第16話 部長の励まし

ポエム発表会が終わり、千草やポエムの会の部員たちは達成感と安堵感に包まれていた。会場での拍手や笑顔、仲間たちとの絆がさらに深まったことが感じられ、発表会は成功といえるものだった。しかし、千草は一方で心に少し引っかかるものを感じていた。


「やっぱり、もっと自分の詩に自信を持てるようにならなきゃいけないな…」

発表会での経験は貴重だったが、自分の朗読が観客に十分に伝わったのか、不安が拭いきれなかった。部員たちは大成功を喜んでいる一方で、千草はまだ自分の力不足を感じていた。


そんなある日、千草は部活が終わったあとに健太と二人きりで話す機会があった。健太は発表会でリーダーシップを発揮し、全員をまとめながらも、自分の詩も見事に披露していた。彼は千草にとって頼りになる存在であり、同時に自分とは違う自信を持った人間だと感じていた。


「健太くん、ちょっと話がしたいんだけど…」


「もちろん、どうしたの?」

健太はいつもの穏やかな笑顔で答えた。


「実は…発表会が終わってから、私、自分の詩に自信が持てなくて。みんなみたいに力強く言葉を伝えられたのか、不安なんだ。私の詩って、他の人に響いたのかな…」


千草は自分の気持ちを正直に打ち明けた。健太はしばらく黙って彼女の話を聞き、ゆっくりと口を開いた。


「千草さん、自信がないって感じてるんだね。でも、僕から見たら、君の詩はすごく素敵だったよ。君の詩には、他の人にはない優しさや繊細さがあって、それがしっかりと伝わっていたと思う」


「でも、私の言葉はどこか弱い気がして…健太くんみたいに力強く伝えることができなかったんじゃないかって、心配で…」


千草の不安は、詩そのものだけでなく、自分の存在そのものに対する不安にもつながっていた。彼女はいつも周りの評価や、他の人たちとの違いに敏感だった。


健太は、しばらく考えるように千草を見つめたあと、静かに言葉を紡いだ。


「千草さん、詩は力強く読むことが全てじゃないよ。詩は、その人の心を映し出す鏡だから、無理に誰かと比べる必要なんてないんだ。君の詩は、君だからこそ書けたもので、その言葉の柔らかさや静けさが、観客に響いたと思うよ」


健太の言葉に、千草は少し驚いた。彼は、詩の伝え方に正解がないということを教えてくれた。力強く伝えることも大切だが、それだけが詩の魅力ではないのだ。千草は、自分が持つ詩のスタイルに自信を持つことが大切だと気づき始めた。


「君の詩は、風のような優しさを持っている。それは僕にはできないことだよ。だから、自分の詩の持つ力を信じていいんだ」

健太は微笑みながら、千草にそう励ました。


「…ありがとう、健太くん。私、自分の詩がもっと大切に感じられるようになったよ。誰かと比べるんじゃなくて、自分らしく書けばいいんだね」


千草は、自分に向けられた優しい言葉に感謝しながら、自信を少しずつ取り戻し始めた。


「そうそう、それが一番大事なんだ。君には君の表現がある。それを大切にし続けてほしいな」

健太の言葉は、千草の心の中にしっかりと届いた。


その日、千草は自分の詩の力を改めて信じることができた。そして、健太の励ましが、彼女にとって大きな支えとなったことを感じた。


帰り道、千草は澄んだ夕暮れの空を見上げながら、心の中で決意を新たにした。これからも自分の言葉を大切にし、詩を通じて自分の感情を表現していこう。そして、誰かの心に少しでも響く詩を、これからも書き続けたい。


ポエムの会での新たな活動に向けて、千草の心は再び前を向いていた。仲間たちと共に、そして自分らしい詩を大切にしながら、彼女はこれからも成長し続けるだろう。

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