第9話 ポエムの会の新メンバー

ポエムの会が同人誌の制作を進めている最中、部室のドアが軽くノックされた。部員たちが振り返ると、見知らぬ生徒が立っていた。少し背が低く、短めの髪が印象的な彼女は、何かを迷っているような表情を浮かべている。


「こんにちは、何か用かな?」部長の健太が優しく声をかけた。


「あの、すみません。私は佐奈って言います。ポエムの会に興味があって、少し見学させてもらってもいいでしょうか?」

彼女は少し緊張している様子だったが、勇気を出して言葉を紡いだ。


「もちろん、歓迎するよ!今日はちょうど同人誌の編集作業をしているんだけど、詩を書いているのかな?」

健太が笑顔で答えると、佐奈は少し恥ずかしそうに頷いた。


「はい、実はずっと一人で詩を書いていたんですけど、誰かに見せたことがなくて…でも、このポエムの会の噂を聞いて、私も詩をみんなと共有できたらって思って…」

彼女の声は小さかったが、千草はその言葉に心を打たれた。かつて自分も同じように、詩を書くことに対して不安を抱えていたことを思い出した。


「私も最初はそうだったよ」

千草は笑顔で佐奈に声をかけた。「一人で詩を書くのって楽しいけど、みんなと詩を共有すると、もっと楽しくなるんだ。私も入ったばかりだから、一緒に頑張ろう!」


佐奈はその言葉に少し驚いたような顔をしたが、次第に表情が和らぎ、ほっとした様子で千草に微笑んだ。


「ありがとう…それなら、私もここで頑張ってみたいです」


その瞬間、ポエムの会に新しい風が吹き込んだような気がした。部員たちは佐奈を温かく迎え入れ、彼女の自己紹介が始まった。


「私は、詩を書くのが好きで、昔からノートにこっそり書いていました。風景や自分の気持ちを言葉にするのが好きで…でも、誰かに見せるのは怖くて、ずっと自分の中に留めていたんです。でも、ポエムの会でみんなと詩を共有できるのが素敵だなって思って…」


佐奈が自分のことを話しているとき、部員たちは興味深そうに耳を傾けていた。特に、千草は彼女の話に共感を覚えていた。詩を書くことは、自分の心をさらけ出すような行為だ。だからこそ、最初は誰かに見せることが怖い。でも、それを乗り越えた先には、詩を通じて深いつながりを得られるということを、千草は実感していた。


「佐奈ちゃん、もしよかったら、今書いている詩を私たちに聞かせてくれる?」

健太がそう提案すると、佐奈は一瞬ためらったが、ゆっくりとカバンからノートを取り出した。


「まだ未完成なんですけど…」

彼女は少し緊張した様子で、ノートを開き、書きかけの詩を読み始めた。


「静かな夜の風」


静かな夜の風が吹く

私の心にささやく声

耳をすますと、何かが聞こえる

でも、それは遠い昔の記憶


風は優しく、時には冷たい

その間にある私の感情もまた

優しさと冷たさの間に揺れている


夜の風は語り続ける

私が忘れていた大切なものを

でも、風の中に消えてしまう前に

私はその言葉を心に刻みたい


読み終わったあと、部室は静かだった。佐奈は心配そうに周りを見回したが、すぐに麗美が拍手をし、他の部員たちもそれに続いた。


「素敵だよ、佐奈ちゃん!」麗美が真っ先に声をかけた。「夜の風と自分の感情を重ねる感じがすごくいいよ。優しさと冷たさって、まさに風みたいだね」


「本当に、心に響く詩だね」健太も感心した様子で言った。「佐奈ちゃんの詩には、繊細な感受性がある。これからもどんどん書いてみんなに聞かせてほしい」


佐奈は驚きと喜びが入り混じった表情で頬を赤くしながら、「ありがとうございます…」と小さな声で言った。


「佐奈ちゃん、これから一緒に頑張ろうね!」千草が明るく言うと、佐奈は笑顔で頷いた。


こうして、ポエムの会に新しい仲間が加わり、部活はますます活気づいていった。同人誌の制作も順調に進み、佐奈も積極的に加わって、みんなで力を合わせて作品を作り上げていく。


ポエムの会にとって、新しい風が吹いた日。佐奈という新しい仲間と共に、詩を通じたさらなる交流と創作の日々が、これから始まるのだった。

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