第15話 発表会での小さな挑戦

発表会当日がやってきた。ポエムの会の部員たちは朝早く学校に集まり、会場となる教室の準備を進めていた。教室にはステージが設置され、椅子が並べられていた。窓から差し込む柔らかな光が、緊張している部員たちを優しく包み込んでいるようだった。


「いよいよだね」

千草はステージの後ろで、麗美や佐奈と共に自分の詩を練習していた。何度もリハーサルを重ねてきたものの、本番はやはり特別な緊張感がある。


「うん…でも、みんなと一緒なら大丈夫だよね」

佐奈はまだ少し不安そうな顔をしていたが、以前に比べると少しずつ自信を取り戻しているようだった。


「そうだよ。今日の発表会は、私たちの詩を直接みんなに伝えるための大切な場だし、自分らしくやればきっと伝わるよ」

麗美が佐奈の肩に手を置いて励ました。


発表会の開演時間が近づくと、教室には生徒や先生、さらには地元の住民たちが集まってきた。ポエムの会がこうして正式に詩を発表するのは初めての試みだったため、会場は次第にざわついてきた。


「緊張するね…」

千草は自分の手が少し震えているのを感じながら、深呼吸をして心を落ち着かせようとした。


「みんな大丈夫。僕たちの詩をそのまま届けるだけだよ」

健太が笑顔で声をかけた。部長として、彼は常に冷静で、部員たちに安心感を与える存在だった。


いよいよ発表会が始まり、健太がステージに立った。


「今日はポエムの会による詩の発表会に来ていただき、ありがとうございます。僕たちは、詩を書くことで自分の思いや感情を表現してきました。今日はその一部を、皆さんに直接お届けしたいと思います。どうぞ最後までお楽しみください!」


会場に拍手が響く中、発表が始まった。最初に健太が自信満々に詩を朗読し、その力強い言葉が会場に響き渡った。次に麗美が登場し、優しい言葉で観客の心を温かく包み込む詩を読み上げた。


そして、千草の番がやってきた。ステージに立った瞬間、彼女は一瞬観客の顔を見た。そこには見知らぬ人たちもいたが、部員たちが温かい目で見守っているのを感じた。


「大丈夫、これまで書いてきた詩をそのまま伝えればいい」


千草はそう自分に言い聞かせ、深呼吸をした。そして、静かに詩を読み始めた。


「風のささやき」


風がそっと私の耳元でささやく

静かな声で、遠い記憶を呼び覚ます


その声に応えるように

私の心もまた、風に乗る


風は自由だ

私の中の不安も、喜びも

全てを包み込み、遠くへ運んでくれる


千草は自分の声に感情を込めて、ゆっくりと詩を読み上げた。ステージ上では緊張していたが、詩を読み進めるうちに、その緊張が少しずつ和らいでいった。風のイメージが頭の中に広がり、言葉が自然と流れるように出てきた。


詩を読み終えた瞬間、会場にはしばらくの静寂があったが、すぐに温かい拍手が響いた。千草はほっと胸をなでおろし、ステージから降りた。


「よかったよ、千草ちゃん。すごく心に響いたよ」

麗美が優しく声をかけた。


「ありがとう。すごく緊張したけど、なんとか最後まで読めたよ」

千草は少し笑顔を見せた。


最後に佐奈がステージに立った。彼女はまだ少し緊張しているようだったが、深呼吸をしてから自分の詩を読み始めた。


「夜の呼吸」


夜が深まると、世界は静かになる

その静けさの中で、私の心もまた

静かに息をしている


夜は優しい、けれども冷たい

その間にある感情を、私は感じる


夜の呼吸に耳を澄ませば

私はまた、今日という日を思い出す


佐奈の声は最初は少し震えていたが、詩を読み進めるうちに落ち着きを取り戻し、最後には自信を持って言葉を届けることができた。詩が終わると、会場から大きな拍手が湧き上がった。佐奈は目に涙を浮かべながら、ステージを降りてきた。


「佐奈ちゃん、すごくよかったよ!最後までしっかり読めたね」

千草が涙ぐむ佐奈を抱きしめると、彼女も少し笑顔を見せた。


「ありがとう…本当に緊張したけど、やっぱり詩を伝えるって素晴らしいことだね」


発表会は無事に終わり、部員たちはそれぞれの詩を声で届けることができた。言葉に込めた感情が観客にも伝わり、部員たちは達成感とともに新たな自信を得た。


千草は、自分の詩が他人に響く瞬間を体験し、詩の持つ力を改めて感じた。そして、仲間たちと共に挑戦したこの経験が、彼女の心に大きな意味を持つことになるのだった。


これからも千草は、詩を通じて自分の思いを伝え続けていくことを心に誓い、ポエムの会での新たな活動に思いを馳せていた。

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