第14話 ポエム発表会の準備

文化祭での同人誌販売が大成功を収めたあと、ポエムの会では新たな挑戦に向けて動き出していた。それは、学校内での「ポエム発表会」だった。文化祭では同人誌を通じて詩を多くの人に届けることができたが、今回は自分たちの声で詩を朗読し、言葉そのものを直接伝えるという企画だった。


「発表会って、どんな感じにするの?」

部室に集まった部員たちの前で、千草が健太に尋ねた。


「朗読会みたいにして、みんなが自分の詩を一つずつ読み上げるんだ。詩を書くときの感情や、どんな思いを込めたのかを説明しながら、自分の声で伝えるのがポイントだよ」

健太は熱心に説明した。彼の目はいつも以上に輝いており、この企画に対する強い思いが伝わってきた。


「うわぁ、朗読するのか…」

佐奈は少し不安そうに眉をひそめた。彼女は自分の詩を読むことに自信がなかったようで、心配そうにノートを握りしめていた。


「大丈夫だよ、佐奈ちゃん。みんな一緒だからさ」

麗美が優しく励まし、佐奈も少しだけ安心したように微笑んだ。


「私も緊張するけど、みんなでやれば楽しいよね!」

千草も佐奈を安心させようと、自分の気持ちを伝えた。朗読は、彼女にとっても大きな挑戦だった。詩を人前で読むのは、言葉を共有する以上に、自分の心をさらけ出すようなものだからだ。それでも、仲間たちと一緒ならば、それができるかもしれないと思っていた。


発表会までの準備期間、部員たちはそれぞれが自分の詩を選び、読み方や表現方法を考えた。発表会は、ただ詩を読むだけではなく、感情をどう伝えるかも重要なポイントだった。言葉のトーンや間の取り方、どこで強調するかなど、細かい部分まで工夫することが求められた。


ある日、部室ではリハーサルが行われていた。部員たちは一人ずつ前に出て、自分の詩を朗読し、みんなからフィードバックをもらうという練習だった。千草の順番が来ると、彼女は緊張しながらも、用意した詩を声に出して読み始めた。


「風のささやき」


風がそっと私の耳元でささやく

静かな声で、遠い記憶を呼び覚ます


その声に応えるように

私の心もまた、風に乗る


風は自由だ

私の中の不安も、喜びも

全てを包み込み、遠くへ運んでくれる


千草は声に感情を込めながら、ゆっくりと詩を読み終えた。読み終えた後、少し緊張してみんなの反応を待っていたが、部員たちは温かい拍手を送ってくれた。


「すごく良かったよ、千草ちゃん!風の柔らかい感じがすごく伝わってきたし、感情が自然に入っていたよ」

麗美が真っ先に声をかけてくれた。


「うん、すごく聞きやすかった。自然なリズムで詩が流れていて、聴いてて心地よかったよ」

健太も笑顔で褒めてくれた。


千草はホッとしながら、自分の読み方に自信を持ち始めた。自分の言葉を声に出して伝えることが、これほど心地よいものだとは思っていなかった。詩を通じて、自分の心の中を共有できる瞬間がそこにあった。


次に、佐奈の順番が来た。彼女は少し震えながらも、勇気を出して前に立った。佐奈が選んだ詩は、夜の静けさをテーマにしたものだった。彼女は緊張で声が震えていたが、詩を読み進めるうちに、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「夜の呼吸」


夜が深まると、世界は静かになる

その静けさの中で、私の心もまた

静かに息をしている


夜は優しい、けれども冷たい

その間にある感情を、私は感じる


夜の呼吸に耳を澄ませば

私はまた、今日という日を思い出す


佐奈が読み終えると、しばらくの静寂が流れた。その後、麗美が真っ先に拍手を送り、それに続いて部員全員が温かい拍手を送った。


「すごくよかったよ、佐奈ちゃん。最初は緊張してたけど、詩の内容がとても繊細で、静けさがすごく伝わってきた」

千草が感想を伝えると、佐奈は少し照れたように微笑んだ。


「ありがとう…まだ緊張しちゃうけど、少しだけ自信が持てたよ」


「大丈夫、大成功だよ!発表会ではもっと自分の詩を伝えることに集中できると思う」

健太も励ましの言葉をかけた。


こうしてリハーサルを重ね、部員たちは少しずつ自信を持ち始めた。詩を声に出して伝えること、それは言葉だけでなく、感情や思いも一緒に届ける特別な体験だった。


いよいよ、発表会の日が近づいてきた。千草も、麗美も、佐奈も、それぞれの思いを詩に込めて、みんなに伝える準備が整ってきていた。緊張はあったが、仲間たちと一緒なら乗り越えられる。発表会で詩を通じて、また新たな絆が生まれることを千草は感じていた。


発表会当日、どんな感動が待っているのか、部員たちは期待と少しの不安を胸に抱えながら、日々を過ごしていた。

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