第13話 仲間たちの詩、個性の違い

文化祭が終わり、ポエムの会の同人誌も大成功を収めた。千草は達成感を感じながらも、ふと仲間たちが書く詩について考えることが増えていた。それぞれの詩には個性があり、書き手の心がそのまま表れているように思えたからだ。


ある日、部活が終わった後、千草は部室に残って、部員たちの詩が載った同人誌をもう一度読み返していた。詩の世界はどれも異なり、その一つ一つが仲間たちの内面を映し出していた。


「麗美ちゃんの詩は、やっぱり優しさがにじみ出てるな…」


麗美の詩は、どこか柔らかく、読む人の心を包み込むような温かさがあった。彼女の詩を読むと、日常の何気ない瞬間が大切に思えてくる。麗美が書いた詩は、普段の彼女そのものだった。


「一瞬の優しさ」


風が頬を撫でる瞬間

何かが心に触れる


優しさは、目に見えないけれど

それは確かに存在している


一瞬の優しさが、私を包み込む

見過ごしてしまいそうなその瞬間を

私は大切にしたい


「麗美ちゃんらしい詩だよね…」

千草は独り言のように呟きながら、麗美が詩に込めた温かい気持ちを噛みしめた。


次にページをめくると、健太の詩が目に入った。健太の詩は、いつも力強く、前向きなエネルギーに満ちていた。彼の詩を読むと、元気をもらえるし、どんな困難にも立ち向かう力が湧いてくるような気がする。


「未来を掴む手」


遠くにある未来は、まだ見えない

でも、その手は確かに存在している


今は届かなくても

一歩ずつ進めば、その手に触れられる


未来は、諦めない限り手の届く場所にある

だから、私たちは歩み続ける

どんなに険しい道でも


「健太くんらしい…すごく力強くて、読んでいると元気が出る詩だ」

千草は感心しながらページを閉じた。彼の詩には、彼自身が持つ前向きな姿勢とリーダーシップが詰まっている。部長として、いつも仲間を引っ張ってくれる健太らしい詩だった。


次に千草が手に取ったのは、佐奈の詩だった。佐奈の詩はまだ短く、シンプルな言葉が並んでいたが、そこには繊細な感情がしっかりと詰まっていた。佐奈は普段あまり自分の気持ちを言葉にすることが得意ではないが、詩の中ではその心がしっかりと表現されていた。


「夜の静けさ」


静かな夜が訪れると

私の心も、静かになる


何かを言いたいけれど

言葉が見つからない時

夜の静けさが、私の声になる


「佐奈ちゃんの詩、シンプルだけどすごく深いな…」

千草は佐奈の詩を読みながら、彼女の繊細な心の動きを感じ取った。佐奈はあまり多くを語らないが、詩を書くことで自分の中にある感情を少しずつ外に出すことができるのだろう。


そして最後に、千草は自分の詩を再び読み返した。仲間たちの詩と比べると、自分の詩はどうしても不安定に思えた。どこか自分を押し殺してしまっているような気がして、他の人たちと比べて劣っているのではないかという気持ちが心の中に広がった。


「私の詩って、どうなんだろう…」

千草は少し落ち込みながら、自分の詩に目を通した。詩を書いているときは純粋に自分の感情を表現していたつもりだったが、他の人たちの作品を読むと、自分の詩がどこか弱々しく感じられた。


そのとき、部室に麗美が戻ってきた。


「千草ちゃん、まだいたんだね。どうしたの?」


「ちょっとみんなの詩を読み返してて…みんなの詩がすごく個性があって、どれも素敵だなって思ったの。でも、私の詩だけなんだか弱い気がして…」


千草は本音を打ち明けた。麗美はそんな彼女を見つめて、優しく微笑んだ。


「千草ちゃんの詩は、千草ちゃんらしいよ。そんな風に思わなくていいんだよ」


「でも…」


「詩は誰かと比べるものじゃなくて、自分の心を表現するものだから。それに、千草ちゃんの詩はいつも心の中の奥深い部分を表現していて、私は大好きだよ。たくさんの感情を丁寧に言葉にしているのが伝わってくるもん」


麗美の言葉に、千草は少しずつ自信を取り戻し始めた。彼女は自分の詩が仲間たちと同じように価値があるということを、少しずつ理解し始めた。


「ありがとう、麗美ちゃん。私も、もっと自分の詩を大事にしていこうかな」


「そうだよ。千草ちゃんの詩は、千草ちゃんにしか書けないものだから、それを大事にしてね」


二人は笑顔を交わし、千草は自分の詩が持つ価値を再確認した。詩は誰かと比べるものではなく、自分を表現するための手段なのだと改めて気づいた。


その日、千草は仲間たちの詩の個性を尊重しながら、自分自身の詩にも自信を持つことができるようになった。ポエムの会は、ただ詩を書く場所ではなく、互いの心を理解し、成長していくための大切な居場所であることを、改めて感じたのだった。

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