第12話 千草、初めての同人誌発行

ポエムの会の同人誌制作がいよいよ大詰めを迎えていた。編集作業もほぼ終わり、表紙デザインも完成した。部員たちは、少し緊張しながらも同人誌の仕上がりを心待ちにしていた。


「ついに同人誌が完成するんだね」

千草は、部室のテーブルに広げられた原稿を見つめながら呟いた。部員全員の詩が詰まったこの本は、彼女にとっても初めての大きな挑戦だった。


「もうすぐ印刷所から届くよ。完成した本を手にするのが楽しみだな」

健太は、確認用のリストを見ながら言った。部長として、今回の同人誌発行に向けてずっとリーダーシップを発揮してきた。


「私もドキドキしてる。自分の詩が本になるなんて、まだ信じられない気分」

麗美が笑顔で続ける。彼女がデザインした表紙には、島の風景が描かれており、海と空の間に風が吹き抜ける様子が優しく表現されていた。


千草は、自分の詩が本の中に収められていることを考えると、嬉しさと少しの不安が入り混じった感覚に襲われた。詩を書いているときは、自分自身の心に向き合う作業だったが、それを本という形で誰かに見てもらうというのは、また違った緊張感があった。


「みんなの詩が一冊の本になるって、なんだかすごいよね」

佐奈が静かに言った。彼女もまた、最初は不安そうにしていたが、今では自分の詩を本に載せることに対して自信を持ち始めていた。


「確かにね。今まで書いてきた詩が、本という形で誰かに読まれるのは特別だよ。だけど、それって素敵なことでもあると思う」

千草は、佐奈の言葉に同意しながら答えた。自分の心を言葉にして、他の人に届ける。そんな詩の力を、彼女はこのポエムの会で学んできたのだ。


数日後、ついに同人誌が印刷所から届いた。放課後、ポエムの会の部室に集まった部員たちは、箱に詰められた同人誌を手に取った。


「できたよ!みんな、これが私たちの初めての同人誌だ!」

健太が興奮気味に箱を開け、最初の一冊を手にした。表紙のデザインは、美しく印刷され、鮮やかな色彩が目を引いた。


「わぁ、すごい…本当にできたんだ!」

麗美が驚いたようにその本を手に取り、ページをめくった。自分の詩が印刷されているのを見て、彼女は思わず笑顔をこぼした。


千草もその同人誌を手に取った。手触りやページの質感、そして自分の詩がきちんと印刷されているのを確認し、彼女の胸に達成感が広がった。


「これが私たちの詩の集大成だね…」

千草は、自分の詩が載っているページを見つめながら呟いた。詩を書くこと、それを本にすること、そしてそれを誰かに読んでもらうこと。その全てが、一冊の本の中に詰まっていることを感じた。


「この本が、たくさんの人に読まれるといいな」

佐奈が優しく言う。


「きっと読まれるよ。私たちの詩は、みんなそれぞれ違っていて、どれも素敵だからね」

千草が励ましの言葉をかけると、佐奈は微笑んだ。


その後、ポエムの会は島の文化祭で同人誌を販売する準備に取りかかった。文化祭では、地元の人たちも多く集まり、地域のイベントとして盛り上がることが予想されていた。


「同人誌、何冊売れるかな?」

麗美が少し不安そうに尋ねると、健太が力強く答えた。


「たくさんの人に手に取ってもらえるように頑張ろう!詩を通じて、僕たちの思いが届けば、それだけで大成功だよ」


文化祭当日、ポエムの会のブースには、たくさんの来場者が訪れた。地元の人々や他の生徒たちが、同人誌を興味深そうに手に取って読んでいた。


「これは、君たちが書いた詩なのかい?」

一人の来場者が健太に尋ねると、健太は笑顔で答えた。


「そうです。ポエムの会の部員全員で作りました。ぜひ読んでみてください!」


千草も、自分の詩が誰かに読まれている光景を見て、心の中に何か温かいものを感じた。自分の言葉が他人に届く瞬間を目の当たりにし、詩を書く意味を改めて実感した。


文化祭が終わる頃、ポエムの会の同人誌は予想以上に多くの人々に手に取られ、部員たちは達成感に満ち溢れていた。


「こんなにたくさんの人に読んでもらえるなんて思わなかった!」

佐奈が嬉しそうに言った。


「本当だね。詩って、やっぱり人とつながる力があるんだな」

千草も同じく感動していた。詩を書くことを通じて感じた絆が、また一つ強くなった瞬間だった。


この経験は、千草にとってもポエムの会にとっても大きな成長の機会だった。同人誌を通して自分たちの詩が誰かに届く喜びを知り、彼女たちはこれからも詩を書き続けるだろう。

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