佐奈は少し驚いた表情をしたが、すぐに微笑んで答えた。
「うん、楽しいよ。でも…まだ少し難しいって感じることがあるんだ」
「難しいって、どういうこと?」
千草は優しく問いかけた。
「私、ずっと一人で詩を書いてたから、みんなと共有することに慣れていないんだ。ポエムの会ではすごく楽しいし、みんなも優しくて励ましてくれるんだけど、自分の詩が本当にいいのか、まだよく分からないの」
佐奈は不安げに言葉を紡いだ。
「そうなんだね…」
千草は、佐奈の気持ちに共感しながら、しばらく考えた。自分の詩に対する自信が揺らぐことは、千草自身も経験してきたことだった。
「でもね、佐奈ちゃんの詩はすごく素敵だよ。シンプルだけど、感情がすごく伝わってくるし、私はいつも心に響いてるんだ」
佐奈は少し驚いたように千草を見つめた。
「本当にそう思う?」
「うん、本当にそう思うよ。詩って、上手い下手だけじゃないと思うんだ。自分の気持ちを正直に表現することが大事だと思う。佐奈ちゃんの詩には、その正直さがちゃんと詰まってるから、私はすごく好きなんだ」
千草の言葉に、佐奈は少しずつ表情を和らげた。
「ありがとう、千草ちゃん。そう言ってもらえると、少し自信が持てるかも」
「うん、無理にみんなと比べる必要なんてないよ。自分らしい詩を書けば、それが一番大切だから」
佐奈は静かに頷いた。そして、少し考え込んだようにしてから、千草に提案をした。
「ねえ、千草ちゃん。今度、私たち二人で一緒に詩を書いてみない?テーマを決めて、お互いに詩を書いてみるの」
千草はその提案に驚いたが、すぐに楽しそうだと感じた。
「それ、すごく面白そう!一緒にやってみようよ!」
二人はすぐにノートを取り出し、テーマを決めることにした。しばらく考えた末、佐奈がふと思いついた。
「『夜空』ってどうかな?私は夜の静けさが好きだから、夜空をテーマにしてみたいんだ」
「いいね!夜空って、いろんな感情を表現できそう」
二人は早速それぞれの詩を書き始めた。千草は、夜空を見上げたときに感じる広がりや無限の可能性を詩に込めようとした。一方で、佐奈は夜の静けさと心の落ち着きをテーマに、繊細な感情を表現する詩を考えていた。
しばらくして、二人はお互いの詩を交換して読み合った。
千草の詩「夜空の広がり」
夜空に広がる星々
その一つ一つが、無数の世界を照らす
見上げるたびに感じる
自分の小ささ、そして世界の大きさ
でも、その小さな私にも
輝ける星があるかもしれない
夜空は無限に広がり
その中に、私の夢も隠れている
佐奈の詩「静けさに包まれて」
夜空が広がると
世界は静かになる
その静けさの中で
私の心もまた、静かに息をする
夜の冷たい風に吹かれながら
私はただ、この瞬間を感じる
何も言わなくても
この夜が私を包んでくれるから
お互いの詩を読み終えたあと、二人はしばらく沈黙していたが、自然と笑顔がこぼれた。
「千草ちゃんの詩、すごく前向きで元気がもらえるね。夜空の広がりが、まるで自分の可能性みたいに感じられる」
「佐奈ちゃんの詩も素敵だよ。静けさの中に、深い感情が感じられて、読んでいて落ち着くんだ」
二人はそのまま、詩に込めた思いや感情について話し合った。お互いの詩を読むことで、さらに深い理解が生まれ、二人の絆が一層強くなったように感じた。
「詩を書くのって、やっぱり楽しいね」
佐奈は静かに微笑みながら言った。
「うん、一緒に書くともっと楽しいよね」
千草も笑顔で答えた。
その日、二人は一緒に詩を書く楽しさを再確認した。佐奈にとって、これは大きな挑戦だったが、千草の励ましと共に自分の詩に自信を持つことができた。
これからも、二人はお互いの詩を支え合いながら成長し続けるだろう。詩を書くことで感じる喜びと、仲間との絆が、千草と佐奈にとってかけがえのないものとなっていくのだった。
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