第7話 同人誌作りの第一歩
文化祭での発表会が大成功に終わったあと、ポエムの会はさらなる活動に向けて新たな目標を掲げることにした。それは、これまで温めていた計画――「同人誌の発行」だった。部員たちの詩を集めて、一冊の本にまとめる。同人誌として発行し、島のイベントで販売することが次の大きな挑戦だった。
放課後、部室に集まったメンバーたちは、部長の健太から具体的な話を聞いていた。
「みんな、文化祭の朗読会は本当にお疲れ様。みんなの詩がたくさんの人に届いたと思うよ。そして次のステップとして、ポエムの会で初めての同人誌を作りたいと思ってるんだ。部員全員の作品を載せて、一冊の本にしよう!」
健太の言葉に、部員たちは目を輝かせた。自分たちの詩が本という形になり、それが読者の手に渡るというのは、とても魅力的なアイデアだった。千草も、心の中で興奮を抑えきれなかった。自分が書いた詩が、本の中に収められるなんて夢のような話だ。
「どんな詩を載せるか決めなくちゃね」麗美が楽しそうに言った。「それに、デザインとかレイアウトも自分たちでやらないと」
「そうそう、同人誌はただ詩を集めるだけじゃなくて、表紙やレイアウト、編集まで全部自分たちで作り上げるんだ。だからこそ、自由に表現できるのが面白いんだよね」健太が続ける。
千草はその言葉を聞いて、少し緊張も感じた。同人誌を作るというのは思った以上に大変な作業のようだったが、それ以上にワクワクする気持ちが勝っていた。
「まずは、みんなが載せたい詩を一つずつ選んでいこう。既に書いたものでもいいし、新たに書いてもいい。自分らしい詩を選んでね」と健太が提案すると、部員たちは早速それぞれの詩集やノートを開き始めた。
千草も、自分のノートを広げ、今まで書いてきた詩を眺めていた。彼女には、いくつかお気に入りの詩があったが、その中でも特に心に残っているものがあった。それは、島での新しい生活に慣れ始めた頃に書いた、自然と心のつながりを表現した詩だった。
「海と空の間に」
海と空の間には
何があるのだろう
目には見えないけれど
風が語りかけてくる
優しくも力強い、その言葉
空が青く広がる日は
私の心も、どこか軽やかに
波が寄せる日は
私の心も、静かに応える
海と空の間で
私はひとり、風を感じている
この詩を載せよう、と千草は心に決めた。島での静かな日々と、自分自身の内なる感情を重ね合わせたこの詩は、彼女にとって大切な一篇だった。
「千草ちゃん、その詩いいね!」麗美がノートを覗き込みながら言った。「海と空の間に何かがあるって考え方、すごく素敵だよ」
「ありがとう、これを同人誌に載せたいと思ってるんだ」
千草は少し恥ずかしそうに答えたが、麗美の言葉に自信が湧いてきた。
他の部員たちも、それぞれ自分の詩を選び、次々と健太に提出していった。健太はそれをまとめ、同人誌の構成を考えながら編集作業に取りかかった。表紙のデザインは、絵が得意な麗美が担当することになり、彼女は早速アイデアを練り始めた。
「表紙は、島の風景をモチーフにしようと思ってるんだ。海と空、そして風…みんなの詩に共通しているテーマがあるから、それを表現したいんだよね」
麗美の情熱的な言葉に、千草はますます楽しみになった。同人誌作りは初めての経験だが、みんなで一つの作品を作り上げるということが、彼女にとっては何よりもワクワクする出来事だった。
同人誌作りは着々と進み、少しずつ形になっていった。詩を集めてレイアウトを決め、表紙をデザインし、印刷所に発注する準備も整った。千草たちはその過程の一つ一つに関わり、自分たちの手で本を作るということが、いかに楽しいかを実感していた。
「もうすぐ完成だね」千草は、表紙のデザインを見ながら呟いた。
「うん、みんなで作った本だから、完成が楽しみだよね」麗美も笑顔で答えた。
こうして、ポエムの会の初めての同人誌は、少しずつ現実のものとなっていった。千草にとっても、これは新たな挑戦であり、詩を通じて仲間と一緒に何かを作り上げる楽しさを味わう貴重な経験だった。
そして、完成した同人誌が手元に届く日が、近づいていた。
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