第8話 麗美の悩み
同人誌の制作が順調に進んでいたある日、部活が終わったあと、千草は部室を出るときに、何かが気になって後ろを振り返った。いつも元気で明るい麗美が、今日は少し様子が違うように見えた。いつもなら活発に部員たちと話したり、楽しそうに笑っていたのに、今日は何か元気がないように感じた。
「麗美ちゃん、大丈夫?」
千草は心配そうに声をかけた。麗美は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑んでみせた。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと疲れちゃっただけ」
「そう…でも、なんかいつもと違う気がして」
千草は麗美が何かを抱えているのではないかと感じたが、それ以上は追及しなかった。二人はそのまま校門を出て、いつもの帰り道を歩いていた。夕暮れの空が赤く染まり、島の静かな風景が広がっていたが、どこか物寂しさを感じる帰り道だった。
「ねえ、千草ちゃん」
突然、麗美が口を開いた。彼女の声はいつもの明るいトーンとは違い、少し沈んだものだった。
「私、最近ちょっと悩んでるんだ…」
千草は驚きながらも、じっと耳を傾けた。麗美が自分から悩みを打ち明けるなんて、今までなかったことだ。
「悩んでることって…?」
「実はね、ポエムを書くことが前よりも難しく感じるようになっちゃって。何を書いても、しっくりこないというか、自分の気持ちをうまく表現できない気がしてるの」
千草は静かに頷いた。麗美の悩みは理解できるような気がした。詩を書くということは、心を開いて自分の内面を表現することだ。それがうまくいかないと、詩はどこか不完全に感じてしまう。千草自身も、詩を書くことに迷いを感じることがあった。
「詩を書くのが好きだけど、最近はプレッシャーを感じるんだ。同人誌を作るって決まってから、みんなの期待に応えなきゃって思うと、ますます言葉が出てこなくなっちゃって…」
麗美は、心の中に積もっていた感情を、少しずつ千草に打ち明けていった。
「そうだったんだ…麗美ちゃんはいつも元気で楽しそうだから、そんな風に悩んでるなんて思わなかった」
「うん、あんまり人には言わないんだけどね。でも千草ちゃんには話せる気がして…」
千草は、麗美が自分に心を開いてくれたことが嬉しかった。いつも元気で明るい麗美が、自分と同じように悩んでいることを知り、より一層親しみを感じた。
「私も、詩を書くのがうまくいかないとき、どうしていいかわからなくなることがあるよ。言葉が出てこないときって、無理に書こうとすると逆効果なんだよね」
千草は自分の経験を話しながら、麗美の気持ちに寄り添おうとした。
「そうかもね…千草ちゃんはどうやって乗り越えてるの?」
「私は、無理に書こうとしないで、少し休んだり、風景を見たりして、気分が落ち着くのを待つことが多いかな。それでも、詩を書くのを諦めないようにしてるんだ」
千草の言葉に、麗美はじっと耳を傾けていた。そして、少しずつ元気を取り戻したように見えた。
「ありがとう、千草ちゃん。少し気持ちが楽になったよ。焦らずに、自分のペースで書いていこうと思う」
「そうだよ、麗美ちゃんの詩は素敵だから、無理しなくても大丈夫。自分が感じたことを大切にしてね」
二人はそのまま、ゆっくりと帰り道を歩き続けた。島の静かな夕暮れの中で、千草と麗美は言葉にならない感情を共有し、心の奥底でつながりを感じていた。
それから数日後、麗美は元気を取り戻し、再び詩を書く楽しさを感じ始めたようだった。彼女の悩みは完全には解決したわけではなかったが、千草との会話がきっかけで、少しずつ前向きになれたのだ。
ポエムの会では、同人誌の制作がいよいよ佳境に入り、部員たちは最後の仕上げに集中していた。千草は、麗美が再び楽しそうに詩を書いている姿を見て、ほっとした気持ちになった。
友情と詩を通じて、二人の絆はますます深まっていく。これからも一緒に詩を書き続け、悩みや喜びを共有しながら成長していくことを、千草は心の中で強く感じていた。
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